湿 地 の 基 礎 知 識


【生物多様性】4 生物多様性条約


〜biodiversity4 世界的な価値観の国内での取り組み〜


生物多様性とは

地球が住みにくくなった、という思いは多くの方が共有するようで突飛な話ですが火星移住計画というものもあります。環境が破壊され資源の尽きた地球を見捨てて火星の環境を改良して移住しようという、現時点ではSFレベルの話です。ただSFにしては具体性があって、当初酸素を増やすためにある種の藻類を送り込んで何百年か待ち、水を作り雲や大気圏が出来た段階で高等植物を送り込み、徐々に地球と同じ環境にして行こうというものです。
そんな話が出るほど地球は住みにくくなってしまったのでしょうか?何とか改善できる余地は無いのでしょうか?こんな思いから世界各国が協調し、様々な試みが行われるようになりました。
京都議定書」という言葉を聞かれたことがあると思います。これは気候変動枠組条約という国際条約に基づき1997年に京都で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された議定書です。内容は地球温暖化の直接原因である温室効果ガスの一種である二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、HFCs、PFCs、六フッ化硫黄について、先進国における削減率を1990年基準として各国別に定め、共同で約束期間内に目標を達成するというものです。夏の冷房温度設定28度とか冬の暖房温度18度など、各事業所や公共の建物などで経験された方も多いと思います。
また、前出記事で「ラムサール条約」について触れましたが、正式には「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」と呼び、各国が生態系を維持するのに重要な湿地を登録し、維持保全を図ろうというものです。湿地(広義の)が生態系の重要な場所であることはすでに述べた通り普遍的な認識となっています。
このような世界的な取組みが行われるようになった背景には冒頭の「住み難さ」という曖昧な概念もありますが、より具体的な脅威として食料問題や未知の病気の流行などが予想外の気候の変動や生態系の破壊によって引き起こされる事が分かってきたためです。一説には現在全世界で絶滅する生物種は年間4万にも及ぶと言われています。このまま環境破壊と生物の絶滅が進んで行けば「住み難い」環境は「住めない」環境になってしまう、と。
この観点から批准されたのが「生物多様性条約」です。その精神はとても引用できない分量ですのでこちら生物多様性情報システムのサイトでご確認下さい。冒頭では「生物の多様性及びその構成要素が有する生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリエーション上及び芸術上の価値(リンク先、生物多様性情報システムのサイト生物多様性条約本文より引用)」と謳っています。人類の活動すべての根源が生態系、つまり人類も生態系の一部であると謳っています。この重要な生態系を守るための立場の違い(各国の経済力、産業構造、思想の問題)を尊重し出来ることを役割分担しようという現実的な枠組みが見える条約です。

生態系のバランス

生態系のバランスが崩れると何が起きるか、これは誰も正確に回答できない命題です。非常に簡単にデフォルメして言ってしまうと、次のような現象が目に見える影響として起こりえます。

・漁獲量の減少
外来魚の移入によって在来魚の漁獲が減少した霞ヶ浦の事例がこちらにあります。
ただし、霞ヶ浦の場合は蓄積したリンを吸収すべき水生植物が湖底の嫌気化によって好気性バクテリアを失ったために生育できず、産卵場所や隠れ家としての藻場を維持できず水質の悪化も歯止めがきかないという環境面キックの生態系崩壊も影響として大きい事実があります。

・農業収穫量への影響
湖岸植生の減少、河川流入量の減少によって水量を維持出来なくなったアラル海が干上がり、漁獲量以外に周辺の灌漑農業が打撃を受けていることが知られています。干上がった湖底から塩分が舞い上がり、塩害によるさらなる農業への打撃、健康被害も出ています。

・自然災害の規模拡大
湿地植生の生態系喪失という点ではミシシッピ川沿いの湿地帯喪失によるルイジアナ州ニューオリンズの台風被害も知られています。植生の持っていた保水力が失われてしまった結果です。

他にも砂漠化やら何やら大規模な環境変動を引き起こすトリガーは生態系の破壊にあると言っても過言ではありません。現在残されている生態系を守ることは今後の破壊によって引き起こされる予想を超えた環境変動に歯止めをかけようということなのです。
また、可能性として言われていることは、人類の将来に関わる重要な遺伝子が失われてしまうことを防止するということで、抗生物質が人類全体に巨大な恩恵をもたらした事実を考えれば納得できる話です。
ただし焼畑農業や森林伐採など、そうすることでしか生計の道が無い途上国にはそれなりの配慮(援助)を行おう、と。人間を守るために生態系を維持するのに、その手段によって人間を圧迫するのでは本末転倒であるからです。これも生物多様性条約の精神の一部です。
さて、日本人のみならず「総論賛成、各論反対」は人間の傾向としてあるようで、では具体的枠組はどうするんだ、という部分がいまいち明確になっていませんでした。そこで本条約に関連する国内法が次々と施行されることになりました。 このコンテンツで再三テーマとしている【外来生物法】(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律、平成17年6月施行)のみならず、関連法として様々な法律が施行されています。

具体的枠組

【遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律】
【自然環境保全法】
【自然再生推進法】
【自然公園法】
【鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律】
【絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律】
【南極地域の環境の保護に関する法律】

以前から施行されている法律も含まれていますが、生物多様性条約や外来生物法によって随時改正されてアップトゥデートな内容となっています。ご興味がおありでしたらぜひ条文を通読することをお勧めします。今回この項を起こす際に調べて初めて知りましたが「南極地域の環境の保護に関する法律」なんてのもあるのですね。南極は世界各国のもの=特定の国の領土ではないためパスポート無しで行ける唯一の大陸です。逆にそれぞれの国内法で縛らないと治外法権になってしまうようです。
余談はともかく、あるものは純粋に生態系を守護する立場から(環境省)、農業・水産資源の利用の側面から(農水省)、あるものは学術・教育的立場から(文部科学省)主管された各法が存在しています。これは「生物多様性国家戦略」という生物多様性条約に基づく国家戦略として位置づけられるものです。(正直、後から位置付けたものもありそうですが^^;)
このうち最もインパクトが大きいのはやはり外来生物法であり、その罰則の重さもさることながら身近な生物の飼養が禁止されることが意味として正しく伝わるように子供向けのニュース番組などでも取り上げられています。飼ってはいけない、となると子供は必ず「なぜ」と聞いてきますからね。勉強不足&関心の薄いお父さんお母さんには子供の目線で納得させられる回答は無理でしょう。それどころかご本人達も言葉さえ知らない方々も多いようで・・・。上にあげたような法律は一般の方が日常知る機会も無いでしょうね。しかし、最高1億円の罰金のなかで何も知らないで生活するのは寒すぎます。
寒いと言えば現状では各法の具体的枠組みも相当寒く、怒るべき方は怒っています。>こちら(財)日本自然保護協会の理事長というお立場の方のご意見ですが、なかなか読ませます。やはり現場で少しでも動いていると一番頭に来るのはお役所的修辞的な言い回しと省庁間の綱引きですからね。「具体的に何をどうするの?」逆説的ですがこれが一番欲しい答です。

個人としての取組み

環境関連各法は言ってみれば個別の事象(自然公園の維持、侵略的敵対的外来生物の防除、など)を法律にしたものですが、根は同じです。すなわち環境に与える負荷をミニマムにしようという事です。
マクロ的な生物多様性条約、国として具体的枠組みである生物多様性国家戦略及び施行されている環境関連法、ではこれを受けて個人として何が出来るかという視点も重要な要素となります。大河の一滴ではありませんが個人単位に運動を広げることが環境保全の近道であることは間違いありません。条約や法律ですべてが解決出来ればこんなに簡単なことはありませんから。

(1)節電
これは2005年から始まった国家的取組みでもありますが、現在発電の主力である火力発電を少しでも減らそうという趣旨の運動です。火力発電は化石燃料(石炭、石油)を使用いたしますので電力を得るために膨大なCO2を発生させてしまいます。
個人として出来ることは「使わない電気はこまめに消す」ことです。電気代の節約にもなります。例えばTVやビデオの待機電力はもったいないですね。リモコンでいつでもON/OFFは便利ですが、使っている認識が無くても料金が発生し、環境に負荷を与えるのは無駄かつ有害です。また誰かが夜間外出した際に玄関の街灯を点けたままにするのも無駄、我が家では敷地内でのみ反応するセンサーライトにしました。
実はこの「もったいない」という精神は世界に冠たる日本語になっているようで、2004年ノーベル平和賞受賞者でケニア共和国環境副大臣、ワンガリ・マータイ氏がこの言葉を世界に広めているのだそうです。彼女が提唱するReduce(消費の削減)、Reuse(再使用)、Recycle(資源リサイクル)を広めようと「3R」とか色々考えたらしいのですが、なかなかピタリとはまる言葉が無かったようです。来日した際にこの3つの言葉の精神を一言で表わす「もったいない」という言葉に出会い感銘を受けたとの事です。世界中探しても「もったいない」に相当する単語は無いそうです。WBC日本代表や荒川静香女史と並んで世界に誇るべき事だと思います。

(2)排水
都市部はともかく、私の住むような地方都市では下水普及率が低く大きな問題となっています。その結果、都市部の河川は綺麗で水草が生茂っているのに田舎に来るとドブのような川だらけ、とパラドックス状態となっています。
これは下水道行政の在り方も問題だと思いますが、従来垂れ流し地域に下水本管が開通した際に各家庭の負担となる金額が大きすぎるのも普及を阻む要因ですね。我が家も引っ越して来た当時は浄化槽、LPGでした。本下水、都市ガス化で数十万円単位の出費を強いられています。どの家庭でも右から左に動く金額ではないと思います。(ここで「もったいない」を発動するのは筋違いですけど^^;)
河川湖沼への直接のダメージを考えた場合問題となるのは合成洗剤ですが(異論があることは認識しています)、少なくても無リン洗剤を選択することは効果がありそうです。ただしリンの代替物質の環境影響度(環境ホルモン等)を懸念する声もあり、なかなか難しい問題です。詳しくはこちらをご参照下さい。
個人としては無駄な水を流さないのはもちろんですが、環境に優しい(自然分解率が高い)洗剤の選択などで取組みが出来ると思います。

(3)ゴミの削減
スーパーのビニール袋を持参して買い物に行く、資源ゴミの分別を徹底する、など普通に出来る事がたくさんあります。個人版ISO14001です。
ゴミの処分については各自治体とも最も頭の痛い問題で、大きなコストがかかる焼却場建設が間に合わず、埋め立ても行われています。茨城県では笠間市のふじみ湖の喪失など痛ましい事例もあります。詳しくはこちら。これは行政の暴挙としか言いようが無いですね。
個人個人が少しだけゴミの量を減らす事で自然環境喪失防止の大きな力となります。

柄にも無く非常に倫理的かつ教条的文章で書いていて嫌になりますが、生物多様性国家戦略、循環型社会、これらは無関係なニュースネタではなく刻々と整備される法律により、学校教育に組み込まれたカリキュラムにより早晩普遍的な価値観となると思います。無制限に自然の恩恵を受ける時代の終わりの始まりが生物多様性条約であるような気がします。



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