湿 地 植 物 概 説
Outline of water plants】Vol.2 弱酸性環境概論

〜改題「水草はなぜ弱酸性で育つのか」〜

chapter0 最初に

湿地植物の水槽育成に於いて、育成家として知りたい情報の植物分類面からのアプローチ第一弾はアクアリウム理論初級編として知られる「弱酸性理論」の検証です。
すべての水草が弱酸性水質下で育成できるわけではありませんが、南米産を代表とする水草の多くが弱酸性環境でしか育成できないのも事実です。そこには何かしら理由があるはずで、単に「弱酸性が好き」というお手軽な理由で片付けられる問題ではありません。

という訳でこの記事は、このテーマについての話がaqua-volvoxの掲示板で話題となった際に私が皆さんのご発言趣旨を纏めて寄稿させて頂いた記事がベースとなっています。
その後、個人的な趣味として光合成や栄養吸収を主とする植物生理学の世界に足を踏み入れ、理解が進んだことや新たに推論ながら可能性が強くなった現象を加筆して再構成を行ったものが本文です。
尚、テーマの性格上、同一の観点から当サイト各記事中にすでに発表させて頂いた内容と重複します。あらかじめお断りさせて頂きます。


*画像は水槽内で水中化したアメリカアゼナ(Lindernia dubia (L.) Pennell var. major (L.) Pennell)。湿地植物、抽水植物の水中育成には高濃度のCO2が必要となる。CO2溶存量とpHは卵と鶏なのか?もう一点、忘れてはいけないKH。ミネラルは単に陽イオン交換で相対的にpHを下げる「敵役」で良いのか?この道筋で再検討すると、既存のアクア理論は理論とは言えない上っ面であることが見えてくる。


chapter1 見過ごされている事実

多くの種類の水草は弱酸性の水質で生育します。トニナなど南米産の水草はこの条件を外れるとまったく生育しないばかりか、枯死してしまいます。南米産の水草育成の絶対的な方法論として、底床にソイルを使用し二酸化炭素を添加する、というスタイルが確立されています。
周知の事実として「ソイルはイオン交換でMg、Caイオンを交換する(=KHが下がる)、炭酸塩硬度による緩衝作用が低くなるので二酸化炭素の添加で弱酸性の軟水環境を実現できる」という理屈がありますが、ではなぜ南米産を代表とする水草が弱酸性の軟水でしか育成出来ないのか、他の水草と何が違うのかという話はあまり議論されていないような気がします。この話のコア部分として、

低pH、低KHの水質は高pH、高KHと本質的に何が違うのか

という命題があります。実際問題としてミネラルとも称されるCa、Mg、特に植物体が吸収するイオン化した両物質は水草の生育上非常に重要です。同時に低pHをKHを下げることによって実現する・・・重要な物質が邪魔になるとは如何なる訳でしょうか?この点については本稿纏めの推論に譲るとして、pHの相違により2つの事象が異なることが明らかになっており、この事象を軸に最初の仮説を立ててみました。

(1)遊離炭酸の比率
(2)アンモニウムイオンの分離比率

すでにある程度説明が付いていることですが、せっかくですので再度解説いたします。(この部分、かなり他稿とかぶります)

chapter2 二つの事象についての検討 〜遊離炭酸について

遊離炭酸という言葉自体変な誤解をされ、誤った引用も見受けられますのでここで正確に記しておきます。もともとはレベルがほぼ均一な参加者の掲示板でN・Oさんが本テーマについての談話で「分かっている相手」に示唆を行うために使用した言葉で、CO2そのものとして位置付けられたものです。ここはコンテンツで文章表現を行う場合には実態を明確にしないと前述の状況となりますので、くどくなりますが記しておきます。

水中の炭酸は気体と同じCO2分子、水分子と結合した炭酸分子(H2CO3)、炭酸イオン(CO32-)、炭酸水素イオン(HCO3-)の4つの形態で存在し、前者2つを「遊離炭酸」と呼びます。基本的な考え方ですが、pHが6前後(弱酸性)では遊離炭酸が水中の全炭酸のほとんどを占め、逆に7以上(弱塩基性)ではごくわずかな比率となってしまいます。
水草に必要なのは光と二酸化炭素」この命題は真なのですが、この「二酸化炭素」はCO2に他なりません。水草育成に於いて特に問題となる「CO2」は弱酸性下で水溶している遊離炭酸であり、特に浸食性遊離炭酸と呼びます。単に「遊離炭酸」と呼んだ場合誤謬が大きいのは、弱塩基性で水溶する遊離炭酸もあるからです。この場合を従属性遊離炭酸と呼びます。

浸食性遊離炭酸と従属性遊離炭酸は非常に特徴的な影響があり、前者は浸食性という名の通り水道管を腐食させ、後者は配管内部に水垢(スケール)として付着します。前者は特に水道管に致命的影響を与えますので、浄水場では石灰による処理を施している場合もあるそうです。(詳細は後述します)この部分は非常に重要なので少し脱線します。
アクアリウムサイトを閲覧していると「水道水には豊富なCO2が含まれているので換水すると水草の光合成が活発になり気泡を付ける」という説があります。これには違和感があったので、以前実測し誤りであることを証明しましたが、正確な数値を失念してしまったので、おおよその話を再録します。
測定器具の環境により直接的な溶存二酸化炭素の測定が不可能であったため、都度校正したpHメーターとKH試薬で水温を25度に合わせた水槽水、水道水双方を測定しました。
・水槽水 pH6.5 KH2程度
・水道水 pH7.2 KH4程度
これを所謂「相関表」に照らし合わせてみます。

【pH/KH相関表】
pH
5.0 5.5 6.0 6.25 6.5 6.75 7.0 7.25 7.5 7.75 8.0 8.25
KH 1 347 108 34 19 11 6 3 2 1 1 0.3 0.2
2 669 209 66 37 21 12 7 4 2 1 0.7 0.4
3 981 308 97 55 31 17 10 5 3 2 1 0.5
4 1284 404 128 72 40 23 13 7 4 2 1.3 0.7
5 1581 498 157 88 50 28 16 9 5 3 1.6 0.9
6 1873 590 186 105 59 33 19 10 6 3 1.8 1
7 2159 681 215 121 68 38 21 12 7 4 2.1 1.2
8 2440 770 243 137 77 43 24 14 8 4 2.4 1.3
9 2718 858 271 152 86 48 27 15 9 5 2.7 1.5
10 2992 944 298 168 94 53 30 17 9 5 3 1.6
11 3262 1030 325 183 103 58 33 18 10 6 3.2 1.8
12 3529 1114 352 198 111 63 35 20 11 6 3.5 1.9
13 3793 1198 379 213 120 67 38 21 12 7 3.7 2.1
14 4054 1280 405 227 128 72 40 23 13 7 4 2.2
15 4312 1362 430 242 136 76 43 24 14 8 4.2 2.4
16 4568 1443 456 256 144 81 46 26 14 8 4.4 2.5
表中数値単位はCO2溶存量(mg/l)

実測データからCO2を添加している水槽水の方が大幅に二酸化炭素溶存量が多いことが分かります。我が家の水道水は季節に関係なくpH7.2〜7.4程度ですので年間通じてほぼ同じはずです。どちらにしても当然の帰結です。
蛇足ながら水道は加圧して水を送り出しているので溶存気体が飽和量以上に云々、という話もありましたが、浄水場勤務の友人には一笑されてしまいました(汗)。大気を巻き込むような圧力をかければ水の処理段階で除去した浸食性二酸化炭素を溶存させるようなものだそうです。除去しなければならない理由は前述の通りです。
また、この相関表から読み取れる事実は、pHとCO2溶存量に直接的に影響しているのはKH(炭酸塩硬度)だと言う事です。GH(総硬度)が重要だと難癖付けられたこともありますが(笑)、もちろん傾斜によってGHの高い環境ではKHも上がりますので間違いではありません。しかし、直接的に影響があるのはイオン化したミネラルなのです。
大幅脱線の締めとして、この状態の水道水(冬場は温水器を通して水温を調節します)を使用して換水しても気泡の発生量が増える理由を考えてみたいと思います。

「説」として溶存気体が飽和する、というものがあります。その説を標榜する方にはぜひ数値で示して欲しいものですが、アクアリウムの世界は「感覚的に物を言う」方が非常に多いのであきらめました。自分でやります(^^;
問題にしなければならない気体は酸素、二酸化炭素、窒素です。大気成分には他にもモロモロありますが誤差範疇なので問題にならないでしょう。二酸化炭素は上記の通り否定されます。また酸素はこちらに興味深い実験結果があり、やはり水道水の溶存量は少ない事が伺えます。こちらで紹介されている文献も読んでみましたが、別な意味でも興味深いのでぜひご一読下さい。(参考文献にあげておきます)
最後に残った窒素ですが、これは正直分かりません。窒素はすでに何度も述べている通り様々な存在形態があり、水槽を含む水域での生物活動によっても大きく左右されます。オウミアのNo.12では湖沼に於ける窒素の動きと酸素の関連が分かりやすく纏められています。水域の溶存気体は(下線部引用)湖水中の気体の供給源は空気ですから、空気中の存在比によって影響され(引用終了)とありますので、溶存気体の飽和という観点からは窒素が一番疑わしいのかも知れません。
東京都水道局の水質基準では問題とされている窒素は硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素だけなので、窒素総量の許容範囲は水質基準からも導き出せません。現時点では「限りなく疑わしい」というレベルで止めておきます。
水質基準を眺めて思った事ですが、水道水中には実に様々な物質が含まれています。水道管から純水が流れて来るわけではないので当然の話なのですが。このなかに植物体に必須と言われる元素も多数含まれています。もちろん光合成そのものには関係ありませんが、気泡が出る原因として水槽で消費してしまった元素が換水により供給され植物体が活性化することは十分考えられます。黎明期のアクアリウムで「炭酸水を水槽に入れたら気泡が出た」という話がありますが、炭酸水はCO2が溶存しているのは当然ながらベースとなっている水は「ミネラル水」であることも考える必要があるのです。

大幅脱線はここまで、本題に戻ります。浸食性遊離炭酸が弱酸性下で存在することにより、仮説その1です。


(仮説1)
トニナや南米水草の多くは光合成を浸食性遊離炭酸に頼っており、浸食性遊離炭酸が多く存在するpH域が生育の条件となっている。浸食性遊離炭酸の利用が困難な中性、塩基性付近のpHでは光合成が出来ずに生育出来ない。
KHは、特にMgやCaの水草育成への阻害が確認されていない事実に鑑み、低KH(pHに対する緩衝作用が低い)が低pHとの相関関係において語られるに過ぎないものと思われる。


では逆に中性〜弱塩基性でよく生育する水草もあるわけですが、これらの水草の二酸化炭素調達手段はどうなっているのでしょうか?
北関東の湖沼、河川ではpH7.2〜7.5の水域にヒルムシロ科やトチカガミ科の水草が生育しています。また水草の豊富な琵琶湖もpH8程度との情報もあります。霞ヶ浦も多数の水草が生育していましたが、常陸川水門が締め切られるまでは汽水湖の色合いが濃い湖でした。(現在では別な要因で高いpH値を示します)
これらの水草は、葉の表面で炭酸イオン、炭酸水素イオンと電子の交換を行い、遊離炭酸を分離・吸収する能力をもっていると考えられます。また、別稿「車軸藻帯の喪失」にまとめてありますが、重炭酸や従属性遊離炭酸からCO2を分離して利用する水草が存在することも分かっています。
炭酸カルシウム(CaCO3)析出の過程が次の化学式で示されますが、山室先生にご教示頂いた、珊瑚の光合成と石灰化の同時進行、山崎先生にご教示いただいた、カイミジンコが車軸藻のまわりに集まる現象(カルシウムを求めて、と考えられる)はこの話に符合します。

CaCO3+CO2+H2O ⇔ Ca(HCO3)2

chapter3 2つの事象についての検討 〜アンモニウムについて

pHによって変化するもう一つの事象は窒素の分離比率です。アンモニアはpHと水温によってアンモニア(NH3)とアンモニウム(NH4+)に分離されますが、アンモニウムは水草が利用できる窒素となる、と言われています。この話は十分に補足しなければあらぬ誤解を生むと感じますので、再び限りなく脱線に近い遠回りをします。

「水草」は一括して水草と呼んでしまうと上記命題が成立しなくなります。現象面からですが、液肥が効かないと言われる水草、ピンチカットによって大きく調子を崩す水草が存在します。葉面吸収ですべての養分を吸収できればこのような現象はあり得ないことになります。
実はここが味噌というか、要諦部分なのですが、葉面吸収という概念は陸上植物の概念なのです。明確に解明されています。それはクチクラの隙間を利用した気孔によるものです。かたや水中葉の水草の場合はクチクラも気孔もありませんので、一般的表現としての葉面吸収は無い、ということになります。水中葉となった水草は水を絶え間なく吸収し、根本に送り続けています。酸素の供給のためです。この際に吸収した各種の栄養素を必要に応じて内部で吸収していることが考えられます。ただしこの部分は十分に解明されておらず(イオンチャンネルも然り)、断言するのであれば信頼すべきソースの提示が不可欠となります。残念ながら当該部分についての信頼すべき学説にはお目にかかった事がありません。
「葉面吸収」で解決できない上記「水草」は別な栄養吸収手段を持っていると考えるべきでしょう。ここを括って「水草の栄養吸収は〜」と気軽に断言してしまう方々の根拠を一度じっくり伺ってみたいものです。

一方アンモニアは皆さんよくご存知のように、硝化作用により最終的に硝酸塩となります。硝酸塩は水溶性は高いのですが水草が利用しにくい窒素であり、効率的な肥料とはなりません。アンモニアとアンモニウムの分離比率は弱塩基性ではアンモニアのほうが多く、中性付近で逆転し、弱酸性ではアンモニウムのほうが多くなる事が知られています。pH6台ではほぼアンモニアの分離がありません。(出典:正しい水の調べ方 ワーナーランバート)換水の主目的の一つは硝酸塩濃度を薄めることです。もし硝酸塩が有効な窒素であれば、かつミネラルや微量成分の供給で代替手段があれば、水草水槽での換水は無意味なことになります。
それ以前に、弱酸性の水草水槽に於けるフィルターの役割とは何なのか、根本から考える必要があると思います。濾材がどうの、バクテリアの付着面積がどうの、まったく意味を成さない話となります。
「水草」が養分を水中に求めると仮定し、かつその場合の水草を一括に語れると仮定した場合の仮説(上記に理由を述べた通り、仮説以上の意味は持ちません)として次の命題が想定できます。


(仮説2)
低pH域で生育する水草は窒素要求量が大きいのではないか。トニナが極端に肥料切れに弱いことからも推測可能。
またアクアリウム用肥料のうち、アンモニア態窒素を含む肥料が多くの難種と呼ばれる水草に好まれる事実も状況証拠として裏付けとなる。しかし、この説には多くの補完しなければならない理論上の瑕疵がある。


chapter4 第三の仮説 〜邪魔なはずのミネラル

実はこれまでの仮説二つは個人的には「そんな事もあるだろう」程度の内容と考えており、現在ではまったく重要視しておりません。ソイルの持つ「イオン交換」の意味をもう一歩踏み込んで考えると意外な事実が浮かび上がって来るためです。そしてその事実は条件を外れた環境で枯死して行く水草の姿に限りなくオーバーラップします。
ここからの話は今回の加筆訂正のコアで、ソイル底床に対する既存の理屈と逆の見方をした話です。オリジナルです。ソイル底床の「機能」については、一般に「イオン交換により水質を弱酸性に〜」と言われますが、実はここに大きな「疑義」があるのです。

pHが異なることによる水質の大きな違いは前述したように浸食性遊離炭酸の溶存とアンモニアの分離比率です。この2点を植物生理学的に「生長」に当てはめてみると、大磯水槽にトニナを植栽した際のような現象が非常に考えにくいことに気が付きます。
まず浸食性二酸化炭素ですが、pHに関係なく大気圧による溶け込みがあります。pHによって異なるのは存在形態ですが、従属性二酸化炭素と浸食性二酸化炭素には傾斜があり、「通常の」pH域つまり水槽環境ではどちらかが全く0ということはありません。直接的に言えば「光合成に必要なCO2が0ではなく足りない状態」なのです。この場合にはいきなり枯死する植物はなく、光合成生産物=エネルギーが足りなくなり生長が鈍化するのです。トニナの生長障害とは明らかに違います。
もう1点の窒素(アンンモニウム)ですが、これも同様。長期間の窒素不足ならいざ知らず、いきなり溶けるのは明らかに原因が異なるでしょう。まずは徒長などのステップが始まるはずです。植物体が組織を維持できない直接的かつ短期的な要因は中量・微量成分にあります。この点をソイルの持つ機能から考察しました。

【ソイルが持つ「機能」】
(1)基本的にソイルは土であるため、植物遺体由来で土中動物、微生物活動の結果による炭水化物・タンパク質・リグニン(高分子の繊維)等の有機物を豊富に含みます。ソイルの一部商品には有機酸を原料表示しているものもある程ですが、有機物分解に伴う土壌酸性化という普遍的な理論が水槽内でも発生し、水槽内を酸性に傾けます。
(2)ソイルの表面にはさまざまな陽イオンが吸着されていますが、よりイオン化傾向の高いマグネシウムイオン(Mg+)やカルシウムイオン(Ca+)が触れると陽イオン交換されます。両イオンが水中で減少すればpHが相対的に下がります。(酸性化)広く言われる団粒構造は単に陽イオン交換が行われる表面積が大きいということで、団粒構造自体がイオン交換を行うわけではありません。

ソイル登場以前から一部の先進的な育成家が実験的な導入で成果を収めていた赤玉土や焼赤玉土の底床は図らずも同じ理屈で水槽の弱酸性化がなされていたわけです。この2つの理屈をセットで考えなければいけない部分と分けて考えなければいけない部分があります。これが先に書かせて頂いた「疑義」なのです。
分けて考えなければならない部分はよく言われる「イオン交換による軟水化」です。こちらは簡単に言えばKHと溶存二酸化炭素によってpHが決るという相関表上の間接的な動きですが、このことから従来アップさせて頂いていたテキストではCO2と窒素肥料を弱酸性のファクターとして考えました。実は本質は第三の仮説にあり、これこそが「セットで考えなければいけない部分」かつ既存理論に対する「疑義」なのです。

弱酸性の水質でしか育成できない水草ですが、本来硬度物質であるカルシウムとマグネシウムは邪魔なはずです。しかしながら、それぞれ植物の中量成分、微量成分として必須のものでもあります。この矛盾は如何なるわけなのでしょうか。
カルシウムの大きな役割としては土壌酸度を調節する役割があげられますが、同時に生長に必要な細胞分裂、特に細根や新芽の形成のために不可欠のもので、欠乏すると生長点に障害が表現されます。

【カルシウム欠乏症の表現】
・草体の萎縮、新芽の小形化、黄化など
・生長点付近の褐色化、一部枯死など
植物が吸収可能なカルシウムは、土壌水分中のカルシウムイオンです。(ポイント1

マグネシウムは葉緑素を構成する不可欠の元素として重要です。マグネシウムの場合も植物に有効なものは置換性(イオン交換を行う性質)のものと言われています。

【マグネシウム欠乏症の表現】
・葉の黄化、白化が発生

土壌(底床)中に置換性のマグネシウムが少なく根からの吸収が十分ではない場合に上記症状が発生します。また蛇足ながらカリの過剰によって吸収が妨げられる場合にも発生します。(カリのぜいたく吸収)(ポイント2

さて、このポイント2つからの結論の前に私の以前の実験(と言うか育成環境)について触れておきます。
個人的にどうにもソイルセット初期の濁りとpHの不安定さが嫌いで、イオン交換によってCa+とMg+を吸着できれば結果は同じではないかと考え、自作の簡易軟水器を大磯水槽で回しておりました。これはフィルターの排水の一部を試験管などに導水し、なかにイオン交換樹脂を入れておくというものです。(pHの小まめな測定とイオン交換樹脂の交換・再生という作業が必要になりますが)
これである程度は南米産の水草も育成できましたが、同時に維持していたソイル水槽とは明らかに生長度合が違いました。と言うか、結局は底床肥料などを考えなければ維持できない状態でした。端的に言えばイオン交換樹脂を使った軟水器だけでは「大磯単独育成に比べて多少マシな程度」でした。このことから、順逆かつ現象面からの推理ですが次に述べる浸食性二酸化炭素、アンモニウムイオン以外の「第三のファクター」の存在を強く意識したわけです。
そして、南米産の水草が大磯水槽で枯死する姿がポイント1と2の複合表現であることは現象面から明らかです。成長点が白化または黄化し溶けます、比較的短期間で。素直に考えればCaとMgが欠乏しています。水中に多いはずの環境下で。この事は何を意味するのでしょうか。


(仮説3)
弱酸性下に支配される水草は陽イオン交換によって底床に吸収されたCa+、Mg+を積極的に利用している


以上を第三の仮説として提示させて頂きます。
この仮説が正しいとすると(個人的には確信していますが)南米産を代表とする弱酸性型の水草はCa+、Mg+の要求量が高い水草という事になります。植物生理学的には根からの吸収が主たる手段ですので、土壌中にという条件が付きます。
水質を弱酸性に保つためにソイルを使用するという方法論は結果が正解であって解釈は全くの誤り、ということになりませんか?南米産の水草を生長させるために土壌(底床)中にCa+、Mg+イオンを集めるためにソイルを使用するという見方が正しいのではないでしょうか。団粒構造が崩壊し、表面積が少なくなれば交換量が減少して生長に障害が出る=ソイルの交換という図式も見えると思います。
トニナやピンネイトが枯れる現象がカルシウム欠乏症やマグネシウム欠乏症に非常に近いイメージであることもこの仮説を補完できると思います。
「邪魔で除去しなければならない」という常識は実は「必要な場所に集める」という意味だった、と逆の見方になっていますが逆から見れば正解が出てくる場合も多々あるかと。

水草の育成家としての分類第一弾は弱酸性依存型水草についてでした。「弱酸性以外では枯れてしまうのでソイルを使いましょう」と一行で済む話も考えてみるとこれだけ(これ以上)の内容がありますよというお話でした。

【欄外黒板】商品情報開示義務

メーカーが製造する商品には様々な情報があります。デジカメなどは消費者が理論武装していますので、画素数、ISO感度、シャッタースピードなどの基本情報はもちろんのこと、センサーの種類やサイズ、ファインダー視野率など、かなり専門的なスペックまで公開されています。また最近ではPL法(製造物責任法)によって、使い方による被害の可能性までこと細かな情報公開が成されています。
かたや逆の意味で凄いのがアクアリウム用品。パッケージには様々な謳い文句が書いてありますが、本当の意味での情報はそれほど多くありません。60cm水槽で水草中心に育成したい、その時の器具は?非常にシンプルな問いにさえアクアリウムの製品群は答えていません。60cm水槽セットという製品があって、たしかに2灯式の蛍光灯や外部フィルターなどがセットされています。でも水草中心なら蛍光灯は4灯以上必要だしCO2の強制添加も必要です。セットを購入する多くが初心者、と考えれば肥料分を含んだソイルのセットは失敗の確率も高くなるでしょう。

ハードウェアの性能だけでは運用は表現できないでしょう。かくして今日もどこかの掲示板に初心者が質問スレッドを立てるわけです「60cmで水草中心に〜」。
度々引き合いに出して恐縮ですが、その点カメラのマニュアルは行き届いていますね。手元にCanonのEOS Kiss Digital Nのマニュアルがありますが、基本機能の他に「セルフタイマーで撮りたい」「花火を撮りたい」など目的別の撮影方法についてかなりのページをさいています。私はPCやプリンタのマニュアルは読みませんがカメラのマニュアルは良く読みます。これで初心者でもそれなりに写真が撮れるようになるのです。
アクアではそんなものが現在でも無いために聞くしかありません。ネット環境が無かった時代にはショップに通い詰め、試行錯誤を重ねて正しい方法論に辿りつくという、端から見ればアホのような迂遠な方法が正攻法でした。
もちろん現在はそれらしきサイトの掲示板に質問することが出来ます。しかし、自分の知識を披露したいだけの教えたがりや(結局知りたい事以上の話が多く訳分からない)必要以上にマナーが厳しく(挨拶はどうした、レスが遅い、聞き方が悪い)疲れてしまう場合も多々あります。考えれば初心者の障壁が高い趣味の世界だなぁと思います。

そんなアクア界のなかで一際製品情報が欠如している「肥料状製品」の話。
いわゆる「肥料」については主に農作物に使用するものであり安全性の観点から肥料取締法によって様々な規制があります。認可制ですので届出→認可の間時間がかかりますし費用もかかります。製品として開発するための研究費、製造にあたってのプラント設備などは言うに及びません。
これがアクアプランツという非常に小さな市場で可能なビジネスモデルでないことは明らかです。よく見られる「アクアリウム用の肥料は成分が分からないので園芸用を使う」と仰る気持は分からないではありませんが、本来営利を目的とする企業にボランティアを強いるようなものですね。もちろん肥料と呼称できないために「水草成長促進剤」などと表記されていますが、この手のモノを使用すれば「成長促進と書いてあるのに苔だらけで枯れたゾ」とメーカーに抗議することが可能です。園芸用では「園芸用で水槽内の使用は想定していません」で終わり、自己責任です。
それ以前に例え成分が分かったとしても二価鉄やカリへの必要以上の信仰を見るにつけ、果たして目的のために手段を選択できるユーザー層なのか、と考えてしまいます。悪く言えば成分が分かる肥料を使用しても加持祈祷と大差のない効果しか得られないユーザー層ではないかと思ってしまいます。
これはユーザー層が悪いわけではなく、必要な情報を開示していないメーカーの責任と、そのメーカーの広告料で成り立つアクア雑誌の責任ですね。個人のWebサイトでどんなやりとりや誤情報が飛び交おうと、非営利のWebサイトにその責を負わすことは到底不可能です。情報開示に関しては明確に受益者責任だと思います。

参考資料

【参考文献】
・植物生理学入門 著者 桜井 英博ほか 培風館
・正しい水の調べ方 ワーナーランバート
・アクア・エントゥ1〜15 シーゲル
・図解土壌の基礎知識 著者 前田正夫 松尾嘉郎 農山漁業文化協会
・新編湖沼調査法 西條八束・三田村緒佐武 講談社サイエンティフィック
・生でおいしい水道水 中本信忠 築地書館
・わかりやすい水処理設計 吉村 二三隆、北川 幹夫 栗田工業
・水処理技術絵とき基本用語 タクマ環境技術研究会
・水道水質基準ガイドブック 日本環境管理学会

【参考論文】
・遺伝8月号 湖沼環境保全における絶滅危惧藻類 −車軸藻類の役割ー 筑波大学 渡邊信
・田んぼの物理学 山形大学 粕渕辰昭


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