植物用語辞典 利助流家元版

光合成特別編


【光合成関連】
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植物の光合成は非常に複雑かつ精緻な仕組で関連する用語も多く、用語が分散すると解説しても何が何だか分からん、ということに成りかねませんので独立させ、纏めて解説をさせて頂きます。
(ボールド、アンダーラインの用語は用語辞典に載せたものです)

Chapter1】基本的仕組

光合成(photosynthesis)とは植物体が光エネルギーを電気的・化学的エネルギーに変換し、二酸化炭素と水から糖類(炭水化物)、具体的にはブドウ糖C6H12O6を合成するプロセスを指す。二酸化炭素を吸収するため炭酸同化作用と呼ばれることもある。(以下、特に断りのない限り「植物用語辞典」として光合成と言った場合、高等植物や藻類が行なう酸素発生型光合成を指す。光合成細菌による光合成は考慮に入れない)
光合成では成果物の一つとして酸素を生じるが、「二酸化炭素を吸収して酸素を放出する」結果は同じながら、酸素は二酸化炭素由来のものではなく、以下詳述するプロセスの通り水を分解する過程で生じるものである。

【明反応と暗反応】
光合成は葉緑素(体)で行なわれるが、葉緑素中のチラコイド(膜)という小胞内にあるクロロフィル(光合成色素)(*注1、注2)が光エネルギーによって水を分解し、酸素と電子、水素イオンを生成する。いくつかの複雑なステップを経てATPNADPHというエネルギーを生成する。以上のプロセスが光エネルギーを使う明反応でチラコイド反応とも呼ばれる。
続いてチラコイドの外部、葉緑体基質に於いてATPとNADPHを使用し、二酸化炭素を取り込みブドウ糖ブドウ糖(C6H12O6)を作る。この反応を発見者の名前を取ってカルビン-ベンソン回路と呼び別名暗反応とも呼ぶ。
以上で理解できるように、光合成に於いて酸素の放出は二酸化炭素の吸収に先立って行なわれるのである。

(*注1)クロロフィルは光合成色素として知られるが、正確にはクロロフィルa、b、c、dと4種類あり役割が異なる。光化学系は複雑すぎてとても語りきれないが、吸収する波長が異なったり互いに干渉したりと実に複雑怪奇。さらに光合成色素にはβカロチン、キサントフィルも含まれる。これらは最近の研究では光呼吸(↓)に対する安全弁の役割も指摘されている。
(*注2)光合成に関与する色素には光化学反応中心のもの、受光し光合成開始のきっかけとなるもの(アンテナ色素)に大別されるが、これらは多種類の色素他の物質の集合体である。(蛋白の関与が通説であったが最近の研究では否定的な見解も出ている)この項自体で用語解説が別途必要になるほどなので今回は概説に留める。


Chapter2】光量と二酸化炭素吸収量

誤解を恐れずに言えば明反応は光によってエネルギーを生成するものであり、暗反応はエネルギーを使って二酸化炭素を加工する反応である。
従ってエネルギー生成量(光の量)と二酸化炭素の吸収量には比例関係が存在する。この関係を示したものが右図であり、ライトカーブと呼ぶ。
飽和点に至るまで二酸化炭素の吸収量は光量にほぼ比例するものとなる。言ってみれば原料(二酸化炭素)と、原料を加工する機械のエネルギー(光量)の関係に等しいので当然のことである。
アクアリウムの世界で、水槽の光量不足を補うために二酸化炭素を添加するという説があるが、以上の理論から明らかに誤りであると言える。エネルギーのない機械は原料を加工できない。

(*)右図は光量と二酸化炭素の吸収量を「概念的」に示したもので、概念には呼吸も加味する必要がある。ここもよく誤解される点であるが、植物も生物である以上、光合成とは別に酸素呼吸を行なっている。呼吸の物質の代謝は酸素と二酸化炭素で行われるのであくまで「見かけの量」の概念であることをお断りさせて頂く。差額が0となる点が補償点である。


Chapter3】光合成の「型」

【C3植物】
光合成には植物によって「型」が存在する。特に(一応水辺の植物サイトなので^^ゞ)水草の場合を言えば、多くは光合成タイプがC3である。C3の光合成タイプの植物を「C3植物」と呼ぶこともある。そもそもC3とは炭素固定反応の生産物が炭素原子3個を含む化合物であることに由来し、二酸化炭素還元回路はカルビン-ベンソン回路のみで、炭素固定に関与する酵素であるRubisCO(リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、Ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenaseの略称)を使って光合成を行う植物である。
例外的に1981年にアメリカ地質調査所生物資源部門のジョン・キーレイという人がミズニラの一種がCAM植物(Crassulacean Acid Metabolism:ベンケイソウ型有機酸代謝)(*後述)であることを発見し、発表しているが、例外的なケースである。
【C4植物】
C4植物はC3植物から進化したものであると考えられており、カルビン - ベンソン回路以外にC4回路というCO2濃縮のための回路を持つ光合成形態である。C4はC3の由来同様、初期生産物が炭素原子4個を含むことに由来する。カルビン - ベンソン回路同様に発見者の名前からハッチ‐スラック回路と呼ばれることもある。(一般的ではないが)
C4植物は維管束鞘細胞にも葉緑素を持ち、効率的に光合成を行える上に炭素固定量がC3より多いので光合成速度が速く、成長も速い。まさに「進化」である。C3との相違は光呼吸にも関連するが後述。
【CAM植物】
CAMとは簡単に言えば夜間にCO2を取り込み濃縮し、昼間光合成を行う光合成タイプである。カルビン-ベンソン回路も機能するが、複雑なステップを踏むためエネルギー消費が大きい。上記の通りベンケイソウ型有機酸代謝、Crassulacean Acid Metabolismの略称である。
なぜこのような手間がかかりエネルギーを余計に消費するような光合成タイプが存在するのかと言うと、砂漠など過酷な環境では昼間気孔を開いてCO2を取り込むと水分蒸散によって枯死してしまうリスクがあるためで、事実CAM型植物には多肉植物など乾燥した過酷な環境で自生する植物が多い。
このような意味を持つCAM型は水草には無縁であると思われるが上記の通りCAM型光合成を行うミズニラが発見されている。しかしこれは植物生理学的に解釈しようとしても無意味で、進化論的、生態学的に解釈すべき問題である。


Chapter4】光合成余話「光呼吸」

光合成の話のなかで、非常に理解し難く誤解が多い概念に「光呼吸(photorespiration)」というものがある。
光呼吸とは、植物が行なっている呼吸以外に、光がある場合に行なう呼吸で物質の代謝は酸化、すなわち酸素を消費し二酸化炭素を放出することで結果に何ら変わりはない。

なぜ植物がこのような事を行なうのか現時点では知見となった説はないが、C4植物に見られない点(RubisCOが維管束鞘細胞にあり、エネルギー生産と消費場所が異なることが結論を示唆していると思う)、明反応と暗反応を概念的に考えてみればリーズナブルな理由は推測可能である。
つまり、エネルギー(ATP、NADPH)が消費される場所にあれば原料(CO2)が不足してもシステムが作動し、別な生成物(活性酸素)を生み出してしまうということで(*注)、活性酸素は植物体にとって致命的な物質となってしまう。(人間にも有毒らしいが)余剰エネルギーを通常の呼吸に振り向けエネルギーの質を転換することは非常に合理的であると考える事が可能であろう。
光呼吸が光合成を阻害しているという意見を見たことがあるが、このように考えれば結論は全く逆で、光が二酸化炭素に比して過剰である場合に作動する植物の安全弁的な役割を持っているのが光呼吸ではないかと思う。
見かけはせっかく明反応で生成したATPとNADPHを無駄に消費しているように見えるので光合成を阻害するように考えるのも分からないではないが、植物の長い進化の過程でなぜ「無駄な」「成長を阻害する」機能が残っているのかという進化論的考察が皆無な、評価できない意見であると考える。

(*注)RubisCOの機能はCO2とO2の濃度に依存し、CO2→O2という正常な機能又はO2→活性酸素という異常な反応を行うことが知られている。
この点も地球の歴史のなかでO2が増加して来た時間軸とO2に対応しきれていない進化過程の機能であると解釈できると思う。

Chapter5】光合成余話「光阻害」

光阻害(photoinhibition)は光呼吸に似た概念で、Powlesという人が1984年に提唱した定義によれば「可視光により引き起こされる光合成能力の低下」とされる。可視光、とあるのは不可視光である紫外線による植物体の損傷とは別の、光化学系に対する障害発生を想定しているが故である。
元々は光呼吸同様に過剰に生産した光合成エネルギーに対しCO2が過小である際の余剰エネルギーが原因と考えられていたが、最近の研究では植物体内の電子の動きに起因したり、ダメージがクロロフィルではなくマンガンのクラスターが光によって壊されている説(マンガンクラスター説)などが有力となっている。まだ決定的な理論は確立されていない。

こちらは間違いなく現象としては光合成、というよりも植物体の組織にダメージを与えている。くどいようだが光呼吸はまだディフェンス段階なので光合成を阻害する、という表現は明らかに誤りである。阻害という概念ではディフェンスを突破されペナルティエリアでフリーとなった光阻害の状態である。

Chapter99】追記

非常にコンパクトに纏めてしまい、各プロセスで出現する物質名称や化学反応については大幅に省略してあるので、追記、補遺などを本チャプターに必要に応じて追記予定。

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