育 成 メ モ 育 成 理 論

Theory4】特定成分信仰加持祈祷論
Part2 〜カリへの過剰な期待を分析する〜



カリが足りない?


二価鉄の次に人気があるのはカリです。なかには草木灰からカリ肥料を自作するというツワモノも居て驚くばかりですが、彼らカリファンの根拠はいたってシンプルです。リービッヒの最小養分率をデフォルメしたアクアリウム理論です。曰く、

水槽では窒素とリンは魚の残餌と排泄物で豊富でカリが不足する

この「理論」には理論以前の論理上の瑕疵があり、「カリが不足する」という命題に対して「窒素とリンが豊富」という条件が証明されていない、十分条件になっていないということです。簡単に言えば「足りているかどうかあんた見たんかい」ってことです。
窒素とリンが豊富だという主張の裏付けには水槽で発生する藻類の存在があります。たしかに湖沼に於いて富栄養化により藻類が増殖することは知られており、富栄養化の主役は窒素とリンです。特にリンはアオコの増殖要因として知られており、霞ヶ浦水系でも家庭用洗剤にリンを含まないものの使用を呼びかけている程です。(沿岸市町村では下水道の整備率が必ずしも高いとは言えないのが実情です)
しかし、藻類の「発生」と「増殖」は別な話であって、どんなに綺麗に管理されバランスが取れているように見える水槽でも藻類は発生します。
極端な話、小動物用の給水ボトル(密閉された容器にボール状の吸い口が付いているもの)に水道水だけを入れておいても内部に藻類が発生するのです。実は藻類の「発生」要因は水道水に含まれている程度の窒素とリンなのです。
上記理論とも言えない理論が水槽内の「総量」として語っていたとしても土壌中に存在する窒素の吸収メカニズムは明らかですが水中のものは未知なので、リービッヒ的に水中窒素が利用されているかどうかも未知、どちらにしても理論の立脚点にはなり得ません。

再録になりますが、以上の状況を考えると次のような疑問点があります。

(a)水槽という限られた環境内に於いて、光量、水温、溶存二酸化炭素量、酸素呼吸量などのパラメータはまったく無視か
(b)農業に於いても窒素過多やリン過多による花付きや実成りの障害が明確にナレッジとなっている。つまり定量的に吸収できない場合が多い。水槽の中だけ比率に従って定量的に吸収されるのか
(c)水槽に植栽されている水草の窒素、リン要求量を把握しているのか。それほど大量に与えるわけではない餌と消費の結果による排泄分が、十分であるかどうか検証されているのか
(d)(c)同様、カリを添加する定量的な裏付けがあるのか。

もちろん明確な回答がどこかから得られるとは考えていません。しかし、上記の「カリが足りない説」はこの回答によってのみ妥当性が証明されるのではないでしょうか。もちろん私は否定的ですが、疑問の元となり否定に至る証左ともなったWebサイトを参考Webサイトとして列記しておきます。(本当は例証を他のWebサイトのURLを貼ることで行う行為は大嫌いです)

カリが足り過ぎた場合〜ぜいたく吸収理論


逆にカリが足りすぎてしまった場合、定量的ガイドラインなしに添加していれば何が起きるのか具体的に考えてみましょう。
カリは他の多量成分と異なる非常に面白い性質を持っています。窒素とリンと異なり有機物を構成しません。植物体内の物質合成に関わる役割を持っている重要な物質でもありますが、豊富に存在する環境下では過剰吸収が行われます。農作物では「ぜいたく吸収」と呼ばれ養分吸収量は大きくなりますが収穫量は増えません。
これはカリ過剰吸収によってMg(苦土)とCaの吸収が阻害されるためと言われています。MgとCa、ミネラルとも言いますが、水槽内に於いてはpHの変動と関連が深い硬度物質です。カリを意図的に投入すると水槽水の硬度が上がる理由はここにあります。二酸化炭素の添加時に緩衝力となるのはCaであり、再録となりますが以下の変化をおさらいしてください。

(1)CO2+H2O→H2CO3(二酸化炭素が水溶し炭酸をつくる反応)
(2)H2CO3→H++HCO32-(炭酸が水素イオン、炭酸水素イオンに解離する反応)
(3)CaCO3→Ca2++CO32+(炭酸カルシウムがカルシウムイオンと炭酸イオンに分離)
(4)CO32++H+→HCO3-(水素イオンは炭酸水素イオンとなり水素イオンが減少=pHは下がらない)

これが「緩衝作用」と呼ばれる現象の化学的反応です。Caは逆に考えれば二酸化炭素を添加することで(イオン状態のものを)減じることができます。カリを投入している水草水槽でも同じ事が起きているはずです。しかしここで行き場が無くなるのはMgです。定常的にカリを投入している水槽では硬度が上がります。以前以下条件で1ヶ月ほど実験をしてみました。

(条件)水草水槽(60cm、57L)、大磯底床10年使用、二酸化炭素日中強制添加、カリ肥料ADAブライティKを毎日10ml前後投入、換水1回/7日約20L

もちろんpHの変化は他の要因もありますが、ここ数年は6.7を超えることがなかった水槽でほぼ中性付近まで上昇して来ていますので何らかの因果関係が・・・と言うよりも要因は吸収できていない、緩衝しないCaとMgであることは明らかであり、間接的にカリが関与していることは間違いないと思います。
ここでさらに面白い現象が見られました。藻類が増えてきたことです。水質が塩基性方向に傾くと十分なCO2(浸食性二酸化炭素)が確保できない水草は活性が低下します。直接的な栄養吸収という観点は藻類と高等植物たる水草のどちらが栄養吸収が早いかという点で疑問ですが、このコンテンツでも扱ったアレロパシーなど苔の抑制作用が弱体化している状況を覗わせます。プロセスを省略すれば「カリの投入は藻類の増加を招く」ということになります。
安易にカリを投入することは水草水槽の維持に於いては非常に危険な行為であって、求める効果よりも起こりえるトラブルの方が大きいと判断しています。自分の判断で色々試してみることは重要で意義あることだと思いますが、効果の検証はもちろん、弊害の可能性などマイナス面も十分考えず他人に勧めることは無責任な行為です。やりたければ自分だけでどうぞ、ってことで。

恐怖への反応


二価鉄やカリという普通に存在する物質がなぜアクアリウムでは特別視されるのか?この疑問は水草の生長と藻類という永遠のテーマに繋がる話であると思います。端的に言えば苔の恐怖ですね。
前述の通り関東近辺の湖沼、特に手賀沼や霞ヶ浦に於いてアオコや赤潮の原因は「富栄養化」と言われています。その「栄養」のなかでも特にリンが藻類大増殖の要因となっていることが明らかにされています。この事は報道も度々行なわれていますので、常識として多くの方が認識していることでしょう。
しかし実は「清流」と呼ばれる綺麗な河川にも藻類はあります。透明度が高く美しい湖も、まったく藻類が無いということはありません。藻類については程度問題としての話であって、中禅寺湖も霞ヶ浦もこの点に於いてはまったく同じなのです。
何が言いたいのかというと、(栄養的に)高地の湖並みの清浄な水槽であっても藻類の発生は避けられないということなのです。水草の健全な成長を前提としても何らかの物質の増減で藻類の発生は抑止できないということです。もちろん本コンテンツで扱っているアレロパシーや窒素やリンの総量を削減することで「増殖」を避けることは出来ます。鍵を握るのはもちろん水草ですが、明らかに二価鉄やカリが不足しているという証拠もない中での添加は逆の結果を招くというのが本稿の主旨、私が言いたいことなのです。

苔が増殖したら窒素肥料を入れろ
結論だけ独り歩きしてしまった私の意見ですが、底床に有機物が豊富な環境では逆に藻類が増殖してどうしようもない、ということはありません。理由はすでに散々述べてきましたので割愛しますが、言い方を換えた方法論はベテランアクアリストの間で脈々と語り継がれて来ているはずです。
マツモやウキクサを使って水中の窒素を吸収させる
隙間も惜しんで高密度に水草を植栽した水槽でなぜさらに浮草や根無し草を使用して窒素やリンを除去しなければならないのか?この言葉はとりもなおさず水草水槽に於いては水中養分の利用が少ないことを物語っています。利用するのは主に藻類です。個人的には二価鉄でもカリでも水溶液として水槽に添加する行為は敵に塩を送ることだと考えています。

結論は二価鉄とまったく同じ。見えない、分からない効果を期待している=加持祈祷です。

参考文献・Webサイト

【文献】
●土壌肥料用語辞典 1998農山漁村文化協会 藤原俊六郎他編
●土壌診断の方法と活用 1996農山漁村文化協会 藤原俊六郎他著
●土と微生物と肥料のはたらき 1988農山漁村文化協会 山根一郎
●土壌学の基礎 2004農山漁村文化協会 松中照夫著
●図解土壌の基礎知識 1990農山漁村文化協会 前田正男・松尾嘉郎
●正しい水の調べ方新版 1990ワーナー・ランバート
●アクア・エントゥ12号 1994年シーゲル
【Webサイト】
天然CO2噴出地においてCO2濃度、光、土壌窒素がオオイタドリの葉の光合成特性に及ぼす影響 長田・小野田・彦坂(東北大・生命科学)
温度・湿度条件が5樹種の純光合成・蒸散速度・気孔コンダクタクスにおよぼす影響 久野・新井(東京都林業試験場)
季刊はたけ新聞平成16年7月 棚田講義録 多量要素の過剰症
水の話 第3章
置換性塩基のバランス

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