利助おじさんの探検絵日記

【その47】湿地 春の目覚め Part2


◆目覚める新芽と沈黙の春◆

湿地型の木本ハンノキも新芽が育ち緑が色濃くなってきました。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春(Silent Spring、1962)」は、農薬や化学物質による汚染の危険を訴えた高名な著作ですが、このハンノキの根本に眠っているであろう多様な水生植物の埋土種子にとっては今年も「沈黙の春」であるようです。
Part1で触れた通り、右岸の本願寺沼をはじめ豊穣な湿地であったこの付近には湿地植物百花繚乱であったことが僅かに残り環境悪化に耐えている現存種からも想像されます。一般に言われる埋土種子の寿命と当地の環境悪化が始まった時期の相関関係で、どれほどの種子が土に還ったか分かると思いますが、たかだか十数年の移住者たる私には伺い知る術もありません。少なくても小高く積まれた建設用土の地下の種子達にとっては永久に「沈黙の春」ですね。 別記事で書きたいと思いますが、市内北部に家電製品や自動車部品が捨てられている湿地があります。ここはまさに「沈黙の春」で、門外漢なのでいかなる物質が影響しているのか分かりませんが水域が完全に死滅しています。素人目にもバッテリー溶液や電子基盤の塗装などが安全であるとは思えませんが、単なる富栄養化以上に化学物質の恐さを実感しました。

何が言いたいのかというと、家電リサイクル法など廃棄に関連する法律は不法投棄を誘発する危険を内包したものではないか、と言うことです。もちろんリサイクルは3Rの重要な概念でグローバルな価値観であり法制化の意義と精神は十分に理解しています。また、廃棄費用を惜しみ不法投棄する方が間違いなく悪いことも分かっています。
本来の行政サービスがいつの間にか受益者負担と形を変え、そのうちの一部は環境が負担していた、なんてことにならなければ良いのですが・・。奇しくも奇跡の湖、ふじみ湖を潰したのも廃棄物処理場でした。


◆酸化鉄と湿地◆

横道ついでに、こんな画像も撮れました。湿地の内部は水が停滞しグライ土壌となっています。農作物のみならず水生植物の多くも苦手な(嫌気であること自体は克服している種もあります)二価鉄(還元鉄)が豊富です。
画像では地表に露出した部分が酸化鉄、つまり赤錆となっていますが、これほど土壌中に多い鉄分と共存してアサザなりミズハコベが自生している理由には「鉄バクテリア」と呼ばれる微生物の存在があります。この微生物の存在を考えるとき、菌根菌と並び最早植物機能の一部と呼んでも良いほどの共生の精緻な仕組に驚嘆します。
植物にとって僅かな量が必要、無ければ無いで何とかなる鉄ですが、あえてドボドボ投入して良しとする方法論は本当に訳が分かりません。自然界では防衛すべき対象となっているのが事実。

さて、鉄ですが水草が豊富で水が綺麗な環境ではこのような光景は見られません。赤茶けた光景はやや汚染が進んだこの水路のような場所で見ることが出来ます。(*)この事は何を意味するのでしょうか。これは植物の根によって酸素が地中に入り込み、土壌が酸化状態となっており、グライ土壌すなわち還元鉄(二価鉄)がほとんど無い環境であることを示しているのではないでしょうか。どちらが健全な湿地なのか分かりませんが、どうせなら水生植物が豊富な清浄な環境の方が癒やされます。
再び「湿地学」ですが、河川の砂州は水によって運搬される土砂によって形成されるわけで、鉄分が多いという説もあります。地質的に連続する後背湿地または氾濫源由来の湿地にも同様の特徴があることは十分考えられます。鉄の存在状態、酸化状態か還元状態かで湿地の「状態」はある程度把握できますが、状態と植生との関連も面白いテーマかも知れません。

(*)水田では水が入った直後に酸化鉄が急速に還元され、稲にとっても危険な還元鉄(二価鉄)が形成されます。ところが良くしたもので還元鉄の増加とともに鉄バクテリアが活性化し、田植えまでの時期に稲の植付けに支障のないレベルまで無害化します。この痕跡は5月頃(関東地方基準)水田に浮かんだ大量の油膜として見る事が出来ます。この油膜は鉄バクテリアが形成する被膜で時にはガソリンでも流したのかと思うほど日光を反射して七色のスペクトルを放射しています。(画像でも油膜が確認できますね)


◆清流型植物3 ミクリ◆

ドブ川にある清流型植物の3つ目として、この水路にはミクリがあります。低水温の清流では水中葉となり水流にたなびく姿を良く見ていましたので水中型として自生する条件は低水温か低導電率かと考えていましたが、水深20cm程度のドブでも水中化するようです。
この植物もNTながら環境省RDBに記載されている「絶滅危惧種」です。つまりこの顧みられる事のない小さな湿地にはアサザ(VU)、カワヂシャ(NT)とともに絶滅危惧種の水生植物が3種類自生しているのです。絶えてしまったスズメハコベ(同、EN)とミズトラノオ(同、VU)を加えれば5種類です。私が見てすぐ分かる程度の事実ですが、行政が把握しているのかどうか疑問です。
繰り返しになりますが地権や地域振興の問題は認識しています。北部の水田ではミズネコノオ(同、VU)もありますが、この存在をもって「耕作をやめろ」とは言えません。それ以前に水田のサイクルに合わせた世代交代を行なう植物ですので耕作をやめれば遷移によって絶えてしまうでしょう。

実はこのミクリ、完全には同定しておりません。「一応」図鑑の特徴に合致する、という程度です。分布から言えばミクリが妥当ですが分布通り行かないのも世の常。ナガエミクリ、ヒメミクリ、タマミクリ、お仲間は沢山おります。低水温型と言われるナガエミクリも見たことがありますが、著しい相違点はありません。
カワヂシャ同様に雑草然とした草体の印象、地味な花、同様の環境に自生するガマやアシと大同小異、水路に生える雑草と見られる場合が多いのですが、実は希少な植物です。木を森に隠したあげくすべて伐採されてしまっては元も子もありません。

◆オモダカの不思議◆

オモダカ(Sagittaria trifolia Linn.)は水田に自生し、稲の合間から鏃型の葉を突き出しているのをよく見かけます。ところが不思議なことにヘラオモダカ(Alisma canaliculatum A.Br. et Bouche)を水田でみかける事は稀です。
近隣の水田には皆無で、(と言い切れるほど水田は見ています)土浦市の無農薬水田ではじめて見たほどです。それがこの水路にはあります。両側水田という場所も貫いている水路ですが、その水田には無く水路だけにあるのです。
わりと小型のオモダカに比べ大型になるヘラオモダカはかなり邪魔な雑草ですので真っ先に引き抜かれてしまい、結果的に水田に無くなってしまったのかも知れませんが何とも不思議な現象です。水路、つまり常時水のある環境を好む植物なのかと言えばそうでもなく、湿った地面であれば抽水である必要もありませんし、水中葉を広げることもありません。

ただ、画像(3月24日撮影)のように常時水がある環境では発芽が早く十分な生長期間が確保できるメリットはあります。水田はまだ湛水されておらず、今の時期発芽しても一度起こされてしまいますので生長には著しく不利になります。こんなところも理由かも知れません。ちなみに水田ではオモダカの発芽は田植え後になります。
オモダカやウリカワは発芽直後は似たような草姿で、見かけだけで同定することは困難ですがヘラオモダカは発芽直後から「ヘラ」があり見分けが容易です。気になる植物ではありますが、個人の環境で栽培すると持て余してしまいそうです。


◆里山保全への道◆

何気ない風景でもよく見てみると貴重な生物が生息している、こんな言葉がピッタリの湿地ですが「里山保全」はまったく同じ発想です。
難しく言えば「生物多様性」とか「二次的自然に依存する生物群集」とか理念が先にたった表現になってしまいますが、子供時代に遊んだ光景がまだあって、遊んでもらったメダカや草花がある、ってことでも十分ではないかと思います。
どこの町でも同じだと思いますが、見るだけでほっとする景色は減りつつあります。どのような景色にほっとするのかは人によってまちまちだと思いますが、「となりのトトロ」に出てくるような里山風景に和む方は多いのではないでしょうか。「和む」だけでも保全の価値は十分ありますし、理由はまちまちでも保全されればそこに居る生物たちは生きて行けます。

痛めつけられた湿地ですが、ゴミを掃除し多少の水質改善を行なうだけで和む里山になります。湿地周辺の雑木林にはまだクワガタやカブトムシもいます。僅かな時間の散歩でしたが残された生命の春の目覚めを体感し、思うところがありました。

Part3へ続く




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