利助おじさんの探検絵日記

【その48】湿地 春の目覚め Part3


◆導水前水田付近◆

Part3は非恒常的な湿地、水田周辺です。地方にありがちな話で、色々なインフラは遅れていますが農業は進んだ地域なので周辺の水田は乾田化されております。ですので年間の大部分は乾地です。しかしながら植物は湛水された僅かな期間に世代交代を行なうもの、湛水前から芽吹くもの、様々なスタイルで生き残りが成されています。
田んぼ水草の花形はトリゲモやスブタ、ミズオオバコなどの沈水植物ですが水の無い時期にもそこそこ湿地植物が見られる、という話が今回のテーマです。
北関東では水田に導水されるのは概ね4月下旬です。兼業農家も多い関係でちょうど5月の連休に田植作業がピークとなります。そして8月に落水されるまでの実質3ヶ月間が「湿地」となります。年間の1/4の期間が「水田は湿地」と土地の性質を代表するのも変な気がしますが、乾田化が比較的最近急速に行なわれたことによる「名残」とも言うべきものなのでしょう。

導水直前の4月中旬、自宅周辺の水田地帯を歩いてみました。今は農道と言えどもきちんと舗装され歩きやすいのですが、道路の両側、水田に落ち込む畦を兼ねた斜面にはこの時期にも様々な植生が見られます。
タンポポやナズナ、オオイヌノフグリなど陸生の植物も開花していますが、やや白っぽいトキワハゼに混じりムラサキサギゴケが一群を形成していました。ムラサキサギゴケは色と言い形と言い非常に観賞価値が高い「雑草」だと思いますが、スベリヒユ→ポーチュラカのような改良はされていないようです。
推測ですが次項で述べるように表面は乾地に見えても地下水位があるような地形、まさに水田環境が生育の条件になっているのかも知れません。もちろん水中葉にはなることが無いので水深のある睡蓮鉢でもNG、地下水位の無い庭植えやプランターでもNGといったところでしょうか。
一般的に流通に乗る園芸植物は「育てやすさ」が命で、適当なプランターに園芸の土を入れて植えつければ追肥や剪定もミニマムで、水やりのみで維持できるパンジーやデイジーがスタンダード、つまり売れますので。

この種はゴマハノグサ科に分類されていますが、他のゴマノハグサ科植物の湿地系、アゼナやアブノメに比べると傾向が異なるような気がします。他種に比べると花の色形が際立っていますし非常に好きな花ですので何とか育成の方法を見つけたいと思っています。
ちなみに「ムラサキサギゴケ」は正式な標準和名ではないようで、サギゴケ(Mazus miquelii Makino f. albiflorus (Makino) Makino)という白花種の紫花種を便宜的に呼んでいる可能性もあります。近縁のトキワハゼとは模様のパターンで区別が可能です。またムラサキサギゴケの方がやや花が大きい印象です。
ちなみに私はサギゴケの方は見た記憶がありません。ムラサキの方は複数個所で確認していますのでサギゴケは意外と希少種なのかも知れません。そういえばわりと広範に水田周辺を歩いているわりにはツリガネニンジンも記憶にありません。


◆ハッカの発芽◆

同じ環境では、盛期には水が流れる用水路の底や田水面から立ち上がるハッカが芽吹いていました。イメージ的にはハッカは湿地植物そのもので、乾地にも進出するシロバナサクラタデなどよりは湿地依存度が高いように感じます。
しかし芽吹きはこのような乾地で盛んに行われるようで、自宅の鉢で育てている株とはまったく違う傾向を示しています。自宅のものは鉢の土の線と水面が同じ、つまり鉢全体をぎりぎり水没するように設置してありますが、新芽が少し出て来た程度です。
ヒメハッカやヒメシロネも同様に維持していますが、彼らはこぼれ種で何と庭で実生します。どこまで育つのかやってみた事はありませんが、湿地植物の実生や発芽には一律には語れない条件のようなものが各種にあるようですね。

湿地植物なのにこの状況はどう解釈すれば良いのか?という点について以前書いたテキストとかぶりますが現象面から仮説を立ててみました。
ヒルムシロなど一部の湿地植物は発芽時のエネルギーを酸素呼吸から得ておりません。内部でアルコール発酵を行い、その際のエネルギーを利用しています。新芽の生長は無酸素状態でMAXとなるようで一般的な植物の常識から大きく外れています。ウリカワなど湛水以降に見られる湿地植物も同様の傾向があるそうで、「嫌気耐性」という言葉でプロファイリングが成されています。
一方この両種のように水中からの発芽が困難、あるいは制限となっているような種は陸上植物と似たようなエネルギー利用方法を行なっているのではないかと思います。早い話、酸素呼吸ですね。

つまり一言で「湿地植物」と言ってしまうと育成する上でも観察する上でも括ってしまいがちですが、発芽時の生長パターンで大別できるのではないか、ということです。ただこれも抽水だから、沈水だからという単純な区分ではなくて種によって大きく異なります。鉢ごと沈めた用土から元気に発芽してくるヌマトラノオ、タコノアシ、ヒメジソ、ホソバノウナギツカミ(実生)、ミソハギ、ハンゲショウ、同じ環境ではやや発芽に難があるハッカ、ヒメハッカ、デンジソウ。
抽水植物と括られるグループでも種毎に相違があり自生環境でもその違いに沿った傾向があるのではないか、という話です。これは育成し世代交代によって維持する上では非常に重要な概念であると思います。
「自然環境にある植物なので自然のままに」とも思いがちですが、水田の湛水パターンに合わせて世代交代するような植物もありますので睡蓮鉢に入れて放置、という方法では維持できない種もあります。


◆水田の植物◆

導水されて暫く経てば水田雑草の本格的なシーズンとなります。米価については今年も傾向はさほど変わらないようで、無農薬・低農薬は続くようです。この状態となって数年、毎年のように新種が出て来ました。
ホシクサやサワトウガラシが出て来て感激しましたが、何と言っても感動したのはミズネコノオです。自生を見たことが無かったのですが、他の植物を圧倒する気品ある姿で稲の合間にスクッと立っていた姿には久しぶりに興奮させられました。
(画像は昨秋の水田での開花です)

水田が自然環境かどうか、ラムサール条約的には立派に「賢明な利用を図るべき」湿地ですが(この意味で自然環境か人為的なものか区別はしていません)農業サイドから見れば生産インフラであり、雑草は生産効率を低下させる邪魔者以外の何物でもありません。そもそも論点が違う価値観が混在している場所なのです。
希少植物と農薬の議論になるとテンパる方が多いのは「どちらの立場に寄っているか」という違いです。この議論は落しどころが無いので私はもう参加しません。結論を導こうとしない議論は時間の無駄ですし参加している全員に得るところも無く場合によっては批難合戦になってしまうからです。
保全したいと思えば方法は一つしかなく、試行錯誤の繰り返しによってようやく確立した「里山保全」です。これには地権者に対して経済的側面を含む合意形成のスキームがあります。「希少だ」「保護すべき」という論点だけでは永久に溝が埋まりません。
保全すべき里山ならぬごく普通の水田では原価の多寡(除草剤を使用するか、どうか)、耕作の有無(継続するか、休耕するか)など人間の都合によって植生が変わってきます。これは是非についての問題ではなく「事実」です。事実と言い切るだけの数年間の観察結果もあります。現代の農薬は選択性が〜と枝葉の論点ではなく、今の姿は必然的に起きている「結果」なのだという目線で水田観察をしてみるとより多くのことが分かると思います。

No.46と47は小一時間、今回のNo.48は30分程の近所の探索なので内容が薄くなっていますが(^^;体調が一定せず多忙にも嵌っておりますのでご容赦下さい。シーズン本格化に向けてもろもろ整えて行きたいと考えています。




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