利助おじさんの探検絵日記

【その65】調整池の秋

◆市川学園と大柏川第1調節池◆


かねて某所の情報で存在は知っていましたが、千葉県市川市に大柏川という河川があり、流量調整のために水田跡を利用した大柏川第1調節池という遊水地が設けられています。
意外な事に東京に隣接する市川市は過去度々水害に見舞われており、真間川とともに大柏川もその原因となってきました。会社の同僚が昔この近辺に住む部下から「洪水で船で駅まで行きますので遅れます」という連絡を受けたことがあるそうです。急速な都市化が要因とされる洪水地帯も河川の改修やこうした遊水地の整備によって被害を防止しているようです。

この大柏川第1調節池は市民の憩いの場として整備が進むうちにタタラカンガレイ、デンジソウ、イトモといった関東近辺では希少となりつつある植物の存在も確認されたとの事で、いつか訪問してみたいな、と考えておりました。
2008年9月28日、中学受験予定5年生の必須課程である学校見学で5年生の下の子を当地の市川学園の学園祭に連れて行ったところ、隣接する遊水地がこの「大柏川第1調節池」であることに気が付きました。(計画的犯行ではありません^^;)
市川学園は千葉御三家と言われるそこそこレベルの高い学校で1月早い時期に入学試験を行うために受験者数が多く、さしもの巨大な設備でも収容しきれずに幕張メッセで入試を行うことで有名です。有名な証拠に入試当日は複数のTV局がカメラを入れたりします。
上の子も受験しましたが、巨大なコンベンションホールでの受験で雰囲気に呑まれることを心配していましたが「友達の顔が見えて楽しかった」ということで目出度く合格、ついでに準本命も合格したので辞退もさせて頂きました。(すいません^^;)一応「押さえ」の入学金はEOS2桁機が新品で買えるほど寄付させて頂きましたので許してね^^ゞ

学祭は学校見学の手段なので講堂や教室、図書館やグランドなど設備を調査するのが本筋ですが、そんなものはあっという間に終了、子供は模擬店や種々のゲームをさせてくれるコーナーに行きたがります。
ここはチャンス到来!と「タコヤキでも食え」と500円を渡し、集合時間と場所を決めて自由にさせました。もちろん私も自由になりました。

◆大柏川◆


市川学園と調節池の傍らを流れる大柏川は悪い意味で都市型河川、つまりしっかり護岸されて水質が悪い、という河川です。護岸上の遊歩道を歩いて行きますとほんのりドブ臭も漂います。
水質以上に印象的だったのは水草の多さで、その水草の99%がオオカナダモ。調整池内の複数の池には入り込んでいないようでしたが、構造的に河川の横に盆地があり、盆地に面した堤防が他の部分より低い構造、つまりある程度の増水があると遊水地に誘導される構造なので、意図された通りの状況で機能すれば一緒に入り込んでしまうかも知れません。
別に入っても良いのですが、遊水地の注意書きに「他から動植物を持ち込まない」とあったので何となく違和感がありました。こんなところ、と言っては失礼ですが、都市部の遊水地で生態系についてどのような見解を持っているのかちょっと興味深かったものですから・・・
と、遠慮がちに書いていますが構造的にも機能的にも大柏川と調整池は連続した水域であることに間違いなく、調整池単独で生態系を語るのは面妖です。「だから採らせろ」ってのはありませんが、この日も見かけた自然観察会も含めて「乗り」が里山NPOなのが何とも・・・

残り1%がこちらです。黒っぽいオオカナダモのなかで明るい緑の群落ですが、リュウノヒゲモやヤナギモなど細葉系ヒルムシロ科は流れのなかで光線の具合によってこのように見えることがあり、ほぼ間違いなくヒルムシロ科の何者かだと思われます。
フロラを考えればイトモだと思いますが、なにしろ河川には降りられない構造で、降りられても手を入れたくないような水質なので未確認。この手のヒルムシロ科はほぼすべて見たはずなのでどうでも良いのですが、水草らしい水草を久しぶりに見たような気がして、妙に気になりました。
というわけでくどいようですが、生態系やら多様性やらをコンセプトとして持つのであればこの川を何とかするのが先ではないかい?というのが率直な感想でした。持込禁止やら採集禁止は管理者の意思だし非常に良い事だと思いますがね。

ついでに余談ですが、リュウノヒゲモやホソバミズヒキモなど細葉系ヒルムシロは水槽はおろか屋外でもすぐロストする難しい水草です。日本人的内省型人間の私は「自分のスキルが・・」と思っていましたが、河川でたなびく姿を見ていると、流水と生育に因果関係があるのかも知れません。

◆カヤツリグサ科の楽園◆


小奇麗なビジターセンターの向こう側はいきなり傾斜のある盆地となっており、結構な量の水を溜められる構造となっていました。ぶらぶら見物していると非常に多くのカヤツリグサ科植物があることに気が付きました。
概ね手元に同定資料が無いと、ごく限られた種類以外は「お手上げ」状態のカヤツリグサ科ですが、ビジターハウスに予習資料(笑)として鉢植や標本、写真などがあり目出度くタタラカンガレイも見ることが出来ました。
こうした「予習資料」は私のような、時間が限られ細かい観察眼もない人間にとっては非常に有益で、先のタタラカンガレイも予備知識なしでは「へぇカンガレイだね」で終わっていたことでしょう。渡良瀬のように配布してくれる資料があれな尚良し、ですが入場無料の施設にそれを望むのは酷というもの。

タタラカンガレイ、かの多々良沼の名を冠しているため、多々良=タカノホシクサ=希少という連想で「超貴重品」という先入感がありますが意外に多くの地域に自生があるようです。

こちらは標本展示がなかったのですが、ウキヤガラにしては小さかったので珍しく念入りに調べてみたところ、コウキヤガラ(エゾウキヤガラ)でした。
水田で防除難雑草として嫌われることも多い植物ですが、湖沼性のカヤツリグサ科、しかも小型種として箱庭的ビオトープには最適の植物ですね。いかなるわけか県内では見ることが少ない草なので「邂逅」気分を味わうことが出来ました。
他にもヌマガヤツリやイガカヤツリ、テンツキなど多くのカヤツリグサがありましたが、池は多数あれどビジターセンターに誇らしげに写真があったデンジソウやイトモなどが一向に見えません。空振りは慣れていますが、この遊水地を象徴する植物なだけに見ておきたい気持ちも強くありました。
徐々に地形に慣れてくると、どういうルートを辿っても入り込めない一画(というよりも全遊水地の半分)があることに気が付きました。全体的に盆地構造になっている遊水地中でもさらに低い地形の一帯ですが、おそらく希少植物はそのエリアにあるのでしょう。

◆立入禁止区域◆


なぜ立入禁止なのか、その説明はビジターセンターで配布している簡単なパンフレットにも記載されていますが、植生保護が理由です。
広大な渡良瀬遊水地でも希少な植物群が存在しますが、立入が原因で絶えたという話は聞きません。立入可能区域でも細かく制限があるので特に保護したい場所をピンポイントで禁止すれば良いような気もします。私のように写真が撮れれば満足な人もいるわけですし。
もう一つ考えられる理由は採集ですが、蘭やカンアオイじゃあるまいしイトモやデンジソウを誰が採る?と思います。まっ、管理者側が入るな、ということなので無条件で従わざるを得ませんけどね。

かなり以前のWeb情報ではこの遊水地は全面的に立入禁止で、公園として利用できるように整備中との事でした。現在ここまで公開されているので、将来この区域も観察できるようになると良いですね。
珍しい植物、という点ではやや不満が残るのは否めませんが、都市整備の一環として作られた環境でこれだけの自然観察が出来る点は評価すべきですね。当日、日曜日ということもあって今や各地でおなじみとなった「自然観察会」も開催されていました。
傍らを通った際に聞くともなしに聞こえてきたのが「〜が蔓延ると〜より始末が悪い」という帰化種の話でした。こうした現場に即した帰化植物の話が出来るレベルのインタープリターもどんどん増えて来ていますね。

◆余談◆


こうして巧みに学校見学から湿地探査にシフトしましたが、もちろんちゃんと学校も見ていますよ(笑)。
昨年長女が受験した際には「史上最大の激戦」と言われましたが、今年の塾で配布する偏差値表ではこの学校もかなり上がっていました。少子化が進むなかで年々競争が激しくなるのは二極化して受験者数が増えたため、と言われています。なんだか可哀想な気もしますね。小学生の頃から勝ち組と負け組を分けてどうする?と思います。親にしてみれば塾で忙しい子供と遊べない上に少なからぬ費用負担も強いられます。世の風潮とは言えいい迷惑です。

帰りの武蔵野線では対面にわが子とさして年齢の変わらない鉄道マニアらしき少年2人がおりました。1人はEOS KX2に純正ズームレンズと三脚を付けて持っていましたが、この日の私の装備、KDNとタムロンの便利ズームより上等。「この糞ガキが」と思う一方、こうして好きな事をする休日も子供の権利だよなぁと思ったのでした。
基本的には「自分のことは自分で決めろ」ということで、その判断材料を与えることしかしませんが、そこは所詮小学生の子供。流れが出来れば疑問を持つことはなく、大筋では私立中高一貫、その先は必然的に大学受験に向うでしょう。考えないようで結局は無意識にレールを敷いてしまうのが「親」の常。なんだか悲しいですね。

先日長男の切り絵が市の審査を突破、県レベルで展示されました。実物を見た嫁さんの話では「グラデーションが見事なハッとさせられる作品」との事でした。私の父、彼にとって祖父はアマチュア画家としてちょっと知られた存在でしたし、意外な才能が隔世で覚醒しているのかも。その道を伸ばさず最大公約数的な安全策が内定取り消しやフリーターの道に直結する時代。これでいいのか?と真剣に悩んでしまう今日この頃であります。


Vol.65 千葉県市川市 2008.9.28(Sun)
photo Canon EOS KissDigital N/Tamron A061


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