植物用語辞典 利助流家元版

サ行


【散布体】さんぷたい
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一般的には種子や胞子という植物が勢力を広げるために利用する構造を指すが、この意味に於いて殖芽やムカゴなども含まれる幅広い概念である。また、「種子」は種子植物の場合散布体であるが実態が「痩果」(果実)である場合は痩果が散布体となる。
散布というイメージから弾けるホウセンカややたらばら撒き転がるドングリが想起される。ドングリは芽を出しても親木が生きている限り影になって枯れてしまうが、親木が枯れると一斉に多数の成長が見られる。この場合、親木の喪失がギャップとなり多数の発芽・成長がダイナミクス、植物学的に合わせてギャップダイナミクス(別途本コンテンツで解説)と呼ばれる。単にばら撒いているのではなく、最適な生き残りを図る植物の精緻かつ周到な仕組が小さな散布体に詰まっている。
実生から植物を育成する場合、なかなか発芽しないような時に有効な呪文がある。「アラクタラ サンミャク サンプタイ」・・・今日はこの辺で勘弁しておいてやろう(汗)。

【三名法】さんめいほう 【二名法】にめいほう
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学名表記の形式。リンネによる属名+種小名からなる二名法が基準となっていたが、亜種・変種など分類が進むに従い二名法では対処しきれず、属名+種小名+亜種・変種名の三名法が制定された。
命名者や公表年(記載年)が付与されている場合もあるが、これは二名法・三名法の概念外で、付与は任意である。

ちなみにこの国際植物(動物)命名基準で決められた部分(属名+種小名+亜種・変種名)はイタリック表記であるが、変種を示すvar.はそうではない。Webで公開しようとすると、
<i>Rotala indica </i>(Willd.) Koehne var. <i>uliginosa</i> (Miq.) Koehne
とタグを沢山入れなければならず大変である。・・・それがどうした、と?どうもしませんが何か。

【シアノバクテリア】しあのばくてりあ
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シアノバクテリアは藍藻の実態でもある真正細菌で珍しいものでもないが、以下のように植物の進化の鍵を握るものとして注目されてきた。
(1)酸素発生型光合成を行う
(2)考古学的に最古の光合成生物と呼ばれている
(3)葉緑体は元々は独立した生物であり、起源はシアノバクテリア

要するに他の生物がシアノバクテリアを取り込むことで葉緑体を形成(一次共生)、一次植物となる。次にある種の真核生物が一次植物を取り込み、より複雑な共生(二次共生)を行ない植物体としての進化を遂げてきた、という説の証左となっている生物だ、ということである。
最近のゲノム解析ではこの点について様々な可能性も指摘されており、「植物の起源に関与した可能性があるもの」と考えておけば良いと思う。

【COD】しーおーでぃー 【BOD】びーおーでぃー 【マンガン法】まんがんほう 【重クロム酸法】じゅうくろむさんほう 【微生物電極法】びせいぶつでんきょくほう
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水質汚濁の指標の1つでどちらも似たようなものである。
【COD】Chemical Oxygen Demand 化学的酸素要求量
【BOD】Biochemical Oxygen Demand 生物化学的酸素要求量

一般的には止水(湖沼)ではCODを測定、河川ではBODを測定する。これはCODが有機物と無機物両者の要求酸素量を問題としていることを考えれば分かる。すなわち化学物質による汚染も対象としているのである。河川では排出された汚染物質も比較的短時間で流下してしまう、という前提によるものらしい。
日本ではさすがにそれで通用しても世界的に見れば化学物質によってカラフルに色まで変わる中国の河川では通用しない考え方だと思うが。
尚、単位はmg/l、CODは測定に用いる試薬(+試薬の相違による方法の違い)によってマンガン法(COD Mn)、重クロム酸法(COD Cr)という測定法があり、BODは一般に微生物電極法という方法により測定される。詳細はとてもここに書ききれないが著者本人実務経験者であるのでご質問があればお受けする。

悪名高い千葉県の手賀沼はいまだに高水準であるが7.5mg/l(平成20年6月)まで改善してきている。しかし水生植物や魚類他生物の定着は必ずしもCODのみで判断できないことは言うまでもない。

【シスト】しすと
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シスト(cyst)は様々な分野で使われる用語であるが、もちろんここでは植物関連の用語として解説する。
日本語では嚢子、包嚢、被嚢など多様に表現されるが、要するに生物(植物に限らず)が形成する、休眠細胞(被子、裸子植物の種子に該当)が入る「袋」である。水が無くなったり(乾燥)、寒くなったり(気温・水温)、活動に不適切な環境下で休眠するための仕組である。

人間界で似た仕組もあって「世の中が悪い(環境悪化)」ということで引き篭もりが篭っている部屋がシストである。ただしこのシストは環境が改善しても発芽率は悪い。発芽して栄養細胞(稼ぐ)となるのはごく稀である。

【湿源】しつげん
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湿地・湿原は生態系、特に植物の多様性に溢れており植物学上重要な地形であるが、タイプとして次のようなものに分けられる。

低層湿原
一般的な湿地・湿原であり、平坦な地形で地表面と地下水面がほぼ等しい、または近いために地表面まで冠水する。
代表的な植物はガマ、スゲ、ヨシなどで、ハンノキなどの木本も見られる。比較的富栄養な土壌がこれらを支えている。釧路湿原は8割が低層湿原であると言われている。
地下水が水源であるため比較的脆弱な地形であり、水源に影響を及ぼすような周辺地域の開発、土砂の堆積を伴うような自然災害等により容易に遷移する。

中層湿原
低層湿原が植物の枯死体などにより高層湿原に遷移する際の地形。上記のように地下水に依存する低層湿原と雨水に依存する高層湿原の中間的な性質を持つ。
上記低層湿原の指標となる植物種以外に、特徴となる植物にヌマガヤ(Moliniopsis japonica (Hack.) Hayata)がある。

高層湿原
植物枯死体が完全に分解されずに堆積した土壌(泥炭)の堆積によって周囲地形よりも標高が高くなった湿原。地下水は表層に到達せず、雨水のみで湿原が維持されるが、土壌が泥炭であるため浸透が緩やかなために湿原として成立している。
泥炭土壌であるため一般に貧栄養である。尾瀬やサロベツ湿原はこの高層湿原に該当する。指標となる植生はミズゴケ類である。

以上は地形的特徴及び成立要因からの分類であるが、湿地・湿原には性格から見た分類もあってややこしい。

後背湿地
河川堤防の外側(陸地側)に水が浸みだして成立している湿地である。洪水などで窪地に水が溜まった地形も含まれる。水田や蓮田などに利用されている場合が多い。千葉県柏市北部の利根川右岸には利根川の後背湿地と見られる大規模な湿地が古地図(明治時代)から読み取れるが、現在では公園や水田となっており原生湿地は見られない。

塩性湿地
海岸の低い地形や河口に土砂が堆積、砂州によって取り残された浅い海跡湖のような地形に成立する湿地。当然ながら土壌も水も塩分濃度が高い。このために内陸の湿地に見られるような湿地植物は見られず、特異な植物群落が成立する。亜熱帯の沖縄県ではマングローブ、北海道の厚岸湖岸ではアツケシソウやシバナなどで、分布域が非常に限定される希少な植物となっている。

【湿性遷移】しっせいせんい
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規模や地形、気候により時間軸の違いはあるが、湿地(広義)が遷移する地形であることは動かない。主に土砂の流入などの要因により陸地化、森林化するプロセスを示した言葉。ビジュアルな解説は私の自筆イラスト(笑・・汗)でこちらにある。
要因は様々で、特に上記したような要因が見当たらない場合も地下水位が下がり乾地化してしまったり、洪水や地震などで短期間に遷移してしまう場合も多々ある。そのうち最大のものは人災であると思う。

有名なところではかつて世界第4位の内水面であったアラル海が綿花栽培のための灌漑や流入河川のバイパス運河の建設により、急速に縮小してしまった事例があげられる。
また地元で水生植物の宝庫(記録によれば20種類以上の沈水植物があったとされる)の沼が周辺の雑木林の宅地化により干上がってしまった例がある。これは森林の保水力によって維持されていた湖沼が微妙なバランスの上に成立していたことを示す事例である。

【湿地植物】しっちしょくぶつ 【水生植物】すいせいしょくぶつ 【抽水植物】ちゅうすいしょくぶつ 【水草】みずくさ 【沈水植物】ちんすいしょくぶつ
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それぞれ明確な定義がありそうで無い、曖昧模糊とした概念。科や属はもちろん、種まで落としても水草?湿地植物?と思う場合が多々ある根本的問題が多い分類。
「水草」と言った場合にも世間一般とアクアリストではイメージが異なる。「畑に植えてあるミソハギは湿地植物ですか?抽水植物ですか?陸上植物ですか?」という問いにどう答えるべきか。ミソハギの例を出すまでも無く、「抽水」という概念から離れた自生形態を持つ「抽水植物」も多い。もちろん湿地植物に分類されても乾地で行けるシロバナサクラタデなどもある。
別概念ながら「浮草」も近所の田んぼにあるイチョウウキゴケやリシアなどは浮いている期間は年間3ヶ月弱に過ぎず、残りの期間は地面にへばりついている。自生形態を期間で考えるのであれば浮草も浮草ではない。
唯一行けそうなのは「沈水植物」であるが浮葉や気中葉を形成しない、全草を水没させて自生する植物と定義は出来るが「水草」とは括れない。
端的な例で、水槽しか持っていない人に「水草差し上げます」とヌマトラノオやアカバナを差し上げてもどうしようもない。立場とイメージで内容が変化する、つまり用語として成立しない「用語」群であると思われる。

【シノニム】しのにむ 【ホモニム】ほもにむ
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IT時代の現代、技術者の方々はCREATE [PUBLIC] SYNONYMの記述でお馴染みだと思うが(またはエイリアス(alias)と言った方がよいかな)、もともとは生物の学名を付ける上での概念である。
同物異名または異名同物と約されるが、要するに同じものに名前が複数付いている状態である。なぜこんな事が起きているのかというと18世紀に生物に学名が付けられるようになった当時、インターネットはもちろん存在せず交通手段や通信手段も発達していなかったため「世界植物学会」とか「世界魚類学会」なども開けず情報交換の機会が極端に限られており各国で独自に命名してしまったためである。現代でもマイナーな新種が発見された際に起こっている。
学名は特に「種」名そのものよりも属の解釈などにより判断が分かれるところで、新たな解釈が主流になると新しい学名が採用され旧学名がシノニム(synonym)となる。
一方まったく別の種が同じ学名を持つことも誤認などの原因によってままあることで、この場合はホモニム(homonym 同名異物・異物同名)と呼ばれる。

さぁて、2007年初っ端のニュースで所謂「差別に繋がる語彙」の含まれた標準和名を改訂しようということを魚類学会が決定したらしいが、意外なことに「バカ何某」という名称の魚がおり、「バカ」が差別に繋がる用語だと解釈されたようである。
ギャグで「バカというな、頭の不自由な人と言え」と言っていたが、ギャグのような事を本気で考えて実行する人がいるので驚いた。ウマとシカの立場は良いがアホロートルとかカバの立場は?と突っ込みたくなる状況ですな。差別はもちろん悪いことだが過剰反応が新たな差別に繋がるということを考えたことがあるのだろうか。
以前父母と私の子供達が一緒に電車に乗る機会があり、孫を思う心と自分はまだ若いという気持ちで子供達を空席に坐らせたところ、居合わせた方が子供達に「お年寄りに席を譲りなさい」と仰ったそうで、この時父母は優しい気持ちを踏みにじられたのと年寄りと決め付けられたような何とも不快な気分を味わったそうである。仰った方は「人の道」を説いたつもりであろうが、年寄りは黙って坐ってろ、と差別されたような嫌な気持ちになったとも言っていた。
差別に繋がる用語が魚に付けられているのが何故差別を助長するのか分からないが、余計なお世話がさらに差別を生むこともあるので過剰に反応してはならないと思う。
要するに「差別はいけない」と言っている時点で差別のシノニムになっていることもある、ってことだ。

【cv.】しーぶい
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cv.は園芸品種cultivated varietyを略したcultivarをさらに略号として学名に付与されるものである。意味としては「〜の園芸品種」。
国際植物命名規約では、属名+種小名+‘園芸品種名’または属名+種小名+「cv.」+「園芸品種名」、さらに品種名を表記しない園芸品種として属名+種小名+「cv.」いずれでも良く、cv.の付与または‘’囲みの品種名が付与されていれば園芸品種である。

田舎のスーパーの店先などで「テッセン」とか「カザグルマ」という名前で数年前は目も眩む価格で流通していたクレマティス品種の鉢植が398円で売られていることがある。(ヤケに具体的な価格だが)
もちろんすかさず購入するが、「これはClematis florida Thunb.ではなくクレマチスシーヴイですね?」などと言ってはいけない。おまけにイタリックの部分を発音する際に体まで傾けてイタリックになっていると間違いなく通報されてしまうのである。
(下2行を書きたかっただけなので(汗)、「園芸植物」の解説もご参照願いたい)

【シベレリン】しべれりん
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種子の発芽促進剤として有名であるが、本来植物種子の内部で吸水によって合成される発芽のための植物ホルモンである。
結実後の種子は胚の状態で休眠しており水分をほぼ含まない状態であるが、上記の通り吸水がトリガーとなりシベレリンが合成され、アミラーゼ(酵素)の合成を促しアミラーゼによって糖が作られる。この糖をエネルギー源として呼吸が開始されATPが作られ発芽が始まる。結構複雑なステップが小さな種子の中で起きている。
こういう事に感動できない人は友人にしたくない。と言うか感動する人は世間一般で言う変人範疇に含まれる場合が多いと思うが。
他の利用形態として、孟宗竹のシベレリンは傷薬として販売されたり「ご飯がふっくら美味しく炊ける」魔法の物質として出回っているのを見かける。しかしだな、シベレリン(園芸資材のほうね)は植物種をほぼ問わないので孟宗竹のものだからと言って特別の効果があるような気がしないのだが。妄想でなければよいが(^^;植物ホルモンは本当に摩訶不思議。

【車軸藻帯】しゃじくもたい
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車軸藻(広義)は水田や用水路など身近な環境にも自生するが、水の綺麗な湖沼に於いては種子植物である水草(沈水植物)が繁茂する水域よりも深い場所に車軸藻類が繁茂する場所があり車軸藻帯と呼ぶ。テガヌマフラスコモをはじめ多くの車軸藻類があった手賀沼、車軸藻のみならず多様な沈水植物が繁栄していた霞ヶ浦や北浦にもあったらしいが、富栄養化により消滅してしまった。

「しゃじくも 車軸藻類の保全を目指して」によれば海外の湖沼の環境改善の事例に於いて車軸藻類の果たしている役割は重要で、透明度との因果関係も示されている。水域に於ける環境負荷の軽減は湖岸湿地帯(抽水植物)、浅水域(沈水植物)でも役割を担っているが、深さから言えば車軸藻帯は最後の砦と呼べるかも知れない。しかし、汚染により導電率が上がった場合最も早く消え去るのが車軸藻帯であるのも道理。前出湖沼に於いて水質改善の取り組みが成されているが、車軸藻に焦点を当てた取り組みはなかなか見ない。

【参考】
しゃじくも 車軸藻類の保全を目指して

【雌雄異株】しゆういかぶ 【雌雄同株】しゆうどうかぶ
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雌花を付ける株(雌株)と雄花を付ける株(雄株)が異なるものを雌雄異株、両方の花が同一の株に付くものを雌雄同株と呼ぶ。
タチモ(Myriophyllum ussuriense (Regel.) Maxim.)は雌雄異株の水草で、屋外で育成、開花するとどちらか分かるが、神戸大学(たしか^^;)の調査で中間的形質を持つ株が見つかったらしく、雌雄分化して日が浅い植物ではないかと考えられているらしい。(「たしか」と「らしい」のオンパレードで申し訳ない)
どちらもそれなりにメリットがあり、異株はそれぞれの良い遺伝子を相続して強い子孫を残せる、同株は相手に巡り合えないリスクを無くし手軽に子孫を残せるというわけである。
人間はもちろん雌雄異であるが、本来の、それぞれの良い遺伝子を相続するというメリットを享受していないと思われる個体は頻繁に発見できる(爆)。時折どちらの遺伝子が勝つか興味深いカップルも見かけるが直接聞いてはいけない。(汗)
遺伝子の話であるが、異性の好みは自分に無い優性遺伝子を求める具体的発露、と聞いた記憶がある。つまり、優しくて綺麗で可愛い女性が好みな君は意地悪で醜く憎々しげ、という理論的帰結だな。

【就眠】しゅうみん 【生物時計】せいぶつとけい 【概日性リズム】がいじつせいりずむ
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カタバミ科やマメ科で見られる夜間に葉をたたんで活動を休止しているように「見える」状態。就眠または就眠に付くための葉を閉じる就眠運動。
植物ホルモンやら何やらの「動力」は別として、目的とスケジュール管理(周期的活動の源泉)はダーウィン以来の宿題である。近年目的に付いては「水ポテンシャル」、スケジュールは生物時計によるものという説が一般的になり全貌が解明されつつある。

生物時計は現在最も熱い生物学の研究テーマらしいが、植物も人間も同じような仕組であるらしい。南米生まれの植物が日本の昼夜にあわせた概日性リズム云々、なんて突飛(笑)な話もあったが、生物時計は朝日によってリセットされるのである。人間の場合は朝日とタンパク質の食事である。(ネタではないよ)人間の場合は無理にリセットされると不快感が残るが、これが「時差ボケ」である。
概日性リズム(Circadian rhythm)は約24時間周期で変動する生理現象と定義される。「約」がミソで概ね、つまり概日である。水草水槽でライトがオフになったのに就眠しない水草、早々と夕方から寝に付く水草、それぞれ「概ね」の体内時計によりスケジュール運行をしているのである。

【参考】動く植物 大学教育出版

【主根】しゅこん 【側根】そっこん 【支根】えだね、しこん 【鬚根】ひげね
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植物の根の部位または状態を示す用語群。支根は側根と同義。
主根はイメージ通り真っ直ぐ地下に伸びる根で、植物学上では「胚から出た最初の幼根」である。その主根から枝状に出るのが側根で、裸子植物及び双子葉植物の一般的形状である。
一方単子葉植物は主根と側根の区別が無く、胚軸または幼茎から糸状の根が出る。ホシクサの根などが典型的な形状である。

【種子】しゅし 【種子植物】しゅししょくぶつ
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いわゆる「(たね)」であり、種によって子孫を殖やす植物を種子植物と呼ぶ。種子植物には裸子植物と被子植物がある。
存在形態により「まぎれ」も多いので、植物学的定義には有性生殖(別項参照)によって形成される散布体(上記参照)とされる。ところが散布体には痩果が含まれる場合もあるので、話が複雑。
種子植物にとっては生命の根源、再生のシンボルであるが動物にとっても生命の根源で実に様々な種類の種子が食料となっている。人間の場合はともかくとして、リスを飼っていると不思議な感慨がわいてくる。いったい彼らは種子を食糧であると、どこで学習したのか?
目が開いたばかりの子リスを買ってきて、しばらくはアニマルミルクや流動食で育て、ある程度大きくなってヒマワリの種を与えるとためらいなく割って食べる。不思議である。カボチャの種でもドングリでも粟でも稗でもとにかく割って中身を食べることに迷いがない。こういうのを見ていると後天的に食糧を認識するというよりも種子が食糧であるという情報があらかじめインプットされているように感じる。
昆虫?に中身を喰われてしまった空のヒマワリの種を与えると、それでも割ってみて中身が無いことに気付き、辺りを探し回る。何回でも同じ事をするので学習能力は無い模様。・・すまん脱線した。

【シュート】しゅーと 【苗条】びょうじょう 【分枝】ぶんし
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植物体から茎や枝の分岐ないし気根等以外に伸びてくるものを「シュート」や「シューター?」と称する場合を目にするが、実は植物学的な「シュート」はかなり概念が異なる。「役割と形状が大きく異なる葉茎」をシュートと呼称するのは植物形態学上の概念である。

シュート(shoot)、日本語で言えば苗条(びょうじょう)は茎頂分裂組織の一単位に由来する葉茎を一括した総称である。簡単に言えば「茎と付いている葉」のことである。栄養シュートはこの概念に他ならない。光合成を行い「栄養」を生産するための葉と葉を効率よく配置する茎により構成される。生殖シュートは生殖器官である花を付けるシュートを指す。両者の機能を兼ね備えたシュートを持つ植物も少なからず存在する。
ヒメハッカで見られるが、生殖シュートからさらに分岐したシュートがあり栄養増殖を行う場合を何と呼ぶか。アクアリウムプランツのエキノドルス(オモダカ科)でも似たような「シュート」を確認できるが、これは以下に示す分枝のいずれかに該当する、と考えられる。無性生殖とは言え、目的は生殖であるので生殖シュートであると思われる。このようにシュートは広い概念であるので例示したような場合は「分枝」と呼称するのが相応しいのではないか。尚、分枝の形式も多様で以下のような場合に分けられる。

【分枝(branching)の種類】
分枝方式 表記 分枝タイプ 表記 特徴
二又分枝(叉状分枝) dichotoous branching 同等ニ又分枝 isotomous dichotomy 分枝する軸同士がほぼ等しい形質を持つ
不等ニ又分枝 anisotomous dichotomy 分枝する軸の一方の勢力が強く不均衡である
単軸分枝 monopodial branching 仮軸分枝(*) sympodial branching 見かけ上側軸が主軸のようになる

(*)仮軸分枝の概念はさらに複雑でさらに以下記のように類型化される。すなわち、側軸として分枝されたものが主軸的な役割を持つ仮軸分枝(sympodial branching)中、本来の主軸が枯れて主役交代を行う交代型仮軸分枝(alternative sympodial branching)、両者生長を継続するつぎ足し型仮軸分枝(additional sympodial branching)などである。
ヒメハッカの分枝は形態上は不等ニ又分枝であり目的は生殖シュートに近い。接地した箇所からの発根も確認できる。このような生活史を持つハッカ属は他に確認しておらず、植物として非常に興味深い種である。

【掌状複葉】しょうじょうふくよう
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単葉に対する概念が複葉であるが「羽状」「三出複葉」「鳥足状」「単身」など様々なタイプがあり掌状はその一形態である。離弁花→合弁花とは逆に複葉→単葉に進化してきたと考えられている。
掌状複葉は文字通り「てのひら状」に見える複葉で、小葉が3枚出ているものを 三出掌状複葉(さんしつしょうじょうふくよう)、同じく5枚出ているものを五出掌状複葉(ごしつしょうじょうふくよう)、さらにそれ以上のものを多出掌状複葉(たしつしょうじょうふくよう)と呼ぶ。ところが同じ5枚でも外側の2枚の小葉がさらに小葉を出したものを特に鳥足状複葉(とりあしじょうふくよう)と呼ぶ。

ちなみに毎食後に飲むのは一日三回服用であるが、生活上必要な知識は実はこれだけである・・ような気がする。

【食虫植物】しょくちゅうしょくぶつ
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虫(昆虫類のみではない)を捕捉し、消化吸収する機能を持つ植物の総称で、水生植物ではタヌキモ科、ムジナモ、モウセンゴケ科などの植物が該当する。
食虫、ではあるがその他の機能は普通の植物に変わらず根や葉から養分吸収も行うし光合成によるエネルギー生産も行う。余程の貧栄養環境のみに自生する植物以外は補助的な栄養吸収手段である。

虫を捕捉する手段は水と一緒に吸い込むタヌキモ型やハエトリソウ、ウツボカズラなどのトラップ型、そして粘液で貼り付けるモウセンゴケ(画像)のようなものに至るまで様々である。様々であるが「効果の程」は、我が家にもあるタヌキモ、ムジナモ、モウセンゴケが虫を捕らえているのを見たことが無いので不明(汗
いかにも「虫さんいらっしゃい!」という形のウラシマソウやマムシグサは食虫ではなく、虫を呼び寄せるのは受粉のためである。受粉が終われば虫は無視する・・・


【植物相】しょくぶつそう 【フロラ】ふろら
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植物相は一定の地域に於ける植物の種類組成であり、フロラ(Flora)と同義である。同様に「動物相」もあり、あわせて「生物相」と呼ぶ。
似たような用語に「植生」があるが、これは植物群落をキーに地域の類型的な特徴を表現する。例えば「霞ヶ浦のアサザ群落」など。もちろん霞ヶ浦にはアサザ以外にも相当数の植物種があり、これらを網羅的に示すのが植物相でありフロラである。
調査主体、成果物の特性からフロラは自治体単位が一般的で「茨城県のフロラ」「水戸市のフロラ」といった使い方をされる。

地域にフロラがあれば立派なもので、あってもかなりの不備がある場合が多々ある。これは季節によって見られなかったり誤認したり見落としたりということがフィールド調査では日常茶飯事で、十分な調査が行き届かないことによる。
このようなソースがRDBの根拠となっている点も問題であるが、植物の場合は特にシードバンクと自然再生が重点課題となるため、過去のフロラがどれだけ正確か、という事が問題となる。

【水槽用植物】すいそうようしょくぶつ
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賢人にして独自の思考回路を持つ盟友carex校長の慧眼。水槽に入れる植物を何でもかんでも「水草」と括って一律の育成方法や光や肥料の理屈をこねる輩がアホに見える。
自分の水槽に入っている植物を良く見れば気が付く概念だが、アクア書やWebサイトなどの常識からは発想できないオリジナリティを持つ植物分類法であって、「水槽で耐えられる」という切口の斬新な発展性に溢れたアイディアである。
氏はアヌビアス・ナナを「渓流沿い植物」と称するが、まさに水中でも何とか我慢できる植物、積極的に水中が好きな植物(沈水植物)、仕方なく草体を変化させる(あえて「水中葉」と呼ばない)湿地植物など多種多様な生態を持つ植物の集合体が「水草水槽」なのである。
発展性のアイディアとは、告白すれば「一律に水草と呼んで肥料や二酸化炭素を論じる意味の無さ」「水槽は光が弱いという先入感」「一年草が水槽内で見せるエピジェネティクス的概念」など最近私がモチーフとするテーマはすべてここからインスパイアされたことで始まっている。
一つのキーワードでこれだけ発想が湧いてくる私ももちろん凄いが(笑)、その凄い人に影響を与える慧眼はさらに凄い。まさに水草小学校の校長に相応しい。ちなみに最近の氏のWebサイトの放置ぶりも前人未到であるが、一日も早い活動再開を望みたい。

【水中葉】すいちゅうよう 【水葉】すいよう 【沈水葉】ちんすいよう
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アクアリウム系の方々には馴染み深い用語であるが沈水葉が一般的。水生植物の葉の表現形態で水中に適応した葉と定義される。
植物生理学的に明確に定義はされていないと思うが、外見的にはクチクラや気孔(痕跡がある場合もある)を持たないという点で気中葉と区別される。陸上植物の葉と生理も異なり、イオンチャンネルや気孔由来の葉面吸収など明確になっていない部分もある。
日本語の問題であるが、もともと完全沈水植物の葉を称して「水中葉」と呼ぶのは抵抗がある。アクアリウム系で「エビモの水中葉が〜」「トリゲモの水中葉が〜」などと掲示板に書き込まれると「じゃあエビモやトリゲモに気中葉があるんかい!」と突っ込みたくなるのは私だけだろうか?

【水媒花】すいばいか 【虫媒花】ちゅうばいか 【獣媒花】じゅうばいか 【鳥媒花】ちょうばいか 【風媒花】ふうばいか
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要するに受粉するために何を利用しているかという分類である。
【水媒花】花粉が水によって運ばれ受粉する。クロモ、マツモ、イバラモ、トリゲモ、セキショウモなど多くの沈水植物がこの範疇に入る
【虫媒花】昆虫による花粉の運搬で受粉する。タンポポ、セイタカアワダチソウなど多くの野草が含まれる。
【獣媒花】用語としては独立していない。虫媒花と鳥媒花を総称して呼ぶ場合がある。
【鳥媒花】鳥による花粉の運搬で受粉する。ツバキがメジロによって受粉するのは有名。サザンカは虫媒花であるはずだが、毎冬我が家の山茶花には50羽以上のメジロが集合して何やら騒いでいる(汗)。
【風媒花】風による花粉の運搬で受粉する。イネ科、カヤツリグサ科など「花が地味」な印象の植物が多い。虫も鳥も呼び寄せる必要がないからである。

園芸人・農業人のなかには虫も鳥も風も当てにならんとばかりに専用の道具を使って一生懸命受粉させている人々がいるがこの場合、人媒花とは言わない。念のため。

【生物多様性】せいぶつたようせい
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意味としては非常に簡単で、読んで字の如く、多様な生物が存続する状態である。生物多様性は国際的な共通の価値観として生物多様性条約が批准され国内でも条約批准に対応し生物多様性国家戦略を策定している。
ただしなぜ生物多様性が重要なのか、何のために必要なのか、という点の啓蒙に於いては充分であるとは言い難い。生物多様性国家戦略では以下のように表現を行っている。

私たちの子孫の代になっても、生物多様性の恵みを受け取ることが出来るように、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本方針と国のとるべき施策の方向を定めたものです。(下記リンク環境省生物多様性センター「生物多様性国家戦略」から引用)

子孫がどのように生物多様性の恵みを受けるのか、まったく具体的では無くイメージがし難い。この感想は私のような素人だけでは無いようで、雑誌「遺伝」に掲載された「湖沼環境保全における絶滅危惧藻類 −車軸藻類の役割−」に於いても著者の筑波大学渡邊信先生が車軸藻類の絶滅に対し何のために絶滅を防ぐのかという疑問を独白されておられた。
たしかに車軸藻類が絶滅すると子孫が困るという図式は想像しにくい。今現在で考えても車軸藻をライフワークとされている森嶋先生や研究テーマとされている山室先生、水槽で車軸藻類を愛でているごく一部の愛好家など少数の方が困るぐらいしか想像できない。
しかし、よく考えてみれば「何が困るか分からない」ということが最大のポイントで、抗生物質が医療上果たして来た役割は巨大なものがあるが、元は微生物由来である。発見以前は「微生物が絶滅しても子孫が何が困るのか分からない」はずだったのであり、時間軸をずらせば同じことが言えるのである。
車軸藻に限らずあらゆる生物が食料、病気、燃料など人類の未来に関わる部分に決定的なソリューションをもたらす遺伝子を持っているかも知れない。たとえ雑草1種類、小魚1種類と言えども未来の「芽」を摘むことは許されないというのがその精神であると信じる。
【参考】
生物多様性国家戦略
生物多様性条約

【前葉体】ぜんようたい
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シダ植物の胞子から生じる配偶体のことを指す。すでに前葉体の段階で光合成を行うが、仮根や造精器、造卵器が形成され受精して胞子体が発達すると枯れて無くなってしまう。
仮根は多くの場合、他の植物同様に菌類と共生して菌根を形成している。この菌類は菌根菌と呼ばれており、多くの種類があることが知られている。 しかし菌根菌とは鐘の音が聞こえてきそうな名前ですな。

【双子葉植物】そうしようしょくぶつ 【単子葉植物】たんしようしょくぶつ
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双子葉植物は子葉を2枚持ち、単子葉植物は1枚、ただそれだけの事である。現在ではゲノム解析により分類としても独立せず、重要な概念でもない事が明らかにされている。
ある時睡蓮鉢の底から2枚の線型の子葉を持つ「これぞ双子葉」という植物が生えてきた。水草であることは分かったが見覚えが無い植物だったので何になるか楽しみに待とう!そうしよう!と思ったらヒシモドキの実生株だったことがある。

【装飾花】そうしょくか 【中性花】ちゅうせいか 【無性花】むせいか
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雄蕊、雌蕊が退化し結実しない花のこと。中性花、無性化は同意である。身近な植物ではアジサイが装飾花である。(原種のガクアジサイは別)
ちなみに雑種起源で開花するものは雄蕊、雌蕊を持っているが3倍体のため結実しないものがあり、装飾花とは区別される。とは言ってもインバモの花を見て「装飾」というイメージはわかないと思うが。

樹上性のげっ歯類(リスやモモンガ)は木の実や葉を主に食べるので「草食か」と思われているが、実は小昆虫も大好きである・・・が微妙な親父Gのために文章を増やすのは宜しくないな・・orz

【叢生】そうせい 【束生】そくせい
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どちらも同意で、茎や花茎が根際から集まり生ずる意味である。見方によっては束のように、あるいは叢のように。叢はまさに「くさむら」である。
こういう用語を見ると思うが、意味はまだしも「読めない」用語は如何なものかと思う。この二つを予備知識無しにそうせい、そくせいと読める人が居るのだろうか?「草むら状」とか「ニョキニョキワサワサ、略してニョキワサ」とか決めれば分かりやすいのにね。
話は変わるが茨城県南部に住み着いて周辺地域の読めない地名に驚かされる事が多い。

女化(牛久市女化)・・・おなばけ。地名と女房を交互に見てニタニタしたらにらまれた。(汗)
小浮気(取手市小浮気)・・・こぶけ。で、出来心なんだ、許してくでぇ〜ってか?
用語と関係ないので軽くこの辺で。

【造精器】ぞうせいき 【造卵器】そうらんき
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用語としての妥当性はあるが所謂「隠花植物」に見られる生殖器官である。シダ類やシャジクモ類は隠花、つまり花は咲かないのでこうした器官を持つ。
具体的にどのようなものか、森嶋先生の「車軸藻のページ」に拡大画像があるのでご興味のある方はどうぞ。造精器に造卵器、名前は淫靡だが18禁ではないので安心です(何が!?)

【送粉シンドローム】そうふんしんどろーむ
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花粉を受粉し、結実するために時期的、効率的に精緻に構築された「仕組」。虫媒花であれば、開花の時期に飛び回る特定の虫を花の色や蜜で誘い(色、香り)、誘われた虫が花粉を運ぶのに都合の良い花の構造をしている。この一連のパターンを総称して呼ぶ言葉。システムは異なるが風媒花、水媒花にも使用する場合がある。
シンドローム(syndrome)は元々 症候群という意味の医学用語であるが、転じて「〜傾向」的な意味にも使用されている。メタボリックシンドロームが有名。健康増進法だか何だか知らないが本当に余計なお世話である。メタボとかタスポとか金と時間を使って大真面目にやっている暇があるのなら年金でも物価対策でも緊急性の高いテーマにリソースを投入して欲しい。

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