植物用語辞典 利助流家元版

マ行


【埋土種子】まいどしゅし 【シードバンク】しーどばんく
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種子植物が形成する種子は意外に休眠性が強く、極端な例ではヒルムシロの発芽率は2%、つまり休眠種子が98%なんてのもあり、種が出来る=翌年発芽して子孫を残すためという「常識」は再検討する必要がある。時間軸で言えば2000年の夢から醒めた古代ハスなんてのもあるが、一般的には数十年の寿命と言われている。
このように土壌中に貯められた休眠種子を埋土種子と呼び、シードバンク(seed bank)とも称する。一説には生育している植物より多くの植物が地下で埋土種子として休眠していると言われている。

なぜこのような事が起きているのかと言うと、私見ながら「偶然」ではなく「必然」の生き残り戦略であると思う。何らかの要因でその年の群落が根こそぎ絶えてしまっても数十年のうちに環境が適するチャンスがあれば復活できるわけで、種の存続が図れるのである。従ってseed bankではなくPlant Insuranceと称した方が実態に近いのではないか。
植物ながらこの戦略は精緻で、私なんざ「今月は金に余裕があるから三脚買おう」と気軽に買い物しては後々昼食代を嫁さんに借りたりしているので植物以下である。この状態を「毎度収支悪化」と呼ぶ(汗)。銀行の預金残高も低水準で「シンドバンク」である(悲)。

【牧野富太郎】まきのとみたろう
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日本が誇る植物学者(1862-1957)。彼の誕生日5月22日は「植物の日」であるが、残念ながらほとんど知られていない。現代に至るまで植物図鑑として牧野植物図鑑以上の質量を持つ植物図鑑は出現しておらず、事蹟はいまだに光芒を放っている。
最大の事蹟は系統だった分類が成されていなかった我が国の植物、特に名も無い雑草を分類、命名したことで、学名種小名の後に「Makino.」とあるのは牧野博士が命名したものである。

この世界では牧野富太郎は常識人で、もう一人の巨人南方熊楠は型破りの変人と思われがち(事実熊楠は奇行が多いが)であるが、実はきちんとした教育を受けイギリスにも留学し、かのNature誌にも多くの論文を発表して世界的に評価が高いのは熊楠の方である。
牧野富太郎は小学校にもろくに行かず、好きな植物を見たり集めたり、当時の常識では立派な奇人であったらしい。そのテンションが一生持続し、遂には教育プロセスをすっ飛ばして東大で博士号を取ってしまうわけで今の常識でも立派な奇人である。

こういう部分、つまり好きな事が高じて名人達人として花開く要素は誰でも持っており、年が若いほど可能性に満ち溢れていると思う。
この「子供の可能性」を潰しているのが勉強だ受験だ食うための仕事だ、というわけで事実牧野家の資産は桁外れのニート富太郎によって食い潰されている。そのお陰で日本人の共有財産が形成された訳で牧野家の人々は富太郎以上に植物界にとっての恩人であると思う。
もし自分の子供が「学校に行かずに動物の研究をしたい」「音楽家になりたい」「スポーツ選手になりたい」等と言い出せば100%反対する訳で、我が家も含めて日本全国才能や可能性が「そこそこの大学出ただけのサラリーマン」に変化している事例は多いと思う。念のために言っておくが端から才能が無く引き篭もっているのは単なる怠け者なので混同しないように注意したい。

【河跡湖】かせきこ 【三日月湖】みかづきこ
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河川は堅い岩盤や山、台地などに阻まれ蛇行するのが普通であるが、長い年月をかけて徐々に正面突破を行い流れが変わる。変わった跡に取り残された旧河川が湖沼となったものを河跡湖または三日月湖である。
なぜこのような地学的な用語が出てくるのか、というと湿地植物を探査するのに指標となるから、である。個人の覚書的「植物用語辞典」であるのでご容赦願いたい。植物関連であれば何でもあり、が基本である。

居住地周辺には利根川や小貝川の改修によって人為的に形成された河跡湖がいくつか見られるが、残念ながら水質は元の河川のものを継承しているために植生は見るべきものが少ない。しかし、湾曲の内側には元々の後背湿地のような場所が残っている場合があり、希少な湿地植物が残存しているケースがあるためである。
私がスズメハコベを最初に見つけたのはまさにこのような地形であったが、自生地との関連で河川の種子運搬の可能性に気が付いたのはまさに「湾曲の内側」である。くどいようだが植生は地学と密接に関連しており、現場の地形を見て様々なアイディアや可能性に気が付く事例も多い。

【実生】みしょう
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簡単に言えば種から発芽した芽のこと。難しく言うと子葉又は第一葉を付けた幼植物で、双子葉植物の場合は子葉、幼芽、上胚軸、胚軸、主根、側根を備えた状態、単子葉植物は1つの子葉、普通葉、胚軸、根を備えた幼植物。
実生は草趣味の基本であるが、どうしてなかなか難しい。水生植物範疇の植物のくせに「乾燥」を経験しなければ発芽しないものなどがあって、馬鹿丸出しで睡蓮鉢にブチ込んでおけば良いと言うものではない。
種(しゅ)毎にクセがあって一朝一夕には行かないが、その種が自生する環境を考えれば自ずと発芽条件は見えてくる。とは言え、ヒルムシロのように元々発芽率が2%程度というものがあって、実生が事実上絶望的なものもある。この場合は種子が98個しか出来なくてピッタリ発芽しない98%に入ってしまったと思えば良い。(ネタなので突っ込み禁止ね)

【南方熊楠】みなかたくまくす
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南方熊楠(1867〜1941)は牧野富太郎と並ぶ日本植物学上の偉人。偉人のみならず怪人、奇人などを兼ねていた点が素晴らしい。もちろん粘菌分野における事蹟も素晴らしく、新「属」まで発見、Minakatella longifilaと属名になっている粘菌まで発見している。
彼の紹介は「これだけの分量」と示されればそれだけ書けるほどの人物であり、最近では文庫本でも何種類か出ているのでそちらを参照願いたい。このサイトでも触れている記事があるのでご参照願いたい。
自分自身は非常に「マイナー」が好きで、ヒヌマイトトンボを発見された在野の昆虫研究者、廣瀬誠先生にお会いした際に伺った「誰もしない研究分野を一生懸命研究すればその分野ですぐに世界一になれる」というお言葉はいまだに脳裏に刻まれている。実際にお会いした方に頂いたお言葉がこれほど心の琴線に触れた経験は他にない。
言うだけなら誰でも出来るが、実際に涸沼湖畔の誰も立入りしたくないような泥濘の葦原に踏み込み、ヤブ蚊と闘いながら小さなイトトンボの調査を続けた上での事蹟であって、昆虫が好きだという情熱と必ず新種がいるはずだ、という信念の成せる業でもあるが、さらに先生はアマチュア研究者であるという点にさらに凄みを感じる。
「会って見たい歴史上の人物」の私的なNo1.が熊楠であるが、1日話をすれば一生噛み締めるだけのインスパイアを受けることが出来る人だった、と思う。昭和天皇が後々懐かしまれたお気持ちがよく分かる。

【ミネラル】みねらる
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一般的には無機質と呼ばれ、厚生労働省の基準では亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、リンの12種類が指定されている。
水槽育成に於いてはKHの上昇に関連するカルシウム、マグネシウムがよく話題(否定的に)になるが、実はマグネシウムはクロロフィルの構成成分で、植物にとっては重要な物質である。しかもマグネシウムが存在してもカリが豊富であると優先吸収され、欠乏障害が起きる(カリのぜいたく吸収)
カルシウムやマグネシウムが二酸化炭素を緩衝する話は良く知られているが(CaCO3、MgCO3という炭酸塩)、「本来必要であるはずのミネラルをなぜ水中から除去するのか」というパラドックスを納得できる説で解明した話にはお目にかかったことがない。
これは葉面吸収とか液肥などの概念を水草に当てはめようとしているためで非常に不完全な考え方であるため、と考えている。植物のミネラル吸収はほとんど根から行なわれる。この事実を考えれば弱酸性を好む水草がけっしてMg、Caを不要としているわけではないことに気が付くと思う。水質と土壌は分けて考えなければならない。

【ムカゴ】むかご 【球芽】きゅうが
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球芽(きゅうが)とも呼ばれる。無性生殖の一種で球根状の塊となった増殖芽が植物体の様々な部位に形成される。蔓の途中に形成される長芋のムカゴは各種料理の材料として有名、ユリ科植物の多くも葉の付け根付近に多く形成する。
熱帯睡蓮のものはNymphaea micranthaという原種が持っているムカゴ形成の形質が品種作出時に園芸品種に受け継がれたものらしい。従って温帯種睡蓮は形成しない。

ムカゴで身近なのは裏庭に蔓延るカラスビシャク(半夏)で、こいつは自家受粉しにくいのか種子はあまり見ないが、球根の分球やムカゴでやたら殖える。無性生殖だけであれだけ蔓延れるのだから驚いたものである。様々な遺伝子を受け継がなくても除草剤に強く、他種を圧倒する強さがあるのでクローンを作るだけで種の存続が可能な「完成形の植物」かも。
生まれたての爬虫類のような、成長不良のマムシグサのような一種可憐な花を付けるのでまだ許せるが、あれで花も付けないということになったら可愛げはまったく無いな。
スベリヒユも根絶難な雑草であるが花はやや可愛らしい。これを改良したポーチュラカ(属名そのまま^^;)はとても強く扱い易い園芸種なので誰かカラスビシャクも改良してくれんかな。名前は「ピネリア・ミニコブラ」とか「グリーン・スプーン」とか如何?

【無性生殖】むせいせいしょく 【有性生殖】ゆうせいせいしょく 【栄養繁殖】えいようはんしょく
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それぞれ植物の繁殖形態を表わした用語。(以下記述は植物の場合に限定)
【無性生殖】
ランナーから新しい株を出したり株分かれによって新たな株を作ったり、雄性と雌性によらない増殖方法。【栄養繁殖】は種子に拠らず株を殖やすことと定義されるため無性生殖に含まれる。
【有性生殖】
雄性と雌性による遺伝子(染色体)の融合により種子が作られる繁殖形態。

無性生殖は子孫が持つ遺伝子は先祖代々全く同一であって、環境変化によって群落丸ごと絶える、などのリスクがある。有性生殖は雄性、雌性のそれぞれの良い、強い遺伝子を受け継ぐため優れた子孫を残せる反面、相手に巡りあわなければならない、というリスク要因がある。
植物の場合は両者兼ね備えているものが多く、私の雅号のもと、ハンゲ(カラスビシャク)などは球根の分球、ムカゴ形成(以上無性生殖)と受粉による種子形成(有性生殖)まで行うツワモノで、3倍、9倍、27倍とあっという間に庭を占拠されてしまう強雑草となっている。除草剤、手動駆除を併用しても根絶が難しい。種の保存という点では奴らの狙い通りである(汗)
雌雄異株、雌雄同株は有性生殖であり、遺伝子の動きと結果は似ているが意味するところが異なる。

人間はもちろん有性生殖で、本能的に自分に無い美点を持った相手に惹かれる、結果的に優れた子孫を残す、人類の進歩につながるという美しいストーリーであるが、下手に考える力があるので妥協の産物という制限要因が存在する。お互いそう思っているので救いがない(爆)。

【メンデルの法則】めんでるのほうそく
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本項はとりあえず誰でも義務教育で履修していると思うので細かい解説はさておき。
オーストリアの植物学者兼僧侶(この兼職は僧侶が知識階級であった我が国の歴史と同じ)のメンデル(Gregor Johann Mendel:1822-1884)がエンドウ豆のかけあわせを行なっている最中に気が付き法則化したものであるが彼の存命中は全く評価されなかったらしい。世に言う「メンデルの法則」は三つの法則で成立しており優劣の法則、分離の法則、独立の法則である。遺伝子AAとかaa、その組み合わせでAaとかいう、あれとその応用編である。
さて、この法則に則らない生物がいるということで過去大きなニュースになったりもしているが、逆に言えば遺伝という概念に於いていかに長い時間メンデルが巨大な存在であったかを伺わせるエピソードである。進化論上のダーウィンと同程度の重い存在である。理論については100数十年前の話なので現代の理論、技術から見て瑕疵があるのは当然の話、これをどうこう言っても「種の起源」をクラス進化論で語るようなもので意味はあまり無い。

さて、メンデルは修道士として教会オルガンの名手でもあったらしいが、バロック全般が好きな私も宗教音楽は苦手である。この傾向は人種国境を越えるらしく、イタリア旅行中に高速バスの運転手が何を思ったかグレゴリオ聖歌をBGMにしやがり、お陰で我々日本人はもとよりフランス人、アメリカ人など乗り合わせた紳士淑女は例外なく撃沈したことがある。パーキングで休憩した際に「貴様イタリア人ならPFMかBANCOでもかけろ!」と通じないのを覚悟で英語で言ったところ、意外に通じて盛り上がったことが思い出される・・・
という話ではなくて、バッハの宗教曲、ヨハネ受難曲などの持つ対位法技法など音楽的素養が遺伝子の発現で大きなヒントになっていたかも、と思っただけの話でして・・(汗)

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