湿 地 の 基 礎 知 識 |
【生物多様性】2 外来生物法その後 〜biodiversity2 時期早尚か嵐の前の静けさか〜 |
◆静けさ◆ 外来生物法が施行されて3年、当初の矢継ぎ早の指定のペースから、3〜4年で多くの種、特に水草が特定外来生物に指定されるものと予想しておりました。予想に反し第三次指定(2006年9月1日、植物の指定はなし)以降、具体的な動きがなく、当初の要注意外来生物も「要注意」のままの状態が続いています。 この状態をどう見るか、言い方を替えれば「今後どうなるか」という点に関し非常に興味深いものがあります。現在の内部事情は関係者ならざる身、推し量るしかありませんが、当然考えられるべき二つの状態、これまでの経緯を踏まえて慎重策を取っているか、次なる積極策のための準備期間なのか、どちらかであるはずです。どちらの状態であるか、と判定出来るほどの判断材料はありませんが、情報公開の原則から見れば前者の状態に陥っていることも十分考えられます。 【環境省Webサイト特定外来生物の選定(専門家会合資料・議事録等)より履歴を転載(2008年4月時点)】
さて、今回はこの事態を踏まえ、フィールドで見聞した事実により「今、外来生物法に何が起きているか」というテーマに付いて考えてみたいと思います。くどいようですが、内部事情は一切知りませんので完全な推測がベースです。 |
◆実効性に鑑みた指定拡大の危険◆ 第一次〜第三次で指定された外来生物(主に植物)が現状どう扱われているのか、という点は今後指定が停滞するのか進捗するのかを推し量る上で非常に有用な情報となります。この画像はある公立公園内のものですが、特定外来生物のオオフサモ(Myriophyllum brasiliense Cambess.)が生い茂っています。何度か訪れていますが、積極的な防除は成されていないように見えます。この植物がオオフサモであるということは公園の管理者側も認識しているはずです。管理者側には植物を専門とする学芸員もいます。 ただ、公園内に定着していることと防除のためのスキーム、特に資金の面で確保が成されるかどうか、というと微妙な問題です。公園に限らず私有地であっても外来生物法の条文には「抜道」とも言うべき瑕疵があるからです。もちろん刑事罰を伴う法律ですので強制力があります。ただし「誰も気が付かない」特定外来生物が存在した、簡単に言えば「認識していない」特定外来生物には防除の力が働かないのです。これを条文から追ってみます。
防除に関する主たる条文、第十一条には「特定外来生物による生態系等に係る被害が生じ、又は生じるおそれがある場合において」とすでに腰が引けた表現が見られます。特定外来生物と言えども「見敵必殺」ではないのです。しかも防除の主体を主務大臣としていますので、公園の管理者だろうが土地の所有者だろうが、防除に付いては主体的な判断を求められていないことになります。 この条文の解釈に於いて、上記画像はある意味「正しい姿」なのです。実務的には情報伝達ルートによって繁茂の状況や被害実態の報告がなされ、防除の指令がなされる「運用」だと思いますが、法律の定めるところでは報告義務、防除義務は土地管理者、所有者にはないことになります。 さらに、実際に防除が行われたとして、この費用の負担ですが第十六条に「国は、第十一条第一項の規定による防除の実施が必要となった場合において、その原因となった行為をした者があるときは、その防除の実施が必要となった限度において、その費用の全部又は一部を負担させることができる。」とあり、下手をすれば土地の管理者、所有者が費用負担をしなければならない可能性が垣間見えます。簡単に言えば沈黙は金に成りかねません。 現実的な運用としてこの「防除」は主務大臣以外にも判断が委ねられています。次の第十八条によれば国以外に地方公共団体と「以外の者」と規定されています。「以外の者」とは国、地方公共団体に属さない民間NPOなどを想定していると考えられます。ただ「民間NPO」と規定はされておりませんので、極端な話誰でも防除の申請と認可が降りた際の実施が出来ることになります。 しかし穿った見方かも知れませんが、当初の段階から環境省や国に権限を集中させず「誰にでも振れる仕組」になっているのが腰が引けているのか、現代の法律的なのか、何となく弱さを感じます。
有効に防除が進んでいない実態、裁判員制度や駐車違反取締よろしく民間に投げる道を規定している点などを判断すると、当初の段階で指定を拡大した際の実効性に対する危険が懸念されていたのではないか、と見ることも出来ます。 |
◆業界との関連◆ 本法関連で指定と指定種に利害関係が発生する業界の対応が注目されました。ひとつはオオクチバス(ブラックバス)の指定に於ける財団法人日本釣振興会の対応です。ある意味業界全体の利益を代表する立場ですのでオオクチバス指定に反対の立場を取ったのは理解できます。しかし結果はブルーギルとともに特定外来生物に指定が成されました。 もう一つの事例としてセイヨウオオマルハナバチですが、こちらは低温に強く在来種と競合し駆逐するために分布を急速に広げ危険性が非常に強い昆虫ですが、環境省Webサイトによれば「トマトの授粉など農業に使用されるものは、「生業の維持」の目的であって、ハチの逸出を防ぐ措置がとられている施設の中であれば、許可を得たうえで引続き使用することができます」と、書類一枚の違い以外は扱いに差異がありません。 この二つの事例を対比してみると様々な要素が浮上します。 (1)釣具の業界と農業という産業(業種業態の重さ)の違い。自民党が票田とする農村部への配慮? (2)オオクチバスは「害魚」という認識が一般化した生物と、農業用(虫媒花受粉用)の「益虫」の違い (3)単なる「遊び」のためのアミューズメント産業と「食料生産」という重要産業の違い (4)釣業界と農業の業種規模の違い (5)ロビーストの質量の相違 個人的には(3)が非常に重いと考えています。環境省もセイヨウオオマルハナバチの扱いで「生業の維持」という表現を使っています。もちろん釣具を販売するのも立派な生業ですが、第一次産業は国家の食料戦略に直結しますのでいたし方ないところ。何となく業種の重みによる扱いの差が実感できるところです。 前章の仮説「静観放置策」が続けば何ら問題もありませんが、積極策準備期間であった場合、アクアリウムを含めたペット業界、つまり生存戦略に無関係な業界への配慮が無いことは覚悟しなければなりません。 |
◆嵐の前の静けさか◆ 一番恐いのはタイリクモモンガ指定の経緯で検証したように「被害実態が無くても可能性によって指定される」ことだと思います。(以降の話は水辺サイトとして水草に絞ります)水辺を歩いてみてもオオフサモ(特定外来生物)やオオカナダモ(要注意外来生物)の脅威は普遍的に体感できますが、ミズヒマワリやオオカワジシャ(両種とも特定外来生物)の分布はかなり限定的なものに感じます。もちろん現在の分布という生態学的な側面よりも「今後拡大する可能性を秘めた種の特徴」という植物生理学的な観点も加味されていると思いますが、どちらにしても恣意的に選定されていることは間違いありません。 そして今でこそ「点」としての選定ですが、可能性を考え出すと容易に「線」としての選定に繋がるはずです。つまり、科として爆発力を秘めたフサモ属全般とかチョウジタデ属全般とか。こうなってしまうとミリオフィラムとルドウィジア全般の飼養が不可能になります。アメリカキカシグサの分布拡大でロタラ全般、ホソバヒメミソハギの被害拡大でアマニア全般とか。(これは推論ではなく、環境省Webサイトの表現にも感じられるところです) つまり現状楽しんでいるアクアリウム用水草の大部分が容易に「禁制品」となってしまう可能性があるということなのです。 次なる大規模なペット(水草含む)の特定外来生物指定を加速させる動きとしては「カエルツボカビ病」の問題がありました。現時点で日本のカエルは壊滅的打撃を受けていませんので「生態系に重大な影響を与える可能性」ですが、環境省や関連団体の動きは異様に素早く、最早「ペットとしての外産カエル」の存在を論議する段階となっています。 嵐の前の静けさなのかどうか、人間が思考する以上どこかに兆候やヒントがあるものですが、私は座長としての角野先生が外産水草に対しどう考えているか、という点に注目しています。これによって特定外来生物の動向も影響を受けるだろうと考えているからです。先生がどうお考えになっているか、著作、日本生態学界の公演などで伺い知ることができます。現状の植物指定種のみでは少なすぎて固有の植物を守れないとお考えになっているようです。 生物多様性国家戦略として「形だけ整えた」のか、本格的な始動を前に準備期間に入っているのか、家電リサイクル法の骨抜きの経緯を見るに「法律が絶対正」の時代が移り行くことを感じますが、動きがあるとすれば「次は大きい」のではないか、と思います。 ●非常に強く、◎強く、○出来れば、×実質無理、△どちらでも
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