湿 地 植 物 概 説
Outline of water plants】Vol.1 湿地の植物たち

〜自生形態の嘘と真実〜

chapter1 湿地植物の自生形態

一般的に「水草」と呼ばれる植物はAからDまでの幅広い自生形態を持っています。
アクアリウムで水槽に入れる外国産の「水草」もA、Bだけではなく、C、Dの自生形態である植物も含まれると思われます。「思われます」というのは確信はありながらも自分ですべて確認したわけではないので謙虚な表現で(^^;

とは言え、マレーシアで見たロタラなどは水中に余裕があってもすべて水上に葉を展開していましたので、「水草」から受けるイメージと異なる自生形態を持つ「水草」は数多いはずです。意外なことに水中育成が難しいクリプトコリネのある種類が現地では小川の水中でたなびいている写真も見たことがあります。育成した経験やイメージで語るよりも自分で確認することが重要ですね。

オランダプラントという「水草」は日本のミズネコノオの地域変種という説もあるそうですが、ミズネコノオは田んぼで良く見ていますし、水槽に入れればやや気難しい「水草」として維持可能です。ミズネコノオは水が落ちた水田で開花・結実しますのでDですね。ただ、完全な陸上植物ではなく水田の高い地下水面が生育を可能にしていると思われるふしがあります。
それは似たような水田でもミズネコノオが出る水田が極端に限られることで、外見的差異が感じられない水田間には近くに川やため池があるなど地下水位の相違ぐらいしか条件の違いが考えられないためです。

水田雑草の多くは稲刈後に耕起することで発芽率が高くなります。この現象は雑草の種子が耕起することで、地下水位と水田土壌の保水力によって適度の水分が常在する土中に入り込むため、と考えられています。
ただ、完全な湛水状態では過度の水分と、水田表層に出来る「トロトロ層」(イトミミズの排泄物による土壌)による光と酸素の遮断により発芽しにくい現象もあります。この二つを組み合わせた「不耕起冬季湛水」という水田管理手法があります。詳しくは「稲と雑草と白鳥と人間と」をご参照下さい。

どちらにしてもミズネコノオは水田に自生が寄った「湿地植物」であることには間違いありません。自生には湿った地面があれば充分で、水槽に入れれば「水草」になります。ただし開花・結実は気中でしか出来ません。このような特徴を持った「水草」が完全沈水植物と同一に語られているということです。

湿地植物が期せずして水中に入った際に「水中葉」に草体を変化させ生き延びる、これは結構例が多く、この状態を「水草」と呼称する場合が多いのです。ただし、ミズネコノオは一年草ですし、世代交代のために気中で開花・結実させなければなりませんので、あくまで水中での姿は緊急避難と考えるべきなのです。この点を植物の生活史の観点から考えてみました。

生活の場 A 水面 B 水中 C 水際(抽水) D 陸上(湿地)
1 浮遊植物 ウキクサ、アオウキクサ、サンショウモ、アカウキクサ、イチョウウキゴケ マツモ、ヒンジモ、タヌキモ、カヅノゴケ イチョウウキゴケ、カヅノゴケ
2 浮葉植物 アサザ、ガガブタ、トチカガミ、ヒルムシロ、ホソバミズヒキモ、コウホネ、ハス ヒルムシロ、ササバモ、コウホネ アサザ、コウホネ アサザ、ヒルムシロ、ササバモ
3 沈水植物 クロモ、マツモ、エビモ、リュウノヒゲモ、オオトリゲモ、ヒロハトリゲモ、イバラモ
4 抽水植物 エゾノミズタデ ヤナギタデ、キクモ、ミズユキノシタ ヤナギタデ、ヤノネグサ、サクラタデ、ヌマトラノオ、ハッカ、ミズユキノシタ ヤナギタデ、ヤノネグサ、サクラタデ、ヌマトラノオ、ハッカ、ミズネコノオ、ミズユキノシタ

とりあえず自分の近所で見られた水生植物の自生形態をまとめてみましたが、さて、この分類のうちどこからどこまで「水草」と呼びましょうか?イメージとしてはB3、つまり沈水植物で水中にあるものでしょうか?
現実的にはそんなことが無いということは先に述べたミズネコノオの例でご理解頂けますね。私がミズネコノオを見るのはD4、湿った陸上(水田)の抽水植物(他に適当な表現がありませんのであえて)としてです。稲刈が終わった水田の固い地面にへばりついているスズメハコベやキクモも(不確かながら)クラッスラやアンブリアとして水草扱いされています。
「その場所にある時間」を問題としても本来浮草として認識されているイチョウウキゴケやサンショウモは湿った地面にへばり付いていたり、越冬のために胞子になったりしながら過ごす時間が圧倒的に長いので、本質は「浮草」ではなくなってしまいます。
生活史という観点でみれば、所謂「水草」の定義が非常に困難なことに気が付きます。ミソハギ(Lythrum anceps (Koehne) Makino)という湿地植物はもちろん抽水状態でも自生しますが、道端や畑地など乾燥した土地でも増殖しています。はなはだしきは園芸店で鉢植えとしても売っています。「水切れに注意」すれば鉢物として管理できるのです。
くどいようですが、ハンゲショウやラセンイ(イグサの変種と言われる)も同じように扱われています。これらは私の水辺の植物図鑑でも水生植物として扱っていますし、世間一般では「水草」カテゴリーに分類される植物でしょう。

画像はカチカチになった水田で開花する稲刈後の「水草」達です。左からシソクサ、ミズネコノオ、キカシグサ。アクアリウム風に言えばリムノフィラ、エウステラリス、ロタラです。この姿とこの呼称が結び付きますか?

chapter2 明確に定義できない水草

このようなグレーゾーンにある植物体について個人的には時間軸の概念を持ち込めばすっきり整理できるのではないか、と考えています。ただしいまだアイディアの段階なので、旧来の進化論諸説の観点から疑問を呈されても困ります。文字表現が非常に難しい事を認識しつつ申し上げれば、進化の方向性はエビジェネティクスで裏付けられ、意思を環境因子に求めれば進化論諸説を収斂できるのではないかと思います。
そちらは別途纏めるとして、少なくても現時点の水生植物の分類を生態学から一歩進め、育成学とも言うべきユニークな観点で整理した分類があります。同志carex氏の分類です。


引用 carex氏「水草小学校」水草学より
「水草」「水生植物」は「water plants」「aquatic plants」であり「水槽用植物」は「aquarium plants」である。よく「アクアリウムプランツ」というのを「水草」という意味で使ってきたのだが、「水槽用植物」という意味で使うべきだと思う。「水草」には「water plants」や「aquatic plants」という言葉があるのだから(中略)
洋書を見ると「aquarium plants」と「water plants」は明確に区別されている。例えばSainty, G.R., S.W.L. Jacobs(1994)の「Waterplants in Australia」では水槽では使えない抽水植物がたくさん書かれており、自生状態の写真が多い。対してKasselmann(2003)の「Aquarium Plants」やRataj, K. & Horeman, T.J(1977)の「Aquarium Plants」では使いにくい抽水植物はあまりなく、水槽で水中栽培している写真が豊富に使われる。このように海外で明確に区別されている「aquarium plants」と「water plants」を、日本でも区別した方がわかりやすいのではないか。(後略)


「育成学」としてこれ以上の分類は無いでしょう。水生植物が常態であり水槽で水中育成できる植物についても言及されており、水槽で育成できるかどうかという分類は矛盾なくすんなり理解できます。
自然下では水中のみでの生育が確認できないシロバナサクラタデやハンゲショウも水槽用植物、というカテゴリーにすんなり分類できます。同じタデ科イヌタデ属、自生地も同じ水生植物であるミゾソバがなぜ水中育成できないのか、というテーマは従来の科属による分類から生まれるものであり、それこそ個々の「種」の持つ遺伝子の違い、進化過程と進化の方向性を明らかにしなければ断定できない話となってしまいます。冒頭に道筋を書きましたが環境因子によるエビジェネティクスという見方は「たぶん正解だと思うが証明が非常に困難」という類の話なので生きている間に明確にできるかどうかも覚束きません。
もちろんcarex氏が上げられている文献は洋書ながらアクアショップで販売する程度の「趣味の本」であり、学術的にオーソライズされたものではないではないか、と反論もあるでしょう。しかし、よく考えて頂きたいのですが、学術的にオーソライズされた植物の分類が度々変更されていることはご存知の通りですし、そもそも学術的な分類自体も「取り決め」に過ぎないのです。

chapter3 分類をさらに掘り下げる

さて、水槽で育成(水中育成)可能な植物を水槽用植物として育成家のための分類が可能になりましたが、問題は「育成可能」な水草でも難易度がある、ということなのです。この部分は様々な場所で自分の考え方を表明しましたが、表現力に乏しいため完全にご理解頂けていないようです。良い機会ですのでもう一度整理いたします。
経験上育成が難しいタイプの水槽用植物は3つのタイプに分類でき、対策できるものと出来ないもの(植物の生理の問題)があるのではないかと考えています。すべての水草が元気よく育つ理想的な環境なんてものは存在しません。そもそも私がこのような分野に興味を持つきっかけになったのはそこなのです。情報発信するプロ側もこの点非常に曖昧で、アクアリウム関連の文献には「二酸化炭素:多め、光量:中、水質:中硬水」なんてことが平気で書いてあります。その通り環境を用意すれば育つかと言うと違いますね。なにか別の要因があるはずで、調べれば調べるほど新たな事実が浮上し、既成の情報を疑う事から進歩が始まる典型的世界がアクアリウムなのだという思いを強くしました。
という訳で育成家として知りたい情報は次稿でまとめる予定です。

【欄外黒板】情報の独り歩き

水槽内では魚の残餌や排泄物から窒素やリンが供給されるのでカリが不足する、今更ですが凄い説です。おそらく水槽内の物質循環をすべて把握し、定量的に数値として示された説ではないでしょう。壊れたリービッヒ理論からの憶測なのでしょうね。
アクアリウムの世界は不思議な世界で、このような憶測情報が独り歩きするのみならず、明らかに窒素不足の白化現象に対して二価鉄やカリを添加するようなソリューションが横行しています。何回も書いていて飽きてきていますが、二価鉄やカリの過剰は植物に害なのです。じゃあどの程度が必要でどの程度以上が害なんだ、と言われそうですが、私は両方意識的に添加することなく長年水草水槽を維持してきました。いらないのです。散々書いてきますので両成分についての論評はとりあえずこれくらいで。

問題はなぜ得体の知れない情報が独り歩きするか、という事なのです。思い出話をさせて頂くと、アクアリウムを始めて間もない頃、どうしても水草が上手く育たない、どうしても藻類が増殖して見苦しくなるという時期を人並みに経験してきました。ある本には「フィルターを1サイズ大きくする」「照明が強すぎると苔が発生する」「餌の量が多いと窒素過多になり藻類が増殖する」とありました。
これらは自分で悩んで到達した結論からすべて誤り、と判断しました。フィルターを強化、ふむふむ成程!。しかしフィルターが強力になっても出てくるのは硝酸塩という窒素ですよね??ただでさえ弱い蛍光灯の光を落せば水草が弱りますよね??窒素は植物に必要な「多量元素」ですよね??
こういう事が堂々と少なからず金を払わなければならない書籍や雑誌に書いてあるのです。そしてその通り高価なフィルターや器具類、肥料や添加剤を購入し、それでも上手く行かないのは自分のスキルが足りないためと諦めているのです。こういう人って結構多いんじゃないかな。

育成難種は難種として、それ以前に情報に振り回されて自分で難しくしている場合も多々あるのでしょうね。アクアリウムで最も重要なスキルは「情報を取捨選択できるスキル」ではないのでしょうか。


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