湿 地 の 基 礎 知 識


Wetland Profile】vol.7 Case Study 手賀沼と北千葉導水路


〜導水は対処療法に過ぎないのか〜

◇日本一の汚染◇

千葉県我孫子市と柏市(旧沼南町地区)にまたがる面積6.5km2の小さな沼、手賀沼はある意味最も有名な沼です。1974年〜2001年の間、27年間連続でCOD年平均値が日本全国の湖沼でワースト1という記録を持っているためです。
現在ではかなり改善されワースト5にも入っていませんが、周辺の下水道整備や植生による浄化などの努力が実を結んだと言うよりも北千葉導水路の完成が大きな効果があったものと考えています。今回は北千葉導水路のアウトラインと湖沼の浄化の道筋について考えてみたいと思います。

かなり改善されたとは言え、手賀沼のCOD値は依然として環境省の定める環境基準から見て高水準にあり、特徴ある植生、特に沈水植物のガシャモクやテガヌマフラスコモはもちろん、かなり汚染された水域でも見ることが出来るエビモやササバモの姿も見ることが出来ません。

手賀沼のCOD値はこれだけ悪名が高くなってしまった事で行政の大きな関心事にもなっています。我孫子市がWeb公開している手賀沼の月平均COD値のほか、手賀沼沿岸にもCOD値の表示があり市民の喚起を促しています。

手賀沼の汚染原因ははっきりしており、流入河川である大堀川、大津川への生活排水や産業排水の流入です。これは日本全国で見られる構図ですが、人口増とインフラ整備のバランスが崩れたことによるものと考えられます。責任をインフラ整備の義務を持つ行政に負わせる事は簡単ですが、人口推移を「予測」しつつインフラ整備の予算を組むことは困難な事情もあります。端的に言えば「読み」で、現時点で荒野である場所に下水道や処理施設を完備することは難しいことでしょう。後手と言えばそれまでですが・・

例証として大堀川流域、柏市の人口推移データを見てみましょう。柏市の統計を見ると、手賀沼の汚染がピークとなっていた27年間の間に急激な人口増が見られます。この時期は日本の高度経済成長の時期と重なりますが、この時期のひとつの側面として、首都圏外縁のベットタウン化があります。しかし何倍にも膨らむ人口に対応したインフラを正確な予測計画の下に整備することが困難であったことはこのデータを見ても理解できます。

◇浄化への取組み◇

非常に個人的な話ですが、1993年当時都内の賃貸マンションに住んでいた私は家を購入すべく様々な場所を見て歩きました。都心に集まる路線では沿線の住宅価格が安い常磐線沿線ということで落ち着きましたが、それでも松戸、柏と都市化が進んだ土地は価格が高く、我孫子まで来ました。(結果的に利根川も越えてしまいましたが)
我孫子の不動産屋で物件を案内して貰いながら聞いた話ですが、我孫子市南部、つまり手賀沼に近づくにつれ物件が少なくなるのだそうです。それは風向きによって手賀沼が非常に臭い、売れないからだそうなのです。(現在の住民の方々の名誉のために言っておきますが、現在はそんなことはありません)臭うほど汚れてしまった手賀沼を放置できない、ということで行政やNPOも浄化のための様々な取組みを行って来ました。
第一に植生を使った浄化で至極オーソドックスなものです。私が見たのは手賀沼本湖にホテイアオイを浮かべるものと、北岸に建設した植生帯、手賀沼ビオトープに導水して水を戻すというものです。
ここで非常に気になっているのは、ホテイアオイ自体様々な危険性は指摘されつつも特定外来生物には未指定ですが、回収のタイミングを誤ると逆効果になってしまう点、これはビオトープや本湖に於けるハスも同じです。杞憂であれば良いのですが。
もう一つ気になっているのは手賀沼ビオトープに於ける帰化種の存在で、植生の相当な割合でマルバハッカ、オランダガラシ、オオフサモが見られます。オオフサモは特定外来生物ですので論外としても、植生による水質浄化とシードバンクを使う自然再生の間に大きな思想的懸隔を感じます。
第二に溶存酸素を増加させる方法で、景観という効果も狙ったのか、噴水として北岸近くに設置されています。溶存酸素を増加させる方法は効果が立証されており、霞ヶ浦に於けるマイクロバブル発生装置による実験でも大きな効果を得ることが出来ました。水槽と同じく好気性のバクテリアは窒素の分解に大きな役割を担っているようです。
第三に手賀沼を通過する水のスピードを速めるというもので、県道船橋取手線の架橋工事では手賀沼の流れを阻害しない橋脚の設計が成されたそうで、こんなところまで配慮しているのかと感じたものでした。
あれやこれやの浄化の試みのなかで実はこの第三の方法の延長線上にあるのが本題の北千葉導水路なのです。

◇北千葉導水路◇

北千葉導水路とは何か、管理者側の説明を引用するのが一番分かりやすいでしょう。(下線部国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所北千葉導水路事業の概要より引用)

北千葉導水路事業は、坂川、手賀沼流域の洪水の軽減の他、水質浄化、都市用水の導水を目的とする多目的事業である。計画の施設は、平常時は第2機場の運転により水質浄化、都市用水の導水を行い、洪水時は、松戸排水機場等により洪水被害を軽減します。

「分かりやすい」と言いましたが、正直分かりにくいですよね。前項「霞ヶ浦水系」でも感じたことですが、「多目的」という言葉は後付の理屈の香りがしてなりません。坂川、手賀沼流域の洪水の軽減、言葉を見ればなるほどと思いますが、この流域は軽減しなければならない程洪水の被害があるのでしょうか?調べた限りではそうは思えません。
また都市用水と玉虫色の言葉がありますが、上水利用なのか工業用なのか、そしてそれらは北千葉導水路が無いとどの程度不足するのか全く書かれていません。
あくまで個人的感想ですが、北千葉導水路は手賀沼の浄化が主目的であるような印象を受けます。北千葉楊排水機場(利根川)から取水、暗渠を通して松戸(江戸川)に排水する、壮大な事業です。費用も壮大で約4000億円の税金が投入されています。費用対効果の評価に於いて治水云々が語られていますが、目に見える本質は手賀沼のCODが北千葉導水路通水時点(平成12年)に16.0だったものが8〜9(平成16年)に下がったというものです。
CODを8下げるために4000億、問題はなぜCODが上がったのかということで、適切な時期に適切な予算を使わなければ後になって凄まじい費用の投入が必要になるという好例だと思います。

そして茨城県では比較的水質の良い県央の那珂川の水を霞ヶ浦に導水し利根川に排水する「霞ヶ浦導水事業」を推進しています。ここでも様々な理由付けが成されていますが、その一つに「利根川の渇水に対応する」というものがあります。渇水してしまうのであれば利根運河や北千葉導水路で取水しなければ良いと思うのは考えすぎでしょうか?
問題の先送りという言葉がありますが、このケースではドミノのように問題を北へ送っているような気がします。那珂川は1998年にも氾濫し、洪水を引き起こしていますので「洪水の軽減」などが理由に上げられるでしょう。しかし治水は別な議論であって、暗渠の導水路を作る膨大な予算があれば那珂川の堤防を見直した方が良いのではないか、という論点に収束します。それとも久慈川、阿武隈川、北へどんどん綺麗な水を求めて巨費が投じられるのでしょうか。
北千葉導水路は手賀沼の汚染に関して何ら有効な手を打てなかった環境行政が禁断の手を打ち、その後起きる不都合をまたも禁断の手でリカバリーしようとしているように感じられます。霞ヶ浦に於ける議論、常陸川水門を開けて汚染された水を太平洋に流せ、に通じる胡散臭さを感じます。通水するために使う税金は反対です。恋瀬川、山王川、桜川、小野川を浄化するための税金に賛成票を投じます。



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