利助おじさんの探検絵日記

【その54】水戸の自然 千波湖編

◆県庁所在地へ

2008年5月3日(土)、実家に顔を出す用事があり出身地である茨城県水戸市に行きました。正確には私の生まれは県西部、現在の桜川市ですが、物心付く頃には父の仕事の都合で水戸に転居していましたので言わば準出身地ですね。実家の用事も早々に終わり、歴史と文化以外にこれと言ったアミューズメントも無い地方都市、同行した子供達も飽きてしまったのでとりあえず市の中心部、偕楽園一帯に連れて行くことにしました。

県庁所在地は通常その県の中心部で産業人口が集まり、施設やインフラも最も充実していると思いますがわが茨城県の場合は様相がかなり異なります。
まず第二次産業は北部日立製作所の本拠地日立市周辺にある工場、関連企業、下請企業の企業群と南東部の鹿島臨海工業地帯に集中しています。文教や先進企業、設備インフラは県央のつくば市、所得水準は昼間都民の多い取手市、牛久市、守谷市と、特に必然性の無い県庁所在地なのです。
ついでに、県内に2チームあるJリーグのチームも、つい最近まで鹿島郡の町であった鹿島市のアントラーズはJ1の優勝最多回数を誇る一流のチーム、水戸のホーリーホックはJ2下位の弱小チームです。高校野球も優勝旗を持って帰るのは土浦(常総学院)や取手(取手二高)など県南のチームだけ。
利便性という点でも地下鉄千代田線や常磐快速の始発となっている取手やつくばエクスプレスの沿線など首都と密接な関係、アクセスを持つ沿線とは雰囲気がまったく違います。人口こそ周辺町村の合併で面目を保っていますが、非常に微妙な立場であると言わざるを得ません。こうした地方中堅都市の地盤沈下は意外に激しく、似たような立場の土浦市は駅ビルのショッピングモールを閉鎖せざるを得ない程の状況です。首都圏近郊でも「実質東京」以外はこんなもんです。一極集中ですね。

水戸市には市の中心部に千波湖という小規模な湖があり、東岸の護国神社、北岸常磐線を挟んで急速に台地となる斜面から始まる偕楽園、常盤神社、さらに周辺の文教施設などが一体となり大規模な公園となっています。地方都市なので駐車場もそこかしこにあり、大部分が無料で楽しめる場所となっています。
私が子供の頃にはそれぞれ独立した施設となっており、間には湿地やら未整備の露地が広がっていましたが、綿々たる公園整備の努力によって各所が有機的かつ計画的に連結されたようです。街の中心部がこれだけの規模の公園になっているのは国内では珍しい例ではないでしょうか。この「拡大」偕楽園公園は市街地に隣接した公園としては世界第2位の広さと言われています。(1位はニューヨークのセントラルパーク)観光以外にさしたる産業も無い地方都市の生きる姿が垣間見える部分です。
数日前に夏の豪州家族旅行の費用を払い込んだこともあり黄金週間と言えども諸経費無料は有難く、さらに鳥やら魚やらを見るだけで楽しめるエコロジーかつローコストな家風によってとても楽しめた一日でした。なにしろ実家は中心部に程近いのですが、実家に居た頃はまともにこの一帯には来た事がありませんでした。地元の「名所」は意外と行かないもんですしね。
当時は周辺に広大な手付かずの湿地が存在していた記憶がありますが、如何せん植物に対する興味が希薄な時期で、植物探査以前に近寄ったこともありませんでした。今から考えれば非常に惜しいことをしたような気もしますが、覆水盆に返らず。

◆抜け落ちている自然再生

出身地だろうが居住地だろうが駄目なものは駄目というスタンスなので申し訳ないのですが、公園整備=人間の心地よさ、で生物達にとっては必ずしもそうではないという感想が第一です。
端的に言えば自然再生の努力は公園整備に於いては全く見ることが出来ません。念入りに施された護岸やら遊歩道やらはともかく、あらためて見る千波湖や桜川の水質は「ここはこんなに酷かったか」と思わせるものでした。霞ヶ浦や北浦を良く知る我が家の子供達も「霞ヶ浦より汚い」と言う程。綺麗汚いはともかく、浄化の努力が見られない点では手賀沼以下と評さざるを得ません。このマッディーな水面を餌付けされた白鳥黒鳥が泳ぎ、岸辺にはおこぼれを期待する巨大な鯉が集まる・・・これで「自然が豊か」はないですね。
むしろ整備する前の湿地の方が「自然豊か」であったことは昔ながらの偕楽園側の水路に僅かに残るミツガシワやハンゲショウの群落が物語っています。台地からの湧水を水源とする水路にはカワニナも多数生息していました。
千波湖は沈水植物が生育できるような透明度ではなく、浮葉植物や抽水植物も白鳥、黒鳥、鯉と生育を阻む「人間好みの生き物達」によって自生が不可能。しかも彼らも自然の食物連鎖に身を置いているわけではなく人間が与える餌によって露命を繋いでいる、という表現が相応しい有様です。鷲谷先生が仰る「カタストロフィックシフト」はかくの如し、という状態です。
行政もけっして放置しているわけではないでしょうし何らかの手は打っていると思いますが目に見える成果が無いのが問題。目に見えるのは私が住んでいた頃には荒地や湿地だった場所にそびえる徳川光圀や徳川斉昭・七郎麻(慶喜)の像。観光が主要な産業である我が県県庁所在地としてはいたし方無いのは理解しつつも、最新の公園整備の概念からは非常に遅れた公園整備、悪く言えば「箱物行政」の姿がそこには見られました。
そもそも「水戸」という地名には水上交通の入口出口という意が込められている、と聞きました。事実北部を貫通する那珂川から分岐する桜川、涸沼川、それぞれが繋がる千波湖、涸沼、大小河川湖沼が数多ある地形で、防衛上有利なために古来から有力豪族が本拠地を置いてきたわけです。これだけの水場があれば水生植物もさぞや、というのが普通の感覚。まして大規模な工業も無い都市なので希少な植物の残存もあって然るべきです。ところが今やスタンダードとなったシードバンク調査など行われた形跡も見当たりません。方向性が間違っているのではないでしょうかね。

◆白鳥黒鳥

千波湖を訪れる数日前、白鳥黒鳥が7羽撲殺される事件が起こりました。その後中学生が何人か自首したようですが、チューリップの植え込みが切り取られたりゴキブリ駆除で110番したり、あいも変わらず妙な性向をもった国民性です。それはともかく、人間の姿を見ると餌を求めて近寄って来る鳥達の姿に苛立ちを覚える気持ちは何となく分かります。無論殴り殺す事を肯定は出来ませんし、苛立ちが即撲殺に繋がる短絡的思考は理解できませんが、それ以前に野生生物をこのようにしてしまった人間に問題があるのではないか、と思います。
野生生物は程度問題は別として人間に慣れます。これは犬猫ハムスターなどの「家畜」以外の野生生物を飼ってみれば分かることで、警戒心の異常に強いシマリスやモモンガも慣れれば寄って来ますし、手から餌を受け取ります。餌をくれる、害を与えない、という2点が理解されれば必要以上に人間を避けないのです。ただ、飼育下に無い野生生物をこの状態に置くことが賢明かどうか、必要以上に距離を置かない学習がされてしまった野生生物にはこの手の事件も起こり得るでしょう。
結局のところ原因も結果も人災ですね。餌を求めて近寄って来る野生生物もいい加減だらけていますが、妙な博愛主義が歪んだ結果をもたらす好例ではないか、と思います。県内でも数箇所白鳥を売り物にする池がありますが、売り物にする、餌を買って貰う、ついでに何か土産を買って金を落として下さい、この姿勢の方が余程すっきりします。日光や富士五湖も基本的には同じです。行く方も分かっているので今更博愛主義のオブラートもなぁ、と思います。

何だか愚痴っぽくなっていますが、折からの黄金週間で居合わせた他県からの観光客と思われる方々が口々に「綺麗な街」と褒められるお言葉を聞くにつけ、「表面的にはね」と思わざるを得ませんでした。もちろん観光誘致という狙いにとっては思い通りの感想を引き出しているわけですが。誇らしくもあり恥ずかしくもある、人が故郷に抱く思いそのままの複雑な感情故、とご理解下さい。某古都の住人が無条件に抱く街への誇りは例外だと思います。
(ちなみに「他県からの観光客と思われる」のは言葉です。地元の方は「だっぺ」など特有の語尾変化を伴わなくてもイントネーションの違いで見分けられます。関西人がニセ関西人を瞬時に見破るのと同じです・・・余計な注釈でした^^;)
さて余談はともかく、ここには見るべきものはありません。観光に来て餌を買って鳥や鯉に与えるのは時間と金の無駄。千波湖は全景が台地上の偕楽園から見られますので、あえて近付いて泥水のような湖面に絶望することもありません。公園整備の明るい側面、インフラ整備によって2つの橋で結ばれた偕楽園の方がよほど見ごたえがあると思います。

・・・それでも子供は楽しんでいる様子。金をかけない遊び、という「餌付け」が見事に成功しておりますな。


(偕楽園編へ)


Vol.54 茨城県水戸市 2008.5.3(Sat)
photo Canon EOS40D/SIGMA 17-70mmF2.8-4.5 MACRO



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