利助おじさんの探検絵日記

【その46】湿地 春の目覚め Part1


◆名もない湿地の豊穣

3月下旬、本来湿地歩きを行う時期ではありませんが、ひょんな事で市内の湿地近くで時間が出来、カメラも持っていたので少しだけ歩いて来ました。
この湿地は成立要因で言えば「大河川堤防際の後背湿地」で、利根川堤防の後方に形成された湿地を農業用水路(排水路)や生活排水路が何本か貫く地形です。従って水質は良いとは言えず顧みられる事もないのですが、メダカが泳ぎ以前はそこそこの種類の水生植物も確認している場所です。
なぜ湿地の成立要因が分かったのかと言うと先頃某NPOの主催で国土地理院(茨城県つくば市)のセミナーを受講する機会があり、市内飛地の来歴をご説明いただく過程で明治時代の古地図を見せて頂いたからです。当時の利根川は蛇行し、多くの砂洲を形成する、いかにも「暴れ川」という印象が地図からも読み取れました。そして氾濫源とも言うべき湿地が両岸に形成されており、右岸千葉県側には「本願寺沼」という現在は見ることが出来ない大規模な沼沢地があったようです。左岸茨城県側にも多くの湿地があり、この湿地は位置的にも名残であると思われたからです。
後背地には何層かの河岸段丘が残存し雑木林となっています。後半触れたいと思いますが、この雑木林の存在が湿地の維持を可能にしているのでしょう。何度か触れている話ですが湿地の維持は周辺の山林とセットで考えるべきであって図らずもゾーンディフェンス、里山保護の方向性が示されていました。

以前は水が溜まった場所にはミズトラノオ、スズメハコベ、ミズハコベ、少し乾いた場所にヌマトラノオなどがあり、湿地を貫く道路も舗装されていて行きやすい場所でしたが、ここを埋め立ててイベント施設を作る工事が始まりこれらの植物があった最も自然度の高い地帯は小高く土砂が積み上げられてしまいました。最早個人の力では如何ともし難く、何度か問題提起もしましたが重機が入り粛々と工事が進められているようでした。
久しぶりに訪れてみると如何なるわけか(可能性としては建設母体の財政か?)工事は中断し、僅に昔ながらの地形が残っていました。

風光明媚な湿地、例えば釧路湿原や尾瀬など国立公園として、あるいはラムサール条約登録地として保護されている湿地はかなりあります。しかし、地元の子供達が安全に小魚や水生昆虫を追い回し、私のように少し変わった大人も楽しめる湿地というのはそんなに多くありません。
こういった湿地が消えて行く事は個人的に「残念」とか「惜しい」という気持ちもありますが、それ以前に我が国が加盟しているラムサール条約の精神「湿地の賢明な利用」が果たしてイベント施設を作ることなのか、という点が非常な疑問です。もちろん地権者もいるでしょうし、地上で最も(経済的に)役に立たない地形である湿地をどうにかしようという地域振興の考え方もあると思います。
しかし、市のキャッチフレーズ「緑と水の町」が河川敷に僅かな緑地を作り、利根川・小貝川をはじめとする大小河川が「あるだけ」なのであれば寂しすぎますし、実態を見る限りそうとしか思えません。
政策キャッチフレーズからどのような印象を受けようがあんたの自由ですが、市としてはこう考えています。これもありだと思いますが、市井の一湿地愛好家として、市内ではすでにここだけしか見られないミズハコベやカワジシャを何とか維持したいという気持ちもあります。山と渓谷社の「野に咲く花」に収録されたヒメハッカやミズトラノオの写真が市内で撮影され、すでに見ることが出来ない事実を市は知っているのでしょうか。

という事で本文は「意見書」への改編を視野に入れやや固めの文章スタイルで書いてみます。あらかじめご了承ください。


◆アサザの発見

以前歩いていた際には確認していませんでしたが、小河川を跨ぐ小さな橋のたもとにアサザらしき植物がありました。この時期ですので完全には生長しておらず確実な同定ではありませんが、自宅や霞ヶ浦近辺で見慣れた草姿です。
遠目には昨今問題となっているアマゾンフロッグビットかとも思いましたが、この種に特徴的な葉裏の浮袋が見られず、ガガブタの葉脈とも異なるようでした。何より岸辺から水中に進撃していましたのでアサザの自生そのものと判断しました。
周囲にアサザの群落はこの一群だけのようですが、問題となるのはどこから来たのか、という点です。以前この一帯にあった植物で埋土種子からの発芽なのか、人為的な植栽なのか、どちらにしても開発も進む「名も無き湿地」であり、フロラも残っていないので確認の仕様がありません。
もっと恐いのは、アサザは意外に繁殖力が強く睡蓮鉢用植物として販売もされている状況なので、園芸由来の可能性が考えられる点です。系統保存という点では水系として霞ヶ浦に繋がる水路にある植物がまったく別な系統の国内移入のものであった場合、危険性という点ではアマゾンフロッグビットの方がましです。外来種は単なる防除で済む話です。(*)同一種で地域性がある国産種の場合、見た目では区別が付きません。
この水路は程近い利根川に合流しますが、利根川は当然霞ヶ浦と連続した水系となっています。常陸川水門も常時締切ではないので連続した水系と考えるべきです。現在霞ヶ浦ではアサザプロジェクトによって植栽が進められています。この中に別系統の株が紛れ込み交雑することの是非、という観点です。

余談ながらアサザは非常に強い植物で、植生による自然再生のシンボルとして選択した県の偉人かつ賢人の飯島博氏の慧眼は言うまでもありませんが、そのアサザも一時的に絶滅状態に追い込まれた霞ヶ浦の惨状は推して知るべし、と思います。この自生ポイントはやや水が澄んでいましたが実質は排水路に他ならず、調査のために採集した葉の一枚には水質階級Wの指標生物が張り付いていました。以前ミズハコベを採集した際にもエラミミズ、ヒル、サカマキガイなどのベントスが付いていましたので言葉を選ばずに言うと「ドブ」です。ドブで育つ植物が育たない湖・・・想像を絶します。

(*)異論もあると思いますが、現場で携わった者としての意見です。「蔓延ってしまって防除困難」これは相対的な状況を示しているに過ぎません。簡単に言えば防除に投入できる人的・資金的リソースが足りないだけの話です。本気でやれば可能です。アメリカザリガニを一匹10円で買い取る、こんなことが出来れば1000万匹回収してたかが1億です。ブラックバス、ウシガエル、セイタカアワダチソウ、オオカナダモ・・・本気なら種の維持が不可能な個体数、密度に追い込む事は可能です。現状は少人数で限られた時間、資金で活動しているから不可能だと思うだけで、現状容認型の認識なのです。


◆清流型水生植物 ミズハコベ◆

ミズハコベは一般に清流型、それも湧水起源など低水温を好む水草と言われていますが、この湿地中央を貫く排水路に自生しています。水が滞留していなければ水温の上昇は抑えられますので自生が可能となっているのかも知れません。
この水草の存在はある意味奇跡的で、画像をご覧頂ければ分かる通り、ここは単なる排水路であって家庭排水、農業排水はダイレクト、ゴミの不法投棄などもあるアオミドロだらけの所謂「ドブ川」です。水路自体も護岸されており、とても水草が生育する環境には思えませんが、下に画像を載せたミクリやヘラオモダカ、カワヂシャも水中から立ち上がりいち早く開花するタガラシなどと共に自生しています。

もともとこの水草の自生環境は低水温、つまりスプリングリバーが代表的であり山梨県の忍野八海や東京都の国分寺崖線からの湧水などが知られています。平野部の排水路にあるという話は他で聞いた事も見た事も無いのでその意味で貴重な存在であるという意味です。ミズハコベは何種類かの亜種もあると言われていますので生活型が異なる群落は重要な存在かも知れません。

この水路と同じ工法(と思われる)で作られた近所のビール工場の排水路は処理された排水が流れますので水質は上のはずですが水草は僅かにコカナダモを見る程度。この違いは水質汚染以外の水生植物の自生要因によるものではないか、と考えられます。それが何か、と言うと困ってしまいますが一つは周辺の雑木林の存在かな、とも思います。雑木林が両側にある谷津田(やつだ)地形は水路や水田に豊富な水生植物が見られる場合が多いのですが、ある程度の保水力を持ち常に微量ながら植生によって浄化された、あるいは必要な成分が補完された流れ込みが常時あることに由来しているのではないか、と考えています。

ミズハコベは以前この排水路の上流で確認しておりましたが、近年絶えてしまいました。今回下流でこうして生き残っていたのは非常に嬉しく、市内他所では見られない植物でもあるので何とか生き残って欲しいものです。ただし周辺の湿地や雑木林が存続すること、という脆弱な条件もあると思いますので考え所でもありますよ、ぜひ納得できる施策を>市役所水と緑の課
ちなみに、「市内他所では」と申し上げましたが県内他所でも未確認な、県でも希少な植物であることを申し添えます。


◆清流型水生植物2 カワヂシャ◆

こちらはわりと広範に残っている植物ですが、それとて市内で確認できるのはここだけです。県内で確認しているのも北部の渓流沿いなどごく限られた地域に過ぎません。
本種に特徴的なのは低水温下で水中生育することで、上記県北部の渓流では水中葉を確認しています。当地では湧水起源でもなく渓流でもないので水中葉は見られませんが、水中での発芽は可能なようで画像のような光景がそこかしこで見ることが出来ました。

カワヂシャは分類NTながら環境省RDBに記載されております。しかし見た目は「雑草」であって希少な植物という見かけをしておりませんので意識されることが少ないですね。「見かけ」は意外に重要でムジナモやヒンジモなど、いかにも「希少」「絶滅危惧」という形(先入感もありますが)なら少しは騒ぎにもなるでしょうが、本種や上記ヒメハッカなどは関心の無い方にはどこにでもある雑草に見えることでしょう。盛り上げても盛り上がらない「見かけ」。まったく損な植物です。

本種に関してもう一つ危機的な状況は、近似種のオオカワジシャ(帰化種、ヨーロッパ原産)の存在で、自生環境が同じで駆逐されてしまう上に容易に交雑してしまう様です。幸いな事にこの湿地にはオオカワヂシャの姿は見られませんが、すでに東京都では確認しています。ここで想起されるのはヒレタゴボウの例で、3年前には市内では見かけることが無く、千葉ニュータウン近辺で良く見られましたが、一昨年には自宅近辺の水田畦際で猛威を奮うようになりました。つまり僅か1年で利根川を越えて北上したことになります。
帰化種の伝播ルートについては諸説ありますが、鳥類の関与が大きいと思われます。特に帰化種が好む遷移環境である水湿地は同時に鳥類にとっても水分補給、餌場として重要な地形でもあるわけです。羽毛に付着する種子もあるでしょうし、水生植物のなかには「鳥に食われることで発芽率が上がる」種もあります。ここまで帰化種が跳梁している現代で湿地保全を図ろうと思えば定期的な観測と防除のスキームが不可欠です。この機能を行政が担わず多くの湿地や里山でNPOが実践しているのは本末転倒でしょう。
なんら生物多様性の観点での審議すら行なわず埋立を許可してしまうのは論外としても、放置は早晩同じ結果を招きます。神の見えざる手に委ねる時代は終わりました。重要な分岐点ですね。

Part2へ続く




SEO [PR]  紅葉めぐり 転職支援 わけあり商品 無料レンタルサーバー ブログ SEO