育 成 メ モ 育 成 理 論

Theory14】育成肥料実践論
底床活性化編



園芸肥料の落とし穴


アクアリウム用「肥料」の多くが実は肥料ではなく、サプリメントであって本来の効果に対する期待値も用い方も誤っている、ということを述べてきました。一方「アクアリウム用「肥料」は成分表示が無く、表示のある園芸用肥料の方が安価で安心ではないか」という指摘もよく見られます。大手の掲示板で誰かが言い出すとひそかなブームになったりします。
最近ではマグァンプKやプロミック(どちらも製品名)など。緩効性ということでどちらも急速に土壌や水質に影響を与えない、安価である、という2点がポイントのようですが園芸もアクアリウムもある程度深入りした私に言わせれば「危なっかしくて見ていられない」です。

土壌と底床は同じ部分と異なる部分があります。決定的に同じなのは「化学肥料は土を殺す」で、生体由来の有機物の蓄積に対して非常に無力な環境が出来上がってしまうことでしょう。(そのロジックについては→こちら)以上を踏まえて園芸用肥料のアクアリウム転用の際の危険性を整理してみると、

(1)置き肥など育成用土面用の肥料(往々にして「用土中に埋めて使用しないで下さい」と但書もある)を水槽底床に埋めた際の影響が検証されていない(それ以前に何が起きるのか、という点に付いては想像もできない)
(2)有機物を伴わない化学肥料の使用は土壌微生物の健全化に逆行するものであることが農業・園芸では検証されているが、同じ土壌として底床を考えた場合の影響は明らかである。この環境で有機物の堆積があった場合の影響についても明らかである
(3)その「有機窒素」にしても「性格」は何か、量的なバランスは問題ないか、あるいはリンの総量はどうなのか、説得性のある根拠が見られないままに利用が推奨されていたりするが、微生物が未活性な底床での腐敗やリンによる藻類の増殖の危険は顧みないのか

という3点が懸念されます。事実水槽底床に無機肥料を施肥し、結果的に底床が腐敗した事例があります。上記リンク同様当コンテンツ内窒素肥料概説に経緯及び原因を記してあります。安価で(藻類発生を主とした)水質に影響を与えにくいという利点にのみ目を奪われるとこのような弊害が起こる可能性もある、という話です。さらに、このロジックを水槽で用いられることがある園芸肥料の成分から考えてみると別な「危険性」も浮上して来ます。


(各々手持の製品パッケージから転載、その他バリエーション製品については未確認)
【マグァンプK】
アンモニア窒素 6.0
く溶性りん酸 6.0 内水溶性りん酸 40.0
く溶性加里 5.0 内水溶性加里 3.5
く溶性加苦土 15.0 内水溶性苦土 1.0

こちらは代表的な園芸用肥料で水槽に用いられる例も多いマグァンプKの保証成分ですが、アンモニア(態)窒素が窒素の「性格」です。アンモニア(態)窒素はすなわち「し尿」のようなもので、水質の汚染度合を示す指標として使われることもあります。つまり「汚染物質」で、いかに底床微生物の活性化の鍵を有機物が握っているとは言っても汚染物質と紙一重であることは間違いないのです。使用されている方は使用量や底床活性化との相関関係をどこまで「見切って」いるのでしょうか?皮肉ではなく、見切る根拠があればぜひ伺いたいものです。
さらにリンの問題があります。霞ヶ浦水系でのアオコ発生の主要因はリンの流入によるとされており、沿岸部ではリンを含む洗剤の使用の自粛を呼びかけているほどです。こちらも植物にとっては必要不可欠の物質ですが、水溶した際にアオコのような藻類の好餌となってしまうのです。この「水溶しやすいリン酸」の比率が高い点に危惧は無いのでしょうか。く溶性(*1)の底床中に留まるリン酸も含めて、鉄、アルミニウム、カルシウム等と結合し、結局は長く水槽内に留まってしまうはずです。

【プロミック】
窒素全量 10.0
く溶性りん酸 10.0 内水溶性りん酸 4.5
水溶性加里 10.0
水溶性苦土 1.0
く溶性マンガン 0.1 内水溶性マンガン 0.01
水溶性ほう素 0.05

プロミックの窒素はウレアホルム(尿素とホルムアルデヒドの縮合物、とされています)です。窒素の実態は尿素ですが緩効性で微生物の視点から見れば「無機物」に近く底床の活性化には繋がりません。ホルムアルデヒドの存在も気になります。安全基準を満たしているのはプロミックのパッケージに印刷されている用法に限るのではないでしょうか。「観葉植物の置き肥」を水槽内で底床に埋めた際に何が起きるのか書いてあるのでしょうか?
こちらはリン酸は抑え目ですが、カリの比率が高くなっています。これまた既出記事に書いた通り、優先吸収やら何やらで過剰は完全に害、です。この肥料も水槽内での使用は精密な「見切り」が要求されると思います。しかも底床の活性化には繋がりません。


今まで書いてきたような心配は杞憂なのでしょうか?あるいは単なる可能性なのでしょうか?本当にそうであれば話は簡単で、費用の嵩むアクアリウム用肥料を使用せずに500円も出せば60cm水槽なら何十年分もありそうな程買える園芸用肥料を使用すれば済む話です。肥料である以上、保証成分の表示もあります。しかし、園芸用肥料の世界でも前稿のような「誤解」が罷り通っているのです。
どういう事かと言うと、観葉植物や室内園芸の隆盛で売れる肥料は無機肥料が圧倒的に多いのです。そりゃそうです、室内で油かすの匂いがしたのでは頂けません。我が家では庭植花壇でも無機肥料を使用します。狭い庭ですので室内のような距離ですから。しかし前稿にさわりだけ書きましたが、植物(野菜含む)が健全に生育する土壌のためにはこれではダメなのです。

(*1)く溶性
く溶性(citrate solubility)は、水には溶け出さず2%のクエン酸水溶液に可溶する成分と定義される。要するに溶けにくく植物が吸収できる肥料として保証形態に記される成分であり、リン以外にも苦土(マグネシウム)、加里(カリ)、マンガン、ホウ素について示される。ちなみに肥料取締法に於ける公定規格の主成分に指定されている法定規格である。

花壇や菜園で機能し水槽では機能しない


自分自身は必ずしも信奉しておりませんが、無農薬、有機栽培という表示がある野菜は不恰好で虫に喰われた跡があっても何となく立派に見えます。もちろん気のせいですが、私でもそう思うほど有機栽培(定義、らしきものによれば無農薬も包括する概念)は一般化した用語となっています。たしかな理由は分からなくても農薬や化学肥料はよろしくない、という風潮です。
実は農薬による土壌生態系の破壊や硝酸態窒素過剰となった野菜が人畜に与える直接的被害もありますが、園芸、水中園芸に於いて問題としなければならないのは有機物を中心にした微生物の生態系です。無機肥料、化学肥料を使用することの最大のデメリットはこの微生物の生態系が形成されないことにあります。水槽で言えば水草が育ちにくい底床、です。個人的には園芸用肥料の使用は長期的に見てメリットよりデメリットの方が多い、と考えています。

花壇や菜園で条件により機能するものがなぜ水槽では上手く行かないのか、そのメカニズムの話の前に、実は園芸用肥料も「花壇や菜園で機能する」とは限らないのです。むしろ使用方法や量に於いて非常に細心の注意を要求されます。時として「肥料負け」「成分欠乏症」等により致命的結果がもたらされます。
象徴的な話として、戦後食料増産のために開拓された北海道の原野などではリンの不足によって植え付けた作物が枯死してしまい、当時高価だったリン鉱石の輸入も進まなかったことから開拓者の離脱が相次いだそうです。ではリンや窒素が足りていれば良いかという問題でも無く、卑近な例では「早く咲け」とばかりに限度を超えた施肥が草花の枯死をもたらしたりします。有機肥料よりも化学肥料でこの傾向が顕著です。私も度々経験しました。

それでもまだ花壇や菜園では緩衝力もあります。施肥前の「土作り」に有機質の土材を混ぜ込みますので微生物の活性化があるのです。ミミズの活躍もあります。このことで要素の多少の過不足はアローアンスとして吸収できるのです。只でさえ使用が難しい園芸用肥料を「園芸用だから」という根拠のみで微生物の繁殖の無い水槽底床に用いれば上手く行く方が不思議なのです。
土壌微生物と植物の栄養吸収に付いては別項で解説しましたので多くは触れませんが、多分に「風が吹けば桶屋が儲かる」的なサイクルが実在するのが土壌なのです。この流れは単一の原因によるものではなく、生物と物質の循環の結果、言わば土の物理性、化学性、生物性という3つの要素が織り成すものです。(*2

(1)有機物が存在しなければ土壌微生物が活性化しない
(2)土壌微生物が活性化していなければ植物は養分吸収できない
(3)この状況で肥料を投入しても無駄、さらに無駄以上に嫌気分解の材料となる
(4)嫌気化した土壌では鉄が還元状態(二価鉄)となり、さらに植物が生育できない
(5)有機物を施肥しても有用土壌微生物(多くは好気性)は活性化しない

どうにも水草が育たない、調子が悪いという(1)〜(2)の段階で(3)を行っても更なる状況の悪化を加速させるだけ、という図式が「水槽では機能しない」理由ではないでしょうか。陸上でも(4)(5)の状態となったグライ土壌というものもあります。農地としても不適格な土壌で、客土など大規模な土地改良が必要になります。初期の段階で土壌微生物の活性化を念頭に置いた管理を意識しなければならないのは水槽底床も同じはずです。

このような面倒な事を考えたくない、ということでしたら素直にソイル底床を使用することをお奨めします。有機酸をはじめ初期の土壌微生物の活性化のための物質が含まれており上記のような崩壊のプロセスはほぼ起こりません。
しかし、ごく初期の段階で土壌微生物が有機物を分解し始める前に藻類が有機物を利用しますので初期に大量の藻類との戦いを余儀なくされます。もう一点、陽イオン交換による効果、土壌へのミネラル集積による植物育成効果(個人的にはこれがソイルの第一義、と考えます)と相対的なpHの低下という効果が土壌の物理性の低下、すなわち団粒構造の崩壊により持続しない、という現象が比較的短期間で見られます。簡単に言えば安からぬソイル底床を買ってきて交換、ということです。
趣味に少なからぬ時間と費用を投入できる立場の方はこれでも結構だと思いますが、なるべく手間と維持費を軽減し、大量の藻類との戦いを定期的に行いたくない私としてはニーズに合わない方法論であるという判断をせざるを得ません。

(*2)土壌の性質
物理性:団粒化の程度による保水性、通水性、通気性の状況
化学性:肥料分の供給、すなわち土壌中に存在する物質の種類と性質、保肥力など
生物性:土壌微生物の動向

アクアフローラは万能か



【アクアフローラ オランダ製品パッケージより引用】
輸入業者保証票
登録番号 輸第5958号
肥料の種類 家庭園芸用複合肥料
肥料の名称 アクアフローラ水草用肥料
      AQUAFLORA WATER PLANTS FERTILIZER
保証成分量(%)窒素全量 14.0
        内アンモニア性窒素 7.0
        内硝酸性窒素 7.0
        水溶性りん酸 6.0
        水溶性加里 11.0
        水溶性苦土 0.5
        水溶性マンガン 0.02
        水溶性ほう素 0.02
(以下省略)

論旨の流れがこうなってくると、「園芸肥料は園芸用、水槽内での動きは想定していない」「アクアリウム用には有機窒素が含まれたアクアリウム用肥料を使用すべき」という結論が見えてくると思います。そしてその維持を図るためには礫性の底床が最適であるという結論も見えてきます。基本的にはその通りなのですが、現実的に「使える」肥料が存在するかと言うと断言できない状況もあります。
ただし「一番有効なアクアリウム肥料を教えろ」ということであれば、このアクアフローラをお奨めします。と言っても写真は砧インターナショナルが輸入販売していた頃のもので現在はどこがどうしているかは分かりません。内容は同じでしょう。この肥料の効果は、ミズトラノオやエキノドルスを植替えのために引き抜いた際に、根が肥料に絡んで抱えているのを見ることで実感できます。理屈はさておき、多くの植物がここから養分吸収をおこなっているのです。まさにイメージ通りの「肥料」そのものの役割を果たしているのです。
この肥料がなぜ評価が高く効果もあるのか、という話ですが幸いな事にこの「肥料」は輸入開始時点で肥料として申請、認可を取っているようですので成分構成を正確に知ることができます。
ここから読み取れるのは窒素の比率が高い、そして無機窒素である硝酸性窒素と同量の有機窒素、アンモニア性窒素が含まれている、ということなのです。これは無機肥料の限界と弊害を熟知し底床の活性化を狙った成分配合になっているのです。まさに今まで書いてきた「底床の活性化」に最適の肥料なのです。そして欠乏症によって致命的影響を受ける窒素、リン、マグネシウム(=苦土)も含まれています。理想的です。
実質「し尿」であるアンモニア態窒素も肥料表面に施されたコーティング、しかも1箇所のコーティングが剥がれることで一気に流出しないように考えられた構造(独特の形状で「おこし」と称されます)によって防止されています。

しかし、ここまで利点をあげて何ですが、この肥料が万能かと言うと、どうもそうではないように感じます。
万能ではないと思うのは費用対効果のバランスが悪いこと。簡単に言えば高いのです。効果を認識しつつ大量に使用しようとすれば60cm水槽でも万単位の出費を強いられます。それでもOK、という層はかなり限られると思います。もちろん私はNGです。
底床を健全な状態に保ちたいが、コストの問題で部分的にしか実現できない、施肥した「おこし」はクリプトやエキノに抱え込まれて影響を広範に行使できない、という図式が見られます。もちろん大切な水草にひいきして施すという手もありますが、植栽している水草の全てが健康に育って欲しいという気持ちもあり、悩ましいところです。
もう一点、成分が明らかな分、その他の成分は含まれていないのです。ただし微量要素の欠乏は他の物質で代替したり、致命的な影響は出にくいのでこのままでも構いません。ここではじめて前稿で例示したような「サプリメント」が活きてくるはずです。この条件がクリア出来れば経験上最強の肥料であることは間違いありません。

原点の思想


ダッチアクアリウムの維持技法に、肥料を抑えて水草の生長を抑制する、というものがあります。これはとりも直さず「肥料分が水草の生長に大きく影響する」ことを示しています。当然の事、と考え勝ちですが、サプリメントのみを重用したり園芸用肥料の危険性を検証せずに使用してみたり、要するに「ダッチの技法」とも呼ぶべき古典的な技術のスタート地点にも立っていない(生長を抑制する前に肥料の面で生長に四苦八苦している)のが一般的な我が国のアクアリウムの平均的な姿ではないでしょうか。この「技法」を深く掘り下げてみると、微生物の活性化のための立ち上げ初期の有機物、有機物の無機化による他の物質の消費という観点で非常によく考えられている事に気が付きます。ダッチアクアリウムの解説ではないのでポイントだけ原点回帰の意味で最後にお話をしたいと思います。

礫系の底床は土系底床に比べて半永久的に使用できる、水質に対する影響が些細というメリットがあります。反面礫なので有機物を含まない、という立上初期のデメリットもあります。ダッチアクアリウムの底床は前者、すなわち礫ですのでデメリットを解消するために様々な方法論が発達しました。底床に肉を仕込む、というのは極端にしても色々と調べてみると園芸知識をベースに有機物を自分なりに工夫して施しているようです。

話ががらりと変わりますが、アクアリウム用の「試薬」を皆さんはどのように利用されているでしょうか。魚が長生きしない、とか水草よりも藻類の方が多い、という緊急事態にでも陥らない限りせいぜいがpH、KH、GH程度しか使用しないのではないでしょうか。その他アンモニア、亜硝酸など一度は測ってみても概ね安全範囲にあるということで異変が目視できない限りはお蔵入り、というのが平均的ではないでしょうか。
実は自分なりに有機物を工夫する段階でこの試薬によって有機物の溶け出しと微生物の活性化を推し量ることが出来るのです。ここから先は真似られても責任が持てませんので概要のみ書かせて頂きますが、自分で立ち上げを行っている過程でダッチの本場でどのように立ち上げを行っているかが薄々分かったような気がします。

さて、その「概要」ですが、園芸用肥料、アクアリウム用「肥料」、どれ一つとっても単品ではまったく期待する効果を得ることが出来ませんでした。魚肉や肉類も試しましたがすぐに腐敗して失敗でした。試行錯誤の末に到達したのが自家製「立ち上げ用」肥料で、レシピは秘密(笑)ですが、有機物はバクテリアを使って熟成したもの(半分以上実態を晒してますね^^;)を飴玉を溶かしてコーティングします。
材料は生ゴミ処理機、生ゴミ、飴玉で(結局全部晒していますね^^;)非常にエコでローコストです。ただし処理された「肥料」のどの部分をどう使うか、コーティングの厚さはどうか、この辺は試行錯誤の末の「財産」ですので本当に秘密で・・。
有機物の緩やかな浸透、コーティングに含まれる糖により硝酸塩の同化を促進する、という「一応の」科学的根拠もあります。糖由来の微生物は増加しやすく、水中を漂い導電率を上げてしまいますが、そこでタニシの出番。試薬で日々溶け出しをチェックし、多すぎれば肥料の取り出しも容易です。

礫性底床の立ち上げはこんなことをしておりましたが、たぶんダッチの世界でも表に出ないノウハウがあるな、というのが薄々感じたところです。自家製肥料は生ゴミの種類によって成分組成は無茶苦茶(笑)だと思いますが、盲目的に化学肥料を使用するよりも遥かに結果が出ます。残念ながら現状、立ち上げの際に有効な製品が見当たらず、自分で考えて工夫するしかない状況ですがこれもまた趣味の醍醐味だと思います。


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