Field note of personal impression of wetland plant


【第十三話】田字草異聞

公開 2006.9.23
追記 2007.2.4
追記 2007.9.15

◇逸出か◇

絶滅危惧種かつ逸出、そんなに無いケースだと思いますが、近所の湿地でデンジソウを発見しました。ワタクシかなりぼんやりしておりますが、四葉のクローバーがたくさん湿地にあるなぁ、と長年見ているほどアホではないので最近の出来事なのでしょう。
証拠も無しに特定の個人や団体を疑うわけには行きませんが、ホームセンターでも最近「水辺の植物」としてデンジソウを販売していますので出所はそのあたりかも知れません。
販売しているのは「ナンゴクデンジソウ」という名称で、もしこれが本当であれば、環境省RDB絶滅危惧IA類(CR)に分類されるMarsilea crenata C.Preslであり、我が国では九州南部及び南西諸島に分布する希少種です。
ただ、名前はともかく熱帯アジアにも広く自生する植物なので正体は輸入品なのでしょうけどね。もしそうであれば今度は「帰化」となり由々しき事態となります。固有種のデンジソウ(Marsilea quadrifolia L.)との交雑による遺伝子の撹乱、なんてことが脳裏に浮かびますが、その心配をするには本家デンジソウが無くなり過ぎており、私が知っている自生地は40km北の湿地1箇所のみなのでさほど心配は無いでしょう。
しかし、国内の環境に容易に馴染む水辺植物の安易な販売は止めて欲しいものです。温帯睡蓮、アメリカハンゲショウ、ナンゴクデンジソウ、ウォーターバコパなど販売、育種は全面禁止にしても良いと思います。現在のところ法的な枠組みは外来生物法しかありませんが、指定されるのはかなり後になりそうです。指定を待てるほど水辺の状態は余裕が無いと思うのですが・・・。

今回の四方山話はそのあたりを踏まえて、デンジソウとナンゴクデンジソウの「見分け方」を少し。
一般的に両者の区別は胞子嚢果の形成される位置による、とあります。デンジソウは葉柄の途中に形成されナンゴクデンジソウは基部に形成されることで同定できると言われています。ただこれでは胞子嚢果が形成される時期しか区別できません。かなり微妙かも知れませんが、私が採集した本家デンジソウ(これはそれこそ胞子嚢果の位置により同定済み)と今回見つけた謎ナンゴクデンジソウの「見た目の違い」による区別をお話したいと思います。

◇扇の開き方◇

上の画像はナンゴクデンジソウと思われる植物の葉状体です。四葉のクローバー状ですが四つの「葉」がやや離れています。つまり開きが大きいように見えます。下の画像は同定済みのデンジソウ(胞子嚢果に関する追記を参照)ですが、四つの葉はお互いに接近しており開きが小さく見えます。デンジソウの名のもとになった「田」の字にイメージが近いものとなっています。
両者とも睡蓮鉢で殖えておりますが、どの「葉」も傾向としては同じでした。加えて言えばデンジソウの方は「浮葉」となることも多いような気がします。これは長年育成している環境によるものかも知れませんので、ナンゴクの方も経過観察が必要だと思います。しかし自生地でも同じような形ですので私としてはほぼ確信しています。
四方山話なのでテーマについては話してみればこれだけです。滅多にない機会だと思いますが、湿地でデンジソウを見つけて胞子嚢果が無ければ簡易的にこのような同定法もあるのではないか、というお話でした。

しかし、このナンゴクデンジソウがどこから来たものか本当に気になります。とにかく殖えまくる植物であり、半端な育成環境であればすぐに持て余してしまうので、嫌な話ですが育成者による意図的な逸出の可能性が高いと思います。繁茂していた場所は現在のところ何の変哲も無い湿地で埋め立ての計画もあるようなので、ここ何年かコブナグサやイボクサと競合する程度の影響しかありませんが、「原則」を守らなければ他で影響が出たときにも対策のスキームが有効に働きません。対策以前に予防が必要なのは病気と同じではないかと思います。デンジソウに限らず最低限外国産の水草を屋外で開花させるような危険な行為は慎みたいものです。


【2007年2月某日追記】

冬を経過して、両種の決定的な違いを見つけました。デンジソウは地下茎を残して地上部が枯れますが、ナンゴクデンジソウは常緑・・・。
さすがに夏季のように繁茂はしませんが、霜の降りる厳寒のなか、何とか耐えているようです。考えて見れば亜熱帯で季節による世代交代の必要がない環境の植物なので常緑なのは当然かも知れません。驚いたのはその耐寒性。やはり・・暖冬なのか。地球温暖化と南方種の帰化の脅威を身近に感じますね。
結論ではなく推測の域を出ませんが、両者育成してみた感触から、性格的には次のように分かれるのではないか、と思います。
■デンジソウ : 夏緑性多年草
■ナンゴクデンジソウ : 常緑多年草


【2007年9月15日追記 胞子嚢果

デンジソウの胞子嚢果が撮影出来ましたので「胞子嚢果」による同定法を追記します。残念ながらナンゴクデンジソウの方は撮影時に形成されておらず、確認・撮影できましたら再度追記をさせていただきます。
左画像は全体図で、隠花植物の場合何と呼ぶのか正確に知りませんが、葉柄にあたる部分の下より中間地点に胞子嚢果が形成されています。ただしこれは決定的なものではなく往々にして位置は変わるようですので過信は禁物。このデンジソウは昔からの自生地で採集したものなので来歴も併せて判断しています。
ナンゴクデンジソウはこの胞子嚢果の形成される位置が「葉柄」の途中ではなく基部(「葉柄」が出ている主軸というかシュートのような部分との接点)で、とりあえずの判別にはなります。正確な同定を期すためには前述のように自生地情報を併せるか、株の複数の胞子嚢果を見てまぎれを排除する必要があります。

胞子という言葉から、またさくらんぼのような外見から受ける印象とは裏腹にこの胞子嚢果の部分はかなり硬質です。私が何回か見たものはこの画像の通り黒っぽい色ですが、日本水草図鑑に掲載されたものは色が薄く、成熟度によって色が変わる可能性も考えられます。画像はある時期の姿ということでご理解下さい。
胞子嚢果が硬いのは乾燥に対応するのが理由であるようです。一説には発生条件が整わない場合、20年以上生きるそうです。このことから次の事が言えるのではないでしょうか。

(1)胞子嚢果は被子植物の埋土種子的なリスクヘッジであることが考えられる
(2)水田や水位の増減がある環境に適応した形態(自生地の一時的な乾燥も想定)であると考えられる

数年間育成してみた感触では、発生は胞子嚢果由来の株は確認出来ず、土中に残った基部からのものだけであったので、この植物は栄養増殖を主な増殖の手段としているのではないか、ということです。
水田を含む水湿地の植物ではヒルムシロなども同様の傾向が見られるので、種子または胞子嚢果は絶滅リスクを回避する保険のようなものなのかも知れませんね。


Field note of personal impression of wetland plant
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送