利助おじさんの探検絵日記

【その64】筑波実験植物園

◆つくば平安京エイリアン◆


茨城県随一の近代都市「つくば市」はわが町とともに周辺町村を合併し、ついに境界を接することになった「お隣さん」ですが、そうそう頻繁に用事もあるはずもなく地理については今一自信がありません。かねて行きてぇ行きてぇと言っていた私のささやかな希望が適い、家族で筑波実験植物園に行くことになった初秋の休日、勇んで出発したのは良いのですが、なかなか辿り付くことが出来ませんでした(汗)。
つくば市は東京教育大学が筑波大学と名を変えて移転するのを機に徹底した都市計画の下に造られた近代都市です。そのお披露目は「つくば万博」で世界の「TSUKUBA」たらんと欲し、インフラ整備にも巨大な投資が成されたバブルの遺産です。通常の「バブルの遺産」は瞬間的に風化しますが、研究学園都市という経済動向に左右されない性格に加え、国の研究機関やインテル日本法人などの企業が進出したため祭が続いている街でもあります。あおりを食ってかつての県央中核都市の土浦市などは寂れる一方という栄枯盛衰も見ることができます。
その土浦市や牛久市、坂東市、取手市など付近の中堅都市には放射状に道路が延び、中央部で碁盤の目のように交わります。一種整然とした都市と道路は、何だかぐねぐねワケの分からん設計で色々な場所で渋滞する東京とは一線を画しています。県道レベルで片側3車線という場所もあって交差する国道が貧弱に見えたりもします。まぁ茨城県内には国道でも藪の間を通る路地のような所もありますけどね。

しかし!整然過ぎるのは田舎者にはよくない!似たような直線道路と異様に繁茂した並木がどこでも同じような光景を創出し一種の既視感を醸成し・・・早い話迷ったのであります!
道路マップと格闘し(当時の我が家の愛車にはETCはおろかカーナビも未装備*)何とか見慣れたポプラ並木に出た、と思ったら逆方向の牛久方面に走っていました。いい加減嫌になってきて歩いている方に聞きました。

「東大通に行きたいんですがどうすれば良いですか?」
「この目の前の通りですよ、どこに行きたいんですか?」
「(汗)筑波実験植物園なんですが・・」
「ここを真っ直ぐ3kmぐらい行くと右側にあります」

何のことはない、いつの間にか正解の道を走っていたわけです。ただし向きは逆に・・
つくば市に行くと度々こういう事があって、我が家からの最短距離、谷田部から入ると中心部からいつの間にか離れている、という経験を何回かしています。
さらに古い地図に無いランドマーク、TXとその駅が出来たために尚更混乱に拍車がかかるわけで・・てなわけでかなりのガソリンを余分に消費した挙句、やっと目的の筑波実験植物園に辿り付いたわけでございます。

*12月11日に納車された我が家5台目のTIIDAにはじめてナビが付きました。これでつくばも安心です・・・違っ

◆意外と多い入場者◆


近代都市つくば市と言ってもそれは限られた中央部分のみの話、JAXA筑波宇宙センターのロケットや巨大な敷地の筑波大学などが織り成す近代都市も一歩出れば昔ながらの農村地帯で全市植物園のようなもんですが、それでも結構な入場者がいるようです。
この植物園は国立科学博物館の設備なのでかかっている費用がそんじょそこらの「植物園」とは桁違いであること、比例して揃っている植物種も豊富であることが集客の要因だと思います。蘭を見たい方、様々な木の実を見たい方、そして水草を見たい方それぞれが満足できるクオリティを持っている、という稀有な植物園であるということでしょう。
「国立」はすなわち目の前の小銭にガツガツしない、ってことで高校生以下は入場無料、一般も300円です。駐車場ももちろん無料、このあたりの鷹揚さが国の有難味を感じるところ。

ビジターセンターから園内入口を通ると以前子供達の夏休みの作品に使うためにわざわざ山梨県で拾ってきたトチの実がごろごろしていました。近所には無いなぁと思っていましたがこんなところに宝の山が(汗)。しかし園内では植物採集はもちろん落葉一枚、木の実一つ持ち帰ってはいけないというルールがあり採集は断念。
しばらく並木と言ってもよいほどの巨木が続き、各エリアに分岐する通路が集まる広場に出ます。この広場の縁にも小さな流れがあり「実験」植物園の名に恥じず、屋外でありながらエキノドルスが花を咲かせていたりします。流れにはミズトラノオが進撃してなかなかビオトープ的な一画でした。エキノドルスは水槽でも容易に開花しますので不思議なことではありませんが、こうして屋外の流れの縁で開花している姿は不思議な感じがしますね。
この一画を横目で見つつ、とりあえずは目的である水生植物エリアに向かうことにしました。なにしろ水生植物エリアを見たいために「行きてぇ行きてぇ」と思っていたわけですから。そして「実験」植物園の展示に期待も高まろうというもの。

◆崩れる区域◆


水生植物エリアは大きな池を中心に区域で植栽が分けられた展示エリア、流れに植栽された見学コースなどがあり、相当種の水生植物があります。
ただし植栽されたエリアは遷移が進み、植物名を示す看板と実態が合わなくなっているエリアが相当ありました。エリアに入ってすぐ、池を渡る橋のたもと付近に「フトイ」の表示がありましたがミツガシワの群落が占有していました。知識を持っていれば分かりますが、普通の人?には誤解されてしまいますね。
この他にもザゼンソウなどの「季節商品」エリアはハンゲショウに覆われていたりして、現に女房は誤解していました。

「へぇ、これがザゼンソウか」
「馬鹿、ハンゲショウだよ、家にあるだろ」
「だって看板に書いてあるよ」
「・・・」

てなやりとりがあれば上等で、この時期に訪れた方々のうち相当数は「ザゼンソウは葉の半分が白くて長い花穂を持った植物」と心に刻まれてしまったことでしょう。
なにをやってるんだ、しっかり管理せんかい!と言うことは簡単ですが、我が家の猫の額程度の水場でもそれは困難で、1週間単位で栄枯盛衰がありますので水生植物の展示は難しいな、とあらためて感じました。それはそれとして、私のような水生植物「マニア」でもぱっと見分からない植物にも大多数は説明文が付いていますので、非常に助かりました。

画像は水生植物エリアの中心部にある池です。コウホネとミツガシワが繁茂しています。沈水植物が生育するには導電率が高いような印象を受けましたが、もともとある野池を利用したものなのでしょう。沈水植物は「見せ方」が難しいのですが、この池の右手の林の通路沿いを流れる小河川にササバモやセキショウモが植栽されていました。

◆幻のホシクサは幻だった◆


さて、今回の目的のなかの目的、コシガヤホシクサ(Eriocaulon heleocharoides Satake.)。一昨年のビアスパーク下妻ではスカタンこかされて、わりと近いつくばに移植された、との情報を得ての再出撃だったのです。
ありました・・・看板が(汗)。このエリアは枠で囲われた展示エリアで探すのに迷うような場所ではありませんでしたが、コシガヤはおろかヒロハイヌノヒゲやホシクサなど「ホシクサ科らしい」植物の痕跡も見つけることが出来ませんでした。たぶん移植はされたと思いますが、枯れてしまったのでしょうか?空振り2ナッシングです。

話は変わりますが、最近シラタマホシクサを入手しました。もちろん採集物ではなく園芸由来品です。それもスーパーの観葉植物コーナーで(笑)。おまけに1鉢120円(脱力)。荷物運び兼運転手の買出しでも時折このようなラッキーがあります。
入手後に世代交代方法を調べ始める多分に泥縄的学習をしたところ、意外に実生が難しいらしい、という事が分かりました。さらにあれこれ調べるとCAREX校長の水草小学校に興味深い記述がありました。以下引用です。

【引用】
(前略) そこで「属」より下の階級である「節」について考えてみることで属内の関係性を見直してみたい。(中略)
例えば合生萼節であるが、その中のシラタマホシクサとコシガヤホシクサはそれぞれ独立した他の節であるとの記述もある。コシガヤホシクサは根茎に特殊な面があるからかであろうか(後略)
【終了】

節まで網羅して分類する力作に脱帽ですが、合生萼節中のシラタマホシクサとコシガヤホシクサがそれぞれ独立しているという説は興味深いですね。そこで話はコシガヤホシクサに戻りますが、世代交代の難しさもその辺に特徴があるのかも知れませんね。
その合生萼節ですが、図鑑の記述と違うものが普通にある、ということでホシクサ科の節レベルでの再分類もテーマとして十分にリーズナブルであるように思われます。コシガヤホシクサの頭花の入手はアマチュアレベルでは無理ですけど。

もう一つ気が付いたこと。この展示エリアは内側にも通路が延びていますが、訪問時には閉鎖されていました。コシガヤホシクサのエリアはこの閉鎖扉から1m程のところでしたが、誰か不心得者が?たしかにこのクラスになれば頭花一つで最低数万円でしょうし欲しがる連中も多いでしょう。しかしたかが個人的興味や金のために国民の共有財産を・・と思いますね。正直アマノ事件以降ホシクサマニアにはよい感情を持っておりません。

◆秋の味覚◆


さて帰り道には旧谷田部町の農村地帯を通りますが、この周辺の特色は「野菜無人販売所」。何やかやの野菜が置いてあり気に入ったものを選んで料金箱に指定料金を入れる紳士協定のシステムです。振り込め詐欺が横行する不信の国にあって心温まる仕組です。心が温まらない人は金を入れずに野菜を持ち帰るでしょう。
この日は時節柄、秋野菜とともに栗が置いてありました。大きなネットに入った丸々とした栗が1ネット200円。県内の名産地である、かすみがうら市旧千代田町近辺では倍以上しますので非常に良心的な価格です。価格なりの味も想定して1つだけ買いましたが(もちろん料金は払いました)これが非常に美味でもう一つ二つ買っておけば良かった、と後悔するほどでした。
以前は付近の里山でホウキタケ等も採れたようですが、ご多聞にもれない里山の荒廃で見られなくなったようです。これは全国的傾向のようで、子供の頃父母と一緒に抱えきれないほど採った秋の味は今や貴重品、高級品となっているようです。ホウキタケをベースにシイタケを加えた炊き込みご飯は絶品でしたが、絶品なだけに品切れとなってしまったようです。この日も遺憾ながらキノコは見当たりませんでした。

様々な研究教育施設や先端企業が集まる都市のもうひとつの顔。農業を身近に感じる場所は日頃のストレスを忘れます。首都圏近郊、またTXの開通で年々開発が進みますが、こうした場所も残って欲しいものです。


Vol.64 茨城県つくば市 2008.9.15(Mon)
photo Canon EOS KissDigital N/Tamron A061


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