利助おじさんの探検絵日記

【その53】鳥毛藻水田探訪記

◆偶然の卵による偶然の賜物

2007年7月28日(土)、その日はたしか、たしか・・・古い話なので忘れました(^^ゞ。なぜ今になってそんな古い話を書くのかと言うと、どこにも行っていないしネタが無いからです!(きっぱり)ついでになぜ日付を特定出来るのかと言うと写真にexifデータが付いているからです(汗)。なにしろ生まれてこの方、日記を付ける習慣は皆無、昨日の昼飯も必死に記憶をたどらないと思い出せません(きっぱり)。
日付から考えると5月末〜6月上旬の超絶不調後のリハビリ時期ですねぇ。何回か危ない目にあいましたが去年のは酷かった。夏なのに40度近い熱が1週間続き、解熱剤を処方されれば抗生物質のアレルギーで肝機能障害。久々に逝くかと思いました。その後やっとやや長距離の運転などが負荷にならなくなった時期でしょうか。たぶん、つくばみらい市に嫁さんと買物に行った途中の時のことだと思います。
要するにどこに何しに行ったのかは忘れましたが、ちょうど茨城県常総市を通りかかったところで美味しそうな野菜の直売所があり、女房が寄りたいと言うので寄ったわけです。「生みたての卵」というのがあって「もう日が高いのに産みたてはねぇな」と突っ込みたいのを我慢して、さらに女房がニンジンの袋を手に2つ持って重さを比べるのを「家はニンジンの数十グラムを気にしなければならんほど貧乏かい」と突っ込みたいのも我慢しているうちに飽きてしまったのでした。
駐車場からやや離れた道路際に自販機があったので冷たいお茶でも、と歩き出しますと自販機の裏が水田になっておりウキクサに覆われておりました。いまさらウキクサいらねぇし写真撮ってもなぁ、と何気なくどかして見るとなんだか茎のある水草が隙間無く茂っていたのです。

数年前にはこの近辺の湿田でヒロハトリゲモとオオトリゲモを発見しており、今回もそれか?と思いましたが、シャジクモが混じっていたり妙に色の抜けたようなトリゲモがあったりでやや様子が異なりました。水田はホシクサ好きの方々はよくご存知のように、同じ地域でも畦一本違うと植生がまるで違ったりということがよくあります。そういう意味では付近の水田を「くまなく」調査したとは言えず、しかも誰もあまり気にしないウェットランドなので未知のフロラが細々と生きている可能性はまだありますね。
それはともかく、そろそろ買物も終わって帰る時間かなと思い、精査は家に帰ってすることにして一掴み水草袋(常備)にぶち込み、周囲を写真で抑えることにしました。(カメラもほぼ常備)

◆払子と糸と除草剤の相性

わずか3枚の水田でしたが「水草」の密度でここを上回る水域は見たことがありません。水草で名高い、かのY川やS池もこれほどの密度はなし、特にウキクサがない場所はかくのごとしで、すべてイバラモ科という豪華さ。
田舎と言われる我が茨城県でも種類はともかくこれほどの量のイバラモ科がある場所は他にありますまい。もちろん水田ですので農薬や乾田という「近代化」や休耕遷移という「天変地異」が起これば彼らは生きて行けません。この水田は小規模な一角で、農家の自家用なのか農薬を使った形跡もなく、すぐ傍らが河川の堤防なので後背湿地的に水の沁み出しもあるのでしょう。図らずも湿田となっていたようです。その程度の条件でもここまで繁茂してしまう・・逆に考えれば田んぼ水草の無い水田の米は恐いということなのです。どこかで書いた話だと思いますが忘れてしまったのでもう一度。

その前に一応本件に付いて注記しておきます。除草剤に付いては「荒れやすい議題」で自分でも経験しましたが擁護派と否定派に分かれた批難合戦が延々と続きかねません。よくよく考えてみるとこの手の議論に参加する(あるいは好む)方々には2つの特徴があることに気が付きました。これを踏まえて、異なる観点からの意見は相手にしない、語る対象である「除草剤」の歴史、効能、危険性(安全性)、市場規模など出来る限りの正しい知識を身に付ける、という2点を心がけるようにしております。

(1)自分の言っている意見が「生態系的観点」なのか「農業技術的観点」なのか、あるいは「法的観点」なのか鮮明にされていない。生態系的観点と法的観点では永久に噛みあわないことは明白。生態系的観点であれば生態系的観点で議論をしろ、と言いたい。サッカーチームとラグビーチームでは勝負にならない
(2)除草剤という大きな概念を一括して実態の無い議論を行う。稀にググって「選択性」などと知ったかを発揮する奴もいるが、何に対してどう選択するのか、という根本的なところが分かっていない。要するに知識がない対象について実態と離れたところで感情的議論を行っている


閑話休題で「お米の恐さ」についての証言です。

【隣家の米作農家E原家の婆ちゃん談】(C)E原さんちの婆ちゃん
農家は自分で食う米には農薬使わねど。昔っから薬撒いてっとき随分おっちんでんだど。ネズミも虫もいなぐなんだよ?おっかねえべ?
【大意】(利助訳)
農家では自家用米に農薬は使用しない。昔から散布時に死亡事故が多発しているし、ネズミや虫も居なくなるほど強力である。とても恐ろしいでしょう?


すぐにフラグが立つ方向けに言っておきますが、この話は専業農家である私の母の実家でも聞かされましたし、ネガキャンではありません。それよりも無農薬、湿田という環境で見られる植生の豊かさはすべてを忘れるほど偉大です。

てなわけで偉大な植生を持ち帰り、邪魔なウキクサやシャジクモをどかし(こんなこと書いていると森嶋先生や山室先生に叱られそうですが^^;)仕訳してみると2種類のイバラモ科植物が残りました。細い方はすでに結実しており肉眼でも2連した種子が確認できました。イトトリゲモです。もう1種はヒロハにしては鋸歯が目立たないな、と思い葉を下方向に引いてみたところ葉鞘が大きく披針形に突き出していました。ホッスモですね。
物の本には「イトトリゲモとホッスモはしばしば混生する」とありますが、単体でも自生を見たことが無かったのに、こんなパターン通りで見ることが出来るとは何という幸運でしょうか。まさに偶然の卵の賜物、早口言葉のお陰です。

さて、無農薬、湿田と来ればお馴染みのメンバーもしっかり入っており、目視できるプランクトン(種類は門外漢に付き不明)、ベントスとしては小型の貝とヒルが入っておりました。当然の事ですが植生が豊かであれば生物相も豊かなわけです。けろけろ両生類も密度濃くおりましたが、カエルに付き物の長い爬虫類に出会わなかったのは幸運でした。なにしろ非常に苦手、というか恐怖の対象ですので。

◆絶滅への道筋

イトトリゲモは環境省RDBではIB(EN)ですが、ホッスモは記載されておりません。どちらにしても周辺地域では滅多に見られるものではないので希少であることは間違いありません。
絶滅する生物は、種の存続を脅かす天敵が繁栄しているとか長期的に存続に合わない条件の気候になってしまったとか、言ってみれば「種の寿命」を迎えてしまったものもあります。しかし環境省RDBに記載される生物はそんなことは無く、圧倒的に自生環境の喪失が原因であることは動きません。
この田んぼの例で考えてみると、除草剤はともかく後背湿地的な環境にあることで乾田化をあきらめたような状況にあることが幸いしているのでしょう。日本一の大平野に住んでいるために経験が乏しいのですが、山間の水田は湧水という乾田と無縁な環境であるためにイバラモ科はもちろん、スブタなどが残っているのでしょう。

かつては広範な地域に存在したはずのイバラモ科は9種中6種が絶滅危惧種となっています。もちろん絶滅危惧種ではなくても簡単に見つかるような科の植物ではなくなってしまいました。除草剤、乾田化、そして減反、山間の棚田は労働力の高齢化と、次々に押し寄せる自生環境の喪失に晒されています。このまま行けば科まるごと絶滅という事態も起こりえるでしょう。たかが雑草されど雑草。

農作物、野草、雑草と除草剤の関係を文化的背景、化学的背景を織り交ぜて解説している名著があります。
「きらわれものの草の話」松中 昭一著 岩波書店
最近の中国製毒入餃子事件もそうなのですが、単純に「農薬が悪い」「オーガニック」「食の安全」というステレオタイプの見方ではなく、この問題を多面的に考えることが出来る良い本です。太宰治の「富士には月見草〜」、竹久夢二「宵待草のやるせなさ」の植物の正体など、読みどころも満載。お奨めしておきます。


Vol.53 茨城県常総市 2007.7.28(Sat)
photo Canon EOS KissDigital N/SIGMA 17-70mmF2.8-4.5 MACRO



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