利助おじさんの探検絵日記

【その1】手賀沼北岸 【新版】


◆手賀沼の現在◆


千葉県我孫子市と柏市(一部連続性の無い水域が印西市、白井市にかかる)にまたがる小さな沼、面積6.5Km2の手賀沼は、ある意味我が国で最も有名な「沼」かも知れません。
それはCOD値による汚染度が27年連続で全国ワースト1位だったことによります。水質には複雑な要素があり、必ずしもCOD値による指標が実態を正しく表現しているとは思いませんが、それでも手賀沼近辺に漂う匂い、植生や生物の生息数を見れば納得できます。
こんな手賀沼ですが、北千葉導水路や周辺地域の下水道整備、植生による浄化、流れを妨げない設計で架け替えた手賀沼大橋など様々な試みによって水質はやや改善されつつあります。また周辺地域の公園化によって市民の憩いの場ともなっています。

実は手賀沼は我が家から近く、車で15分程の距離にあり良く出かけます。時間軸の無い絵日記ですが、何回か行った際に撮りためた写真を使って雰囲気をご紹介いたします。
北岸で最も印象的な建造物、手賀沼のシンボルともなっている「水の館」です。館内には面白い資料が多く、資料を見ているだけで時間が過ぎて行きます。1階奥には手賀沼産魚介類のミニ水族館があり、以前は森嶋先生が手賀沼底泥から復活させた絶滅種「テガヌマフラスコモ」の展示がありました。手賀沼の汚染と再生を象徴する展示だと思いますので、ぜひ復活をお願いしたいと思います。

これまた「シンボル」ですが、エントランスに置かれた小さな睡蓮鉢にはご当地植物であるガシャモクが植栽されています。奇跡的に埋土種子から発芽した手賀沼正統の系統は、この水の館や対岸柏市寄りの北千葉導水路ビジターセンターなどに展示されており見学が可能です。


◆付近の植生について◆


名著大滝末男先生の「水草の観察と研究」には豊穣な時代の手賀沼の様子が書かれていますが、当時の面影はもちろんありません。特に沈水植物はほぼ絶滅状態です。最悪の時代はpH9も測定されたという事ですので、もはやこの海水状態で生き残る水草は無いでしょう。
手賀沼付近は水田、用水路、ビオトープと水辺が豊富でそれなりに水生植物もあります。ただしフサジュンサイ、オオフサモ、オランダガラシなど帰化種が多いのが気になります。これは何回も触れている「水質浄化と植生選択」「帰化種によって醸成された生態系」の複雑な問題が絡んでいます。安易に批判することは誰にでも出来ますが、時代背景を考えなければいけませんね。
周辺水田にはお決まりのキクモ、アゼナ、イチョウウキゴケなど。大規模な平野部の水田地帯でもあり除草剤、殺虫剤のヘリによる空中散布を実施している地域のためか量は少なめです。ちなみにここよりも北になりますが、我が家周辺では数年前に空中散布を中止したところ、多様な植生が蘇ってきました。

賛否両論ありますが、農薬の本質は「除」草、「殺」虫であって生態系の一部を除外するためのものであることに他なりません。ただ、生態系を錦の御旗にする論調も食糧生産性や農業事業者の権利を振りかざす論理も嫌いです。それぞれ論点が違うので議論にならないのです。少し考えれば分かる事なのですが時折熱くなる方々を見かけます。


◆手賀沼ビオトープ◆


北岸東部湖岸には手賀沼ビオトープがあります。手賀沼からの水を引き入れ、いくつかの池と水路を通す事で植生による浄化を行うためのものです。周辺にある植物群落とともにちょっとした緑地になっていますが、最初に見た際には愕然としました。なにしろ帰化種と園芸種が多すぎます。
蓮や睡蓮が咲けば綺麗は綺麗ですが色々な問題を含んでおり、場合によっては浄化と全く逆の結果がもたらされてしまいます。絵日記コンテンツなので詳しくは書きませんが、枯死後の刈取のスキームが無いとかえって水質悪化につながったり・・・

帰化種の問題は手賀沼に限らず全国共通ですが、特にオオフサモとオランダガラシはエリアを突き抜けて周辺の湿地にまで進出していました。ビオトープは花壇作りの感覚では困るのです。公的な「ビオトープ」がこの有様なので熱帯魚水槽で余った水草を睡蓮鉢に放り込むような代物もビオトープと呼んでしまう風潮もあって困ったものです。
それと、水生植物に水質浄化の役割を過度に期待するのも困りもの。湖沼の浄化は主に湖岸湿地、特に浅瀬の土壌に生息する微生物に拠るところが大きいことが分かっています。こうした微生物(主に好気性)に酸素を供給する役割として植生を見れば、また違ったセレクションも出来るはず。何も知らない人々は何とも思いませんが分かる人には分かる「出来」。

あえて苦言ですが、定義定かならぬ用語を弄べばこうなるは必定、です。「隠れ特定外来生物」であり最も環境への影響が重大なハーブ類も花壇感覚で植栽されています。何をどうしたいのか、というのが正直な感想です。


◆ガシャモク◆


皮肉なことに最も絶滅に近い水草が最も汚れた水域で一時的に復活するという奇跡が起きました。2002年に手賀川でガシャモクが復活したのです。これは埋土種子が発芽したものと考えられていますが、もちろん一時的なものであって放置すれば再び絶えてしまいます。
「手賀沼にマシジミとガシャモクを復活させる会」(これは1996年のマシジミの発見を機に設立された団体ですが)を筆頭に手賀沼の環境整備がさらに加速しました。これは非常に良い事ですね。無くなったと思うものが還ってくる、これ程世間一般の関心を喚起し盛り上がる事例はありません。

手賀沼の汚染の主たる原因は生活排水と言われています。浄化する努力もさることながら汚染の原因を減らす取組みも必要であって、対処療法は自ずと限界があります。ここの部分は重要なことなのですが、管轄の問題や地域住民の権利の問題があってなかなか難しい問題なのです。これは手賀沼に限らず霞ヶ浦水系全体の問題でもあります。ただ、難しいからと言って放置しても事態は一向に改善しません。別記事でも触れていますが、北千葉導水路の効果に付いて「利根川から導水する以上、手賀沼の水質は利根川以上にはならない」という名言もあります。

最後に思うところを纏めてみます。


◆排水と水質◆

河川湖沼の汚染原因として排水の流入は最も影響度の大きな要因です。排水には主な発生源として生活、農業、工業があります。それぞれ「出さなければ良い」という非常にシンプルかつ攻撃的な解決方法がありますが、事はそう簡単ではありません。
工業事業者については法整備(水質汚濁防止法 下水道法)やISO14001によって今や環境に負荷をかけるほどの垂れ流しは少ないと思いますが、いまだに大きな負荷を与えているのは農業排水と生活排水です。
農業地帯は集落の特性からまだ農業集落排水事業が完全とは言えず、さらに水田肥料(特に窒素、リン)が短期間の湛水、乾田化技術によって凄まじい勢いで周辺の水域に流出しています。水田地帯の排水路をご覧になったことがありますか?さして汚染源の無い稲作地帯の水路でも悲惨な状態となっています。この手賀沼周辺の水路を探索すると、汚染の総本山である本湖よりも悪臭とヘドロが甚だしく、子供が網を使うと手賀沼の水で洗わなければならない程です。

水田浄化法という新しい考え方もあります。ただ数値化される部分は施肥によるプラス分が抜けていたり、ヘドロ混じりの悪臭漂うような水を使って米の品質は大丈夫なのか、農家はこの点を許容しているのか、など個人的には疑問を抱いています。
生活排水はひとえに下水道整備率がモノを言います。では行政によるインフラ整備に責任があるかと言うとそうではなく、ここ手賀沼の場合は流入河川の大堀川流域(柏市)の人口増がインフラ整備の計画を遥かに上回るものであった事が原因です。読みが甘いと言ってしまえばそれまでですが、行政が既存の計画を見直し新たに計画を組むのは想像以上に時間がかかります。私の家は旧農村地帯にありますが、どう考えても人口が増えるような場所ではありませんでした。ところが分譲が始まり家が建ち始めるとスーパーやマンションが出来たり、急速に都市化されてきました。このような状態になってから下水道が通るのに10年以上かかりました。
首都圏(境界線上ですが)の実情は似たようなものです。逆に都心部は下水道整備率が高く、神田川他、豊かな生物相が見られる場所が多く、自然破壊のドーナッツ現象も起きています。

*より詳しい解説は拙作「異論弱酸性国土説<改訂版>」をご覧ください





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