育 成 メ モ 育 成 理 論

Theory10】土壌バクテリア概論
〜バクテリアは何の役に立っているのか〜



バクテリアとは何なのかとことん聞いてみたい


昔の熱帯魚入門書には必ずある記述が、考えてみると「これは違うだろう」ということが少なくありません。(書き出しが同じテキストが多いのですが^^;)その第二弾は「土壌バクテリア」というモノです。ありがちな記述を一般化してみると、

水槽の底床内に土壌バクテリアが繁殖するようになると水草が成長します」(特定文献の引用ではありません)

てな事が書いてあります。文献のみならず水草水槽のWebサイトにも書いてある事なのでおそらくその通りなのでしょう。でもその「バクテリア」って何?と言う事はあまり気にされていないようで、文献やWebサイトからは「目に見えない微生物だヨ、それ以上突っ込むな」という、そこはかとない雰囲気が伝わってまいります。また明示的、暗示的に底床を活性化する(大意)という記述が見られます。何となく目に見えない生物が底床中を動き回って活性化するんだな、成程・・・で終わってしまうと寂しいしこんなところに記事にする必要も無くなってしまうので少しだけ踏み込んでみました。
もちろんかく言うワタクシもバクテリアや微生物の専門家ではありませんので、主に文献や論文から得た知識に自分なりの整理を加えた素人情報です。誤解や完全な理解に至っていない部分もあろうかと存じますので、その旨ご了解下さい。

最初に、よく用いられる「バクテリア」という用語は実は間違っているのではないか?という話です。前項でも「濾過バクテリア」や「ニトロソモナス」など怪しい用語について指摘させて頂きましたが今回もそこから切り込みます。


(1)微生物(Microorganism)
微生物は定義が非常に怪しく、顕微鏡を使わないと見えない大きさの生物であるという程度。専門書によれば核膜構造の違いにより真核生物(酵母、菌類等)や原核生物(放線菌やバクテリア)、ウィルスなど幅広い生物が含まれる概念のようである。この時点でバクテリアを「微生物」と称するに矛盾は無いが次項テーマである「微生物食物環」上は重要な相違がある。

(2)バクテリア(Bateria)
46億年に前に発生した最も古い生物であり、細菌に他ならない。バクテリアとして今日まで姿を変えないものはもちろんあるがミトコンドリアや葉緑体に変化して動植物に進化した「生命のルーツ」である。

(3)細菌(Bacterium)
単細胞であり原核細胞を持ち、原形質には明瞭な核を持たない微生物と定義される。病原体の他、アクアリストに馴染みの深い藍藻類(シアノバクテリア)、光合成細菌、窒素固定菌なども含まれる。バクテリアに他ならない。

(4)菌類(Fungi)
真核生物の一種でカビ類、キノコ類、酵母類などである。しかし濾過の究極の姿として語られる脱窒「菌」は硝化「菌」が生産した硝酸塩を窒素ガスに転換する「バクテリア」である。


各呼称を整理してみると境界線があるようで無い、無いようである
、という非常に曖昧模糊とした分類であることに気が付きます。水質浄化の方法論として「活性汚泥法」というものがありますが、何が活性化しているのか興味深いですね。バクテリアなのか菌なのか微生物と呼ぶべきなのか。
という状況を踏まえて、水槽の底床にいる「微生物」を「土壌バクテリア」と特定できたのはなぜか?もちろんアクアリウムサイドからの回答は端から期待していませんが、何をどうしている連中なのか調べてみると興味深い事実が出てきます。

大幅に「常識」から外れた、窒素を中心にした意外な連鎖



そもそもなぜ底床で土壌バクテリアが活性化しないと水草が育たないのか?この命題について合理的な解が見えません。甚だしいのは「水草は水中から葉面吸収しているので根の役割は固着」と言い切った意見も見たことがあります。他によく見るのはマツモやタヌキモなどの浮遊植物を例にあげたり、メリクロンなど無菌環境のバイオテクノロジーの例示をされたりすることもあります。
そうなるとそもそも水草水槽での育成の話が成立しないのです。水草水槽で根を張って生長する植物の話をしていますので。何でも一般化できずに特殊な例を持って反対する乏しい思考は願い下げですね。

水草が底床に関係するのは根です。根の大きな役割は植物体の固定と栄養吸収ですが、植物体の固定はバクテリアや微生物に関係が無いので栄養吸収に於いて何らかの役割を持っていることは容易に想像できます。
すでに本コンテンツ「窒素肥料概説」で「根圏の原生動物」(2002 独立行政法人 農業技術研究機構 東北農業研究センター 島野智之)という非常に優れ啓示に富んだ論文をご紹介させて頂きましたが、今回も参考にさせて頂きました。微生物食物環の観点から有機窒素が重要なポイントとなっている
ことは理解できましたが、微生物の視点からこの動きを考えてみたいと思います。
同論文によるバクテリアを含む微生物の動きはかなりデフォルメしておりますが上図の通りで、有機物をバクテリアが体内に取り込み無機物に転換(エネルギーを得る)する過程(1)から始まります。バクテリアが無機となった窒素を放出するかどうかは確認されておらず、バクテリアを上位捕食者の原生動物が捕食(2)、同時に取り込んだ無機窒素の一部を排泄(3)することで水草の根が吸収できる窒素となる(4)というプロセスを示唆しています。

「バクテリア」は水草の根の窒素吸収に直接的な影響はない

のです。もちろん「微生物」が窒素を取り込んだ「バクテリア」を捕食しなければ植物への無機窒素の供給も出来ませんので間接的な影響があります。このプロセスで私が「経験的に」賛同できるのは、以下の点です。

(1)有機物を含んだ底床を使った場合、砂利系単用よりも立ち上がりが早い
(2)とは言え、繁殖スピードが異様に早いはずのバクテリアが活動を始めても水草が育つようになるのにタイムラグがある

(1)は上図の(1)に符合し、(2)は同様に(2)〜(4)に符合します。つまり「バクテリア」の繁殖のみが底床の活性化の条件ではなく、原生動物の発生までセットで「底床の活性化」が成立するのではないか、と思われるのです。
ちなみに「水槽毎に種類の違うバクテリアが住み着く」という説がまことしやかに言われていますが、違うのであればどう違うのか、なぜ違うのかを示さなければヨタ話の範疇ですので言及しません。ただそのわりにはアクアリウムの世界にはバクテリア関連製品もありますので何だかよく分かりません。多種類のバクテリアを詰め込んで、あなたの水槽に合ったものが生き残る、というストーリーなのでしょうか?真面目に考えるべきことではないのかも知れませんが・・。

さて、ここで前項の概念に無い「原生動物」という言葉が登場しました。原生動物とは原生生物のうち動物的特徴を持つ生物を総括して使われているようで、アメーバやトリコモナス原虫(汗)などが含まれます。
前掲「根圏の原生動物」によれば(下線部引用)「土壌原生動物は土壌生態系において線虫とともに,有機物あるいは微生物を摂食するという,第2次栄養段階に位置している」とあります。つまり、土壌活性化に於いて主導的役割を持つ原生動物を微生物(散々ご説明したように「バクテリア」も包含する概念です)の上位捕食者的概念に置いています。

何を言わんとしているのかと言うと、底床の窒素の問題を考える時に、役割を持つ生物を形態的分類で考えるのと同時に「微生物食物環」の観点で考える必要があるのではないか、とうことなのです。簡単に言えば水草の消費物資を供給しているのは何物か、という表現に置き換えても良いかも知れません。
この供給者を原生動物(生物)とすると動物性鞭毛虫を中心にするグループと考えられており、少なくてもバクテリアではありません。もちろんこの考え方が正しいとした上での仮定ですが、

底床が出来るのは土壌バクテリアが繁殖した時ではなく原生動物が繁殖した時である

という事になります。ちなみに、ですがアクアリウムの立上げ方法に「もらい水」というものがあります。間違った表現をあえて使いますが「濾過バクテリア」(前記事参照)を移すためと考えられています。土壌(底床)に関して言えば原生動物を移す方法論が無意識に行なわれており、水草水槽に関してはむしろこちらが本質かも知れませんね。
どちらにしてもバイオマス(Biomass)によって底床(土壌)の性格が決るわけであり、その鍵を握っているのは植物体にとっての重要要素、窒素であることは間違いありません。水草水槽の立上げ、維持に於いての底床中の有機物の量がバイオマスを決定し、育つ水草の質量を決定していることは間違いないと思われます。

多岐に渡る共生関係を一言で片付けるから誤解が生じる


微生物食物環に於ける、言い方を変えれば水草水槽の立上げ維持に於ける原生生物の重要性を述べてきましたが、植物体の生長という観点、植物生理学的観点でこそ「土壌バクテリア」が重要な役割を担っています。

(1)栄養吸収範囲の拡大
P 利助

植物の太い根(主根と側根)は「植物体を支持する」役割を持っています。一部栄養吸収を行なう能力もあるようですが、そうであっても(1)の範囲しか栄養を吸収できないことになります。そこで比較的伸長スピードの早い毛細根が広い範囲(2)に伸びて行き広範囲の養分を吸収する仕組になっています。言ってみればこれだけの話で、この毛細根の形成にある種の微生物が関与している、ということで終わります。
しかし、いつものように単なる植物生理学ではなく進化論的に考えてみた場合、興味深い内容が見えてきます。


生命は海中から陸上へ進化してきたと言われています。植物も例外ではなく海中から上陸したわけですが、海中は生命が豊富で海底も有機物が豊富だったはずです。逆に上陸当初の陸上土壌中には陸上生命の「薄さ」によってそれほど有機物も無かったはず。この状態からどうして今日の進化が成されたのでしょうか。
原始の土壌中に点在する養分は植物体が根を張る地点によっては無縁となってしまいます。この希薄な養分を求める力、呼び寄せる仕掛けがあって、この仕掛けに微生物が不可欠となっている、つまり植物の進化は現代でも共生関係が見られる菌根菌によるところが大である、と言えると思います。


*菌根菌 : 植物の根に入るカビの仲間。カルシウムチャンネル(イオンチャンネル)にも関与
*菌根菌には主要なものとしてアーバスキュラー菌根、外生菌根、内外生菌根、アルブトイド菌根、モノトロポイド菌根、エリコイド菌根、ラン菌根、ハルシメジ型菌根の8つのタイプがある

(2)リン吸収に於ける共生関係
リンを植物に供給する有用微生物に菌根菌の一種であるアーバスキュラー菌根菌という微生物がいます。(一説によれば8割以上の植物と共生していると言われています)植物はこの菌根菌を呼び寄せるシグナルを出しているという話もあり、リンの吸収に於いても共生が重要なキーワードになっていることが分かります。

*アーバスキュラー菌根菌(旧VA菌根菌) : 特にリンの吸収に於いて関与

(3)有害物質からの防衛
還元鉄(二価鉄)の害については既出ですが、水田を含む湿地環境では還元鉄が豊富です。これを酸化し無害化するのが鉄バクテリアです。
画像は湿地で鉄バクテリアの活動の結果として見られる酸化鉄(錆)と、鉄バクテリアのコロニーと言われる油膜です。こういった嫌気的(還元鉄が多い状況)でも湿地植物が自生できるのは鉄バクテリアと根の共生に拠るもの、と言われています。
水草水槽で油膜の原因が取り沙汰されることも多いようですが、ほとんど鉄バクテリアの餌にしかならない二価鉄を投入すれば油膜も出るでしょうし(全部が鉄バクテリア起因ではありません)、証左として底床や配管器具の一部に微小な褐色の粘着性フロックがあれば鉄を酸化した跡です。
ただ、礫(大磯砂他)であろうと土(ソイル)であろうと多少の鉄分は含まれますので、二価鉄を意図的に投入しなくてもこの現象(油膜&フロック)が見られる場合も多々あります。

*鉄バクテリア : 鉄細菌とも呼ばれ、還元鉄を酸化することでエネルギーを得ている微生物

(4)遊離窒素ガスの固定
植物の根に入り込み、遊離窒素ガスの固定を行なう根粒菌という微生物がいます。荒れた土地でも生育する植物では窒素循環に於いて主役の働きを担っています。ゲンゲを筆頭とするマメ科植物で顕著に見られ、田植え前の緑肥として植えられているのをよく目にします。大気中から窒素肥料が得られるわけでエコですね。

*根粒菌 : 大気中の窒素を固定する微生物

(5)発根バクテリア
植物の発根そのものに関わるバクテリアが存在します。そのうちの一種、A.rhizogenesの解析によればプラスミド(染色体外遺伝子)上に発根に関する遺伝子があることが分かっていますが、仕組はまだ解明されていないようです。植物体内にプラスミド(DNAそのものですが)を移す、としている文献もあります。

*発根バクテリア : 植物の毛細根(栄養吸収手段)の発根に主導的役割を果たす微生物

(6)土壌病害への抵抗性
昆虫病原菌と言われる微生物の一種で土壌病害への抵抗性の向上の役割を果たしています。代表的なものにはBacillus thuringiensis(BT)があり、BT農薬の原料となっています。

*昆虫病原菌 : 土壌病害への抵抗性の向上をもたらす「細菌」


ざっと考えてみても植物の生長に関する「土壌バクテリア」はこれだけ(以上)の種類がいて実態は微生物(Microorganism)、バクテリア(Bateria)、細菌(Bacterium)が様々な役割を持って関与していることが分かります。これだけの概念を「土壌バクテリア」と極めて狭義の概念で包括することがいかに誤った事であるか、という事が分かります。
誤っているだけならよくある話です。そのような話がまかり通るのもまだ許せます。私が非常な危惧と不快感を覚えるのは別な部分なのです。ちょっと本題を外れますが次項で理由を解説します。

社会科学編 羊頭狗肉が罷り通る世界


事例として。
本来まったく無関係にして今後も関係する可能性は無く論評する立場にない出来事ですが、知らぬ仲でもない友人も巻き込まれた「ホシクサ事件」について。
外に出た情報からの判断で間違っているかも知れませんが、ネットオークションで出品されたアマノホシクサが実は別種であったという「事件」のようですが、問題はアマノホシクサが突出した相場価格であり、落札購入した方は出した費用に見合う商品を受け取っていないことにあります。
ネットオークション、特に個人の出品についても出品数に応じ「業」として看做しそれなりの規制がかかる話も経済産業省から出ていますが、業ではなくても客観的に上記取引は詐欺(商品をアマノホシクサではないと認識していた場合)もしくは未必の故意(アマノホシクサではないかも知れない、と思っていた場合)に当たります。 「アマノホシクサとして購入した」「他種であるとは思わなかった」は子供の言訳、商品を販売し対価を得る以上、販売する商品「特定」は販売者の責任です。

事例をもう一つ。
これは私自身の身に起きた出来事です。他にも書きましたので詳細は省略しますが、体調を崩した際に処方された薬によってさらに肝機能障害を引き起こしました。この場合の情報は「抗生物質は薬効はあるが副作用の可能性もあり、その可能性の一部が肝機能障害」というものでしょう。残念ながら処方時にはその説明はありませんでした。
転院後、新主治医からそっと渡されたメモには「薬害をもたらしたと思われる」薬品の名前が書いてありました。なぜそっと渡されたのか、医者同士の信義なのかも知れませんが、そこには「表立って他の医者の瑕疵を追及することは出来ないが、患者のために情報の一部を非公式に公開する」という意思が感じられました。
しかしこれは私にとって非常に重要な価値ある「情報」です。二度目はさらに激しいアレルギーとなる、との事ですので一度目の苦しさを上回る苦しさなど想像したくもありません。

何を言わんとしているかお分かりでしょうか。「情報は商品の一部である」ということです。特にアクアリウム関連の商品はそれが無く、補完する立場であるはずの雑誌や文献は「補完せずに助長している」と思うのです。正直それが言いたくて「土壌バクテリア」の例をあげた部分もあります。雑誌や文献は消費者たる我々が「情報を得るために金を払って買う」のです。情報そのものを商品としているのです。それがこの有様とは如何なるわけでしょうか?
あまり具体名を出すと差し障りもあるでしょうから一つだけ。既出ですが、二価鉄商品の「効果」についての根拠。このコンテンツでも植物体の発根に対する障害と、ある種の化学物質との化合によって他の生物にもたらす致命的な害の可能性について書いてきました。この点についての明確な説明は商品にも製造者のWebサイトにも記述はありません。私の感覚では説明責任を果たしていないことになります。それ以前に効果についても科学的根拠による説明もありませんが。
二価鉄商品以外にも、木酢液、「多孔質」濾材、土壌をベースにした底床材、決定的な情報が欠如している商品は多数あります。「突っ込むという貧しい精神構造」ではなく、説明責任を果たせという正当な要求なのです。

最初の話に戻ります。
主に文献や論文から得た知識に自分なりの整理を加えた素人情報です。誤解や完全な理解に至っていない部分もあろうかと存じます


なぜ私がこんなことをしなければならないのでしょうか?それは「金を貰って」商品なり情報を販売する側が行わないからです。対価を得ない側が素朴な疑問を解決する手立てがないからです。「細かい事はどうでもよい」「楽しめれば良い」という考え方もあるでしょう。否定はしません。しかしそれが「賢い消費者」なのでしょうか。
土壌バクテリア、表現の問題はありつつも大いに結構。土壌中で植物の生長に関して重要な役割を持っていることは上記の通りです。それが必要な種類が揃っており、乾燥した粉末のなかで「休眠」しており、「あなたの水槽に合った」ものが目を覚ますのかどうか、もう一度よく考えてみた方が良いと思います。先に休眠から目を覚まさなければいけないのは消費者たる我々かも知れませんね。


◆参考◆

【文献】
○物質循環における微生物の役割 日本微生物生態学会 編 1994年 学会出版センター
○土と微生物と肥料のはたらき 山根一郎 1988年 農山漁村文化協会 山根一郎
【論文】
○根圏の原生動物 2002 独立行政法人農業技術研究機構東北農業研究センター 島野智之


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