育 成 メ モ 育 成 理 論

Theory6】水草水槽濾過信仰論
〜フィルターの本質的役割〜



読解力の問題なのか?


昔の熱帯魚入門書には必ずある記述が、考えてみると「これは違うだろう」ということが少なくありません。深読みしてしまうと飼育書には必ず器具の写真が載っていますが、効果をアピールしたいがために理屈付けで援護射撃しているのかな?宣伝料かなにかで繋がっているのかな?とも考えてしまいます。
そんな中で代表的なのはけっして安価ではないフィルターの「効果」です。かく言う私も熱帯魚を飼い始める際には事前に複数冊の飼育書を読み漁り(マニュアル世代の走りかも^^;)、「そうか、フィルターはアンモニアを無害化する必需品なんだ」と思い、どうせならということで結構高価なものを購入した覚えがあります。その後、魚が死んだ、水草が苔る、という度に高性能なフィルターに買換え投資の無間地獄に落ちました(汗)。同じ趣味の方とお話してみると同様に考えた方が意外に多く、このことは私がマニュアルを正しく読解しており、間違っているのはマニュアルの方だという思いを新たにしました。

考えてみれば子供の頃に水槽に適当に砂利やその辺で採ってきた水草を入れ、金魚や鮒やクチボソを飼育していましたが、もちろんフィルターなんて代物は付けておりませんでした。でも結構長生きしていたんですよね。
自分の体験よりもマニュアルに活字化してある情報を優先してしまう、これもマニュアル世代の大きな弱点ですね。今更ですが「情報」は「情報」なので、同じ情報でも読解力によって違う解釈が有り得ます。その読解力を構成しているのは間違いなく(広い意味で)自己の体験なので本末転倒を実践していたことになります。不完全な人間のなかでも特に不完全な私はこのような基本的な事実に気が付くのに半世紀近くかかりました(^^ゞ
後々詳述したいと思いますが、この件に関する正解は仮に「濾過バクテリア」と呼んでおきますが、居るのはフィルターだけではなく底床や水草表面などに常在するのでフィルターなしでも維持出来た、ってことです。ただ常時水を吸い込んで吐き出すフィルターはこの点で効率が良い、ということであって「無ければ飼育できない」というのは極論だという話です。

濾過と藻類の因果関係はあるのか


飼育書で少なからぬ分量を割いて記述があるのはフィルターの機能と水槽維持の因果関係です。そして形状別に様々なフィルターの写真が載っています。エアーリフトのシンプルなものから外部式のゴツイものまで種々様々に。そして明示的または暗示的に「出来れば濾過能力の大きな物を選びましょう」とあります。
そして役割としてフィルターは有害なアンモニアを無害な硝酸塩に転換する水質を安定させ藻類の発生を防止するとあります。この記述が今に至りインターネット時代になっても残る伝説または誤解と言うべきか、藻類の発生に対処して「水槽適合サイズより1サイズ大きなフィルターを」という話に繋がっているのではないかと思います。
バクテリアの名称はさておき「濾過バクテリア」と称するバクテリアがアンモニアに関与する結果次の動きが起こります。


NH4+・NH3
  ↓
(1)NH3 +  3/2O2 → NO2- + H2O + H+
この過程でNitrosomonas属及びNitrosococcus属、Nitrosospira属、Nitrosolobus属など知られているだけで8属のバクテリアが関与しますが、実態は言ってみれば「アンモニア酸化菌」です。この過程で生成されるNO2-(亜硝酸イオン)は有害です。好気性バクテリアとも呼ばれますが式を見て分かる通り実態は酸化ですから当然酸素が必要です
  ↓
(2)NO2- + H2O → NO3- + 2H+ +(2e-)
電子は本題に関係ないので忘れて下さい。このプロセスに至ってNO3-(硝酸イオン)というほぼ無害の物質に転換がなされます。亜硝酸を酸化するのはNitrobacter属とNitrococcus属、Nitrospira属が知られており、「亜硝酸酸化細菌」と呼ばれています。こちらの「酸化」は水由来の酸素を使用するので「好気性」と表現するには実態から乖離しているような気がします


以上から、いくら省略する、総括すると言っても「濾過バクテリア」は存在しない、「ニトロソモナス属」は一部を代表して使っている、実態とかけ離れたものであると言えるでしょう。総括して使うのであれば「アンモニア酸化菌」と「亜硝酸酸化細菌」であるべきです。
名称などは瑣末な問題で、要はこれらの微生物がフィルターの中にしかいないという書き方がマズいと思います。「フィルターは重要」「高性能のフィルターが良い」とアピールしているように感じるのはそこのところなのです。

またも長い前置きになってしまいました。
なぜ長々と窒素の話をしてきたかと申しますと実は本題に深い関わりがあるからなのです。上記の通りフィルターの解説のなかには「水質を安定させ藻類の発生を防止する」とあります。しかしこれはフィルターの中にいる(と思われる)「アンモニア酸化菌」と「亜硝酸酸化細菌」の機能を考えた場合、大きく矛盾する話なのです。
有害なアンモニアを比較的無害な硝酸イオンに転換する、ふむふむ成程。しかし残念な事に藻類がアンモニアを好み硝酸を利用できないという証拠はいくら探しても見つからないのです。湖沼学ではむしろリンが注目されており、リンの増加が湖沼に於いてアオコの発生原因となっていることは分かっています。リンを含まない洗剤の使用を呼びかけている論拠です。
リービッヒ的に考えればリンが無ければ窒素は使えない、窒素だけ使うとしてもフィルターから生み出される最終生産物も窒素なのでどちらにしても藻類の抑制をフィルターに求める根拠にはなりません。

後述しますが、フィルターは別の重要な役割を持っていると考えています。正統な学問があるのに変な言葉に置換して説明しているのは「フィルター付けないと苔るぞ〜」という狼が来るぞ的発想の成せる業?という気がします。販売するための「造語」やデフォルメした効果の話はマーケティングの問題であって物の本質ではないと思います。
余談ながら蛍光灯も「水草育成管」と謳うものがありますが、ケルビン値以外は違いが見当たりません。植物が吸収する波長は種によって微妙に異なりますが(肉眼で感じる「緑」の色が種によって微妙に違いますよね)概ね似たようなゾーンなので三波長などその辺を抑えてあれば充分だと思うのですが、なぜか名称が「水草育成管」となると有難く思ってしまい高い金を出して買ってました(汗)。
程度問題ですが、水草でもペットでも自分で管理するからには出来るだけ良い環境に置きたい、健康に育って欲しいと願うわけでそこに付け込むような商品が多いのが観賞魚・ペット業界であるような気がします。冒頭の思い「効果をアピールしたいがために理屈付け」は書籍、雑誌から「広告収入」とか「小さな市場で持ちつ持たれつ」という香りがプンプン臭ってくるためで、事情は分かりますが消費者として理論武装しないと賢い買い物が出来ない珍しい業界だと思います。くどいようですが、アクア雑誌で商品のネガティブ記事をご覧になったことがありますか?

フィルターは「フィルター」ではないのでは?


生物濾過と言われる機能についての実態はこんなところだと思いますが、もう一つ物理濾過というのも結構アバウトな概念です。
水草水槽で「物理的に」濾過しなければならないような物質が生産されるか、という疑問です。可能性を考えてみれば水草の落葉、生体の固形排泄物などですが、小なりと言えども生態系、立派に消費者がおります。水草の落葉や魚の糞はエビが喜んで食いますし、より細かく分解された物質は微生物が分解します。魚の糞と水草の落葉だらけで困った水草水槽は見たことがありません。
言い方を変えると「物理的な濾過対象」が濾過されないと何か困りますか?ってことです。時間の経過と共に分解されるものがあっても生態系では何ら問題がありませんし、むしろ生態系を回すエネルギーにもなります。存在価値、効果が希薄なものを「機能」とは呼びません。
そうなるとフィルターの役割の本質って何?という主題になるわけです。

【水流の発生と水質水温の均一化】
そうは言っても、という部分があります。むしろこちらの方が重要な要素であると思います。水槽内で水流が無いと色々な事が起きるはずです。

(1)水温
熱いお風呂をかき混ぜたら普通のお湯になった、こんな経験はありませんか?センサーの位置によってはヒーターが作動すべき時に作動しなかったり、あるいはその逆ということも起こりえます。ヒーターの作動による熱源で対流は起こりますが、水温にムラがある場所では水草の生長に障害が出ます。
(2)溶存酸素
水草が健康に生長せず、底床が厚かったりすると部分的に嫌気域が出来たりします。嫌気域では還元鉄が発生し水草は生長出来ません。肥料の腐敗、メタンの発生なども起こります。
(3)溶存二酸化炭素
二酸化炭素の添加をしている方でも何箇所も分岐して拡散筒を付けている方は少ないと思います。二酸化炭素は気体ですから拡散筒から出た細泡は周辺の水に溶存し、余ったものは水面から大気に逃げてしまいます。

フィルターとは液体や気体中で不要物を通過させない仕組であるはずですが、水草水槽に於けるフィルターはこの定義は当てはまらず、むしろ必要なものを各所に運搬する役割が主であると思います。このように考えると、水草水槽に於けるフィルターの要件は水流であって、濾材をどうすべきかという問題はナッシングです。この点に於いて、ある識者のお言葉「砂利でも詰めておけ」は中に詰めた砂利以上の重みがありました。


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