育 成 メ モ 育 成 理 論

Theory3】二酸化炭素添加概説<改訂新版>
〜難解ではあるが基本は簡単な挙動〜



公開 2005.3.19
改訂 2006.4.1
追記 2008.2.16

実は複雑な二酸化炭素


このテキストは2005.3.19に「育成の科学」に掲載した「反論二酸化炭素添加話」を改題、再編成、加筆したものです。

水槽での水草育成に於いて常識となっている二酸化炭素の添加。難しい理屈や能書きを垂れなくても添加と無添加の場合の植物の生育状態を比べてみればその効果は明らかです。また誰しも中学の生物レベルの知識として「植物は光と二酸化炭素と水から有機物を合成する」という基本的な光合成の原理を理解していると思います。
ところがこの「二酸化炭素」は他の物質の影響や水質との関わりに於いて実に複雑な側面を持っています。同じ量を異なる2つの水槽に添加しても全く同じ結果とはなりません。今回は育成のヒントとして主に水質との関わり、光合成との関わりの部分を軽く掘り下げてみたいと思います。一応掘り下げますが・・・結論は「植物の水中育成に於いて二酸化炭素添加が重要
」ですのでそれ以上求めない方は読む必要は全くありません。

二酸化炭素添加は水草を健康に成長させるため、という目的は広く認識されつつも基本的な理屈については遍く認知される、という訳ではないようです。アクアリウム系の掲示板で見られるやりとりです。

質問者「遊離炭酸は水中に溶けている二酸化炭素なので添加すればpHに関係なく増えるのではないか」
回答者「二酸化炭素は水中で遊離炭酸と炭酸水素イオンに分離し、比率はpHによって決まる」

*良く見られるやりとりですが内容を鑑み著作権法上の引用ではなくデフォルメした内容となっています。ありがちな例としてお考え下さい

私は質問者の言っている内容はほぼ正解であると考えます。水に二酸化炭素を添加すればpHに関係なく溶存量は増えます。増え方がpHによって左右されるだけです。その意味では「pHに関係なく増えます」。もちろん水草水槽の常識のpHの範囲ですが。
これに対し回答者は、その前段階つまり遊離炭酸(この場合、正しくは浸食性遊離炭酸)が水中に存在するに至る過程を回答しています。結果を聞いているのに原因を回答するという妙なやりとりになっています。水槽に二酸化炭素を添加した際の動きを整理してみます。

最初に二酸化炭素とは切っても切れない「pH」について。pHは水素イオン指数です。二酸化炭素の添加によって影響を受けます。ちなみに水中の水素イオン濃度はmol/L単位で示されますが、実際はn×10-nという非常に小さな量となります。このままでは分かりにくい概念となるため、1909年にデンマークのソレンセンが負の対数で表現したpHという表現を考案しました。
また蛇足ですがpHが何の略かという話ですが、

・JIS規格 pH(ピーエイチ)power Hydrogen
・ドイツ方式 PH(ペーハー)Potenz Hydrogenii

どちらも水素の「累乗」という意となります。実際の量を示しているわけではありません。それとさらに蛇足ですが、日本語のテキスト(本稿も含む)上でPHやペーハーという標記は相応しくありません。

本題に戻り、pHは水素イオンの「負の対数」ですから二酸化炭素を添加する=水素イオンが増えればpHは下がります。ただし、回答者の言っている事も間違いではありません。質問と回答が噛みあっていないだけです。実はこの回答の内容に水槽で植物を維持する上で考えなければならない重要な意味があります。

水槽の緩衝力


「緩衝力」または「緩衝作用」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。水槽では水質が急変しないために働く力として認識されていることと思いますが、実態はあるイオンなのです。
前項で触れた通り、二酸化炭素を常時添加すれば理論的にはどんどんpHが下がり、コーラのような炭酸水状態になってしまいます。もちろん水草水槽ですから水草が消費する分もありますし、大気に逃げる分も多いのでそうはなりません。実はここにもう一つ働いている力があります。アクアリウムでもお馴染みの「KH」(*1)という概念です。(重)炭酸塩硬度と称され、実質はイオン化したMg(マグネシウム)とCa(カルシウム)です。いわゆるミネラルですね。
水素イオンが増えればpHは下がる、つまり酸性に傾くことは前項に解説した通りですが、逆に水酸イオンが増加すれば塩基性に傾きます。これは水素イオンと水酸イオンが対となっているからです。簡単に言えば打ち消しあって、残った水素イオンの量がpHを決定するわけです。アクアリウムに置き換え、より平易に解説すると、ソイルの持つイオン交換特性によって水酸イオンの減少した水槽に二酸化炭素を添加すると5以下、とか異常なpH値を示すのはこの現象が原因です。逆に未処理の大磯砂を使うと砂中にあるCaが溶出し、水酸イオンが多い状態となりpHが落ちません。

*誤解のないように注記します。ソイルに関してはマグネシウムイオンとカルシウムイオンを陽イオン交換するだけではありません。あくまで陽イオン交換を行う、という意味です。従って連動する水素イオン以外に水質に対して大きな影響を持ちます。この指標をORP(酸化還元電位)と呼びますが、pHという容易に支配的な要素が変動する(水素イオンからリン酸など)指標よりも酸化、還元傾向を絶対的に示す指標となります。この部分とマグネシウムイオンの動態を把握しないとソイル底床の持つ意味は永久に理解できないと考えます。この部分は機会があれば稿をあらためます。

この動きを化学式で表現します(ここから化学の苦手な方には難しい話)

(1)CO2+H2O→H2CO3(二酸化炭素が水溶し炭酸をつくる反応)
(2)H2CO3→H++HCO32-(炭酸が水素イオン、炭酸水素イオンに解離する反応)

ここまでは二酸化炭素が水溶し、水素イオンと炭酸水素イオンが出来る過程です。この先が緩衝作用の内容となります。水槽に存在しているカルシウム分は炭酸カルシウム(CaCO3)です。この炭酸カルシウムが水中に次の形で水溶します。

(3)CaCO3→Ca2++CO32+(炭酸カルシウムがカルシウムイオンと炭酸イオンに分離)

この状態で二酸化炭素を添加、水素イオンが増えた状態となるとどうなるのでしょうか。理屈としてはpHが下がり水質は酸性側に傾くはずです。ところがここで炭酸イオンの出番となります。

(4)CO32++H+→HCO3-

水素イオンは炭酸水素イオンとなり水素イオンが減少=pHは下がらないことになります。これが緩衝作用です。もちろん二酸化炭素は日中間段無く添加しますので水素イオンは緩やかに増え、pHはやや下がります。しかし最初からイオン交換によってCaイオンを交換してしまうソイル底床を使用した場合のように急激に、大幅に下がることはありません。以上の変化を踏まえ、次は植物が利用する二酸化炭素の話です。

*pHは以上のように水素イオン指数ですが、市販のpH調整剤は水素イオンが入っているわけではありません。pHを性格付ける水素イオンの支配をリン酸支配に切り替えてコントロールを行うものです。上記注でも述べましたが、「弱酸性が必須の水草」はpHだけに拘ってpH降下剤を使っても育ちません。pHは意味の無い指標、と言っても良いかも知れません。(言い切りませんけど)
夜間にエアレーションしてCO2が逃げpHが上がっても問題ないのか、なんて質問も良く見かけますが、pHだけを考えた末の的外れの質問です。(これは言い切ります)ORPやマグネシウムイオンの動態が重要なのであって今風に言えば「そんなの関係ねぇ!」。

遊離炭酸とは


ここまで水槽に二酸化炭素を添加した際の水質の変化の一面を解説させて頂きました。実はこれまでは「前振り」の話で、植物が成長する上で必要となる二酸化炭素についての重要な話はここからです。
冒頭で「遊離炭酸」という言葉が出てまいりました。この言葉は一般名称として二酸化炭素そのものを指します。植物が光合成のために利用するCO2です。水槽に二酸化炭素を添加してもその全てが溶存二酸化炭素となるわけではない事はこれまで述べて来た通りです。しかし残ったCO2、つまり「遊離炭酸」という言葉が大きな誤解をされている場合を多々見かけます。
遊離炭酸には従属性遊離炭酸と浸食性遊離炭酸があります。水道局のHPなどに良く掲載されている話ですが、従属性遊離炭酸はスケール(水垢)の原因となり浸食性遊離炭酸は水道管の腐食の原因となります。この従属性遊離炭酸と浸食性遊離炭酸は安定的なものではなく、ある要因によって増減します。その動きを示したのが次の式です。

(5)CaCO3+CO2+H2O ⇔ Ca(HCO3)2

右辺にも左辺にも動かない状態を特に「カーボネイトバランス」と呼びますが、実際はある要因によって動いています。ある要因というのが前項(3)と(4)で述べた式の動きなのです。炭酸カルシウムがが存在する水中では添加した二酸化炭素はその溶解に使われ、従属性遊離炭酸になります。炭酸カルシウムを溶解してした後に残る遊離炭酸が侵食性遊離炭酸です。特殊な環境でない限り水中には両者が存在しますが存在比で水のpHが決定されます。
もう一度冒頭のやりとりの回答を思い出して欲しいのですが、
「二酸化炭素は水中で遊離炭酸と炭酸水素イオンに分離し、比率はpHによって決まる」
この話が過程を大幅に省略していることがご理解頂けると思います。また「比率はpHによって決まる」ではなく、比率がpHを決めるのでしょう。もう一点、以上によりpHとの関わりに於いて「遊離炭酸」という言葉を単独で使うのは誤謬が大きすぎると言えます。従属性遊離炭酸も「遊離炭酸」です。

水槽底床として普通の大磯砂は使い込む程に植物育成が容易になってきますが、砂中に混入している珊瑚片や貝殻片などのカルシウムが二酸化炭素の添加によって溶かされ、時間とともに炭酸カルシウムが失われて行く過程がご理解頂けたと思います。つまり浸食性遊離炭酸が多い水質に傾くわけです。
余談ですが2004年の夏に福島県の五色沼に行く機会がありました。一帯の湖沼群はpHが5以下の酸性水質ですがフトヒルムシロが繁茂していました。フトヒルムシロはこのような酸性水質の水域にあることで有名ですが、育成は非常に難しく通常の水草水槽や屋外睡蓮鉢ではすぐ枯れてします。逆に高硬度、弱塩基性の水質で成長するセキショウモなどもあります。pHや硬度(この場合はKHと考えて間違いないと思いますが)が違うと何が違うのでしょうか?
アンモニアの分離比率(当コンテンツ「窒素肥料概説」を参照)以外には、この遊離炭酸の存在形態が大きいと考えます。同じ事が南米産水草にも言えるのではないでしょうか。

2006年8月に、独立行政法人産業技術総合研究所の山室真澄先生からご教示頂いた、珊瑚の光合成と石灰化が同時進行するお話と「車軸藻」のページの森嶋先生にご教示いただいたシャジクモの周辺で石灰化が見られるお話はpHが高く従属性遊離炭酸が少ない水域で生育する植物の二酸化炭素調達手段について大きなインスパイアとなりました。
水槽に発生するスケール(白い落ちにくい物質)の大部分が炭酸カルシウムであることは以前の分析と理論付けで明らかと思われますが、これはCO2の添加と換水による人為的メカニズムによる析出です。炭酸カルシウム=石灰が自然界で析出されるとなれば、何物かが何らかの必要性があって(5)の式を動かしているのではないか、ということです。
推論ながらズバリ言ってしまえば、浸食性遊離炭酸(CO2)の調達が困難な高pH域に於いて生育する植物は、従属性遊離炭酸からCO2を取り出している、この結果水と石灰が残るのが、両先生に頂いた情報の裏付けではないかと云うことです。少なくても化学式はこの推論通りとなっています。
さらに、現在大気中のCO2濃度の増大が問題となり様々な取組が成されておりますが、植物の登場以降、地球のCO2濃度は大局的には減少してきています。この過程で(5)の式を植物体内で実現できる機能を獲得した進化があったのではないか、とも考えています。これら一連の話については稿を改めます。

光合成との関わり


光合成については生物の授業で習ったはずですが、他の多くの科目・内容同様にすっかり忘れています。忘れているうちに新たな理論も出現し、家庭や職場で光合成に関係ない生活を(大多数の方はそうだと思いますが^^;)しているので、妙な話が出て来ても思わず納得してしまったりします。
光合成に関して「妙な話」とは水槽育成に於いて光量の不足を補うために二酸化炭素を添加するという趣旨の話で実際にある掲示板で発言された話です。全くの誤りです。現役の学生さんや専門家も見ているでしょうに誰も指摘をしないのは冷笑されているのか、最新の理論であると思われているのか・・・どちらにしても怖い話ですね。
最初に簡単に分かる話から。ライトカーブという光量と二酸化炭素の消費量を示した表があります。暗く、二酸化炭素量も充分でない場合(補償点以下)では見かけ上、呼吸量が光合成による酸素放出量を上回ります。つり合う点が「補償点」です。これを超えて飽和に至るまで植物が使用する二酸化炭素量は光量に比例します。どちらかが過剰にあっても不足する方を補完しません。
なぜこのような現象となるのか、用語は少し難しいのですが、原理はいたって簡単です。光合成は炭素固定のためのエネルギーを得る段階とエネルギーを使って炭素固定をする、大きく二段階に分かれておりエネルギー量に見合う二酸化炭素しか消費しないからです。「原料と生産」に置き換えてみれば分かりやすいと思います。どんなに優れた工場でも仕入れた原料以上の生産は出来ません。
この「大きな二段階」は明反応、暗反応と呼ばれる事があります。光合成の化学式では便宜上同じ式に表現されています。

(6)6CO2+6H2O+光エネルギー → C6H12O6+6O2

この式のうち、水と光エネルギーから酸素を作る過程(式には表現されない水素エネルギーも生産する)が明反応であり、このエネルギーを使って二酸化炭素を吸収し糖と酸素を作るのが暗反応です。(発見者の名を取って「カルビン回路」または「カルビン−ベンソン回路」とも呼ばれます)連続的に起こる仕組のため同一の式に表現されていますが厳密に言えば、
光合成では二酸化炭素の吸収に先立ち酸素の放出が行われる
と言えます。ついでにトリビアですが、光合成から得るエネルギーと呼吸から得るエネルギーはまったく異なり、回路も別です。「昼は光合成、夜は呼吸をしている」これも誤りです。
植物は昼も夜も呼吸しており、光合成とはなんら関係ない(*2)

要するに二酸化炭素の添加、よく言われる「1秒1滴」などの量は光量との相関に於いて語られるべきであって、個々の水槽によって事情は全く違います。一つ言えることは「二酸化炭素を効率よく溶融させる」ことよりも「光量を増やす」方が問題解決の近道であるということです。(*3)

二酸化炭素はどこから来るか


根本的な問題として、水槽と水量も変わらない屋外睡蓮鉢では水槽育成で難種と言われる水草も良く育ちます。育つという事は太陽光という強烈な光源はもちろん大きな要素として、光に見合う二酸化炭素を調達しているはずです。
これもよく言われることですが「湧水起源の河川では二酸化炭素が多く溶け込んでいるために水草が良く育つ」という話があります。別な目的でわりと広範な地域で湧水のpHを測定しましたが、一様に「二酸化炭素が豊富に溶け込んでいる」と思われる弱酸性は示しませんでした。
では河川湖沼、屋外睡蓮鉢では二酸化炭素はどこから来るのでしょうか。現時点では二つの可能性が考えられます。

(1)二酸化炭素分圧
大気圧による溶け込み。これで充分であれば水槽も大気圧下にありますので強制添加の必要は無い事になります・・・が、現実はそうではないですよね。参考論文に上げた論文でこの仕組が解説されています。全文英語ですがご興味のある方はご一読を。

(2)生物由来
水槽と野外環境に於ける圧倒的な違いは生物密度、特にバクテリアを中心とする微生物の量です。彼等の呼吸による生物由来の二酸化炭素、という納得できる説です。

両者とも可能性としてあると思いますが、特に(2)は同一水域でも日中と夜間のpHが大幅に異なることから容易に推測できますね。(この傾向はすなわち水域のpHが水素イオンと連動していることを示す)野外における土壌微生物の密度は凄まじいものがあります。土壌微生物の呼吸にフォーカスすると、呼吸すなわち酸素の消費となりますので好気的環境の土壌が求められる事になります。言い換えれば土壌のバイオマスということです。限られた量の水槽の底床では水量に見合う循環が図れない、つまりバイオマスが足りていない、ということになります。その補完がCO2の添加、というロジックであれば理解できます。

*この土壌中のバイオマスに関して面白い話があります。ある方が水槽の底床に田土を使用されたそうです。遠隔地の方でネット上のお付き合いだけ、実物は拝見しておりませんので伝聞ですが、通常の水草水槽では維持が絶望的に難しいミゾハコベが育成できたそうです。通常の水草水槽では水の濁り、フィルターの目詰まりなどのリスクにより泥は底床に使用しません。何とかソイル、何とかパウダーなんてのも田んぼの泥に比べればお上品なものです。ミゾハコベが育った理由はこの「泥」のバイオマスにあったのではないか、というのが私の推論です。
ただ「落ち」があって無加工の田土からはプラナリアやヒルなどがワラワラ発生してきたそうです。彼らも重要なバイオマスの一部ですので、彼らが居られないような環境ではミゾハコベも育つことが出来ないのでしょうね。

強制添加の意味


水槽への二酸化炭素強制添加の意味は、以上述べてきたように「水槽」という自然環境が循環型となっていないためです。それは光量や養分という部分も当然ありますが、やはり微生物の総量(バイオマス)が少ないことに由来するのではないかと考えています。
底床に於いては植物の根、微生物、有機物とも自然環境に比べて圧倒的に少ない「綺麗」なものです。自然環境でも河川中流域で見られる砂質の河床などは同様ですが、このような「綺麗」な場所には植生は稀です。微生物の餌としての有機物、その分解や呼吸により供給される二酸化炭素、植物が根から放出する酸素が生態系を支えていると言っても過言ではありません。この循環が自然に行われない状況を補完するのが二酸化炭素添加の意味ではないかと考えます。

以前自然科学系の雑誌で「循環型アクアリウム」を紹介していました。詳細は失念いたしましたが、底床に土を使用し光源は太陽光を利用します。電気的、化学的介入はしないというものです。土からプランクトンが発生、メダカの餌となり排泄物と太陽光によって水草が成長、酸素を供給するというものです。水草の枯葉が有機物として再び循環される・・・
たぶん長期の維持は無理だな、と思いましたがこの循環で決定的に抜けているのが「質量保存」で、閉鎖された環境で動植物が成長し、排泄物から餌が発生するところまでは良いとして動物の運動エネルギーや植物の成長に必要な有機物は消費され続ける運命です。水草水槽では肥料、魚類の餌、換水による微量中量成分の補給そして二酸化炭素の供給がこの「足りない」部分を補完しているわけです。

参考
【文献】
●光合成の世界 講談社ブルーバックス1970 岩波洋造
●絵とき植物生理学入門 オーム社1988 増田芳雄
●光合成 朝倉書店2002 佐藤公行
●新しい高校生物の教科書 講談社ブルーバックス2006 栃内新・左巻健男
【論文】
●水田湛水のpHと二酸化炭素の関係 臼井靖浩 粕渕辰昭 木村有紀
●PHOSPHORUS DYNAMICS IN WATERSHEDS: ROLE OF TRAPPING PROCESSES IN SEDIMENTS J.M.Dorioz,E.Pilleboue et A.Ferhi
●雑誌「遺伝」2006年6月号 渡邊信「湖沼環境保全における絶滅危惧藻類 −車軸藻類の役割−」
*Special thanks 論文提供 青森男さん、独立行政法人産業技術総合研究所、山室真澄先生
【Webサイト】
Wafooネット
福岡大学機能生物化学研究室

脚注
(*1)KH
炭酸塩硬度のこと。Ca、Mgイオンを重炭酸イオン(HCO3-)と対を成していると理論的に想定して示した仮想塩。要は直接測定できないので理論値である。ただし本文にある通り水素イオンの緩衝に密接に関係するイオン総量であるので、指標として非常に重要。pHとKHが分かればCO2溶存量も導き出せる。このテーマではイオン化の有無を問わない総量を示す総硬度GHは関係ない

(*2)植物の呼吸
植物の呼吸は光合成とは別に独立して行われており、光合成そのものに関係ない。ただし、光合成と関係の深い「光呼吸」というものがあり、明反応で得られたエネルギーを使って呼吸を行う方法であるがなぜ植物がこのような呼吸を行うのか確定的な説はない。現時点での情報は(*3)を参照。

(*3)光が過剰
光が過剰な場合に起きる光合成障害「光呼吸」について。
「光が過剰」なのはCO2溶存量に対してである。水槽育成に於いてCO2溶存量が補償点を上回り「見かけの」光合成が確認できる状態から、水温とともに補償点が上がり、CO2溶存量も減少した際に相対的(補償点の変動)かつ絶対的(溶存量減少)にCO2溶存量に対して光が過剰となる。この状況で光呼吸が発生する。つまり光呼吸は直接温度変化とは関係なくCO2溶存量によって間接的に関係があるに過ぎない。
メカニズムとして考えられている説は、補償点が上ってCO2が不足しても明反応は起きるが、炭素固定の段階である暗反応(カルビン−ベンソン回路)は機能しない。明反応で生成された過剰な光エネルギー(ATP及びNADPH)により起きる障害を防ぐためにエネルギー解放のため光呼吸が活性化する。そうしないとエネルギーが酸素と反応して致命的な活性酸素を生み出してしまう。他に呼吸手段が機能しているのにわざわざ光呼吸が始まる理由はこのように考えられている。
最も分かりやすく纏められていると思われる福岡大学の光合成の解説テキストをご参照願いたい。こちらの解説表現を借りれば(下線部引用)この無駄な経路はRubiscoがCO2とO2を区別できないためである。酸素添加反応の効率は温度とともに上昇するので,光呼吸は高温における酸素の障害から身を守る役割があるとも示唆されているとある。
他の研究成果もほぼ同様の見解を示している。アクア系で「光呼吸や酸素が光合成を阻害する」「暗い水槽にCO2を添加する事が光合成活性化につながる」などの話があるようだが解釈が強引すぎる。もちろん「考えられている」「示唆されている」説なので、一般的な学説をもって「間違っている」とは言わないが、一般的な説を否定するのであれば科学的根拠が必要であると思う。
もう一点、水槽内に限らず明るい日中には多くの植物が普通に光呼吸を行っているが、植物が上陸した時期の二酸化炭素分圧と現在を考えれば進化上獲得した機能であると納得が行く。同様にC4、C3とC4の中間型、CAM植物については地球の環境変化に伴い進化してきたものとして遺伝子の研究が進んでいる。


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