Field note of personal impression of wetland plant


【第十五話】自力で土壌を作る草
◇ヒメタヌキモという草◇

タヌキモ類のうちやや珍しい種類に属するヒメタヌキモ(Utricularia multispinosa(Miki) Miki)という小型のタヌキモがあります。環境省RDBでも絶滅危惧II類(VU)に指定されており、どこにでもあると言うものではありません。
以前福島県の山奥のため池で採集したものが我が家におりますが、非常に変わった性質を持っています。タヌキモというと根が無く水面近くに浮いている印象がありますが、この種は草体の半分程度を土にもぐり込ませるのです。さらに、タヌキモ類の特徴である捕虫嚢を水中部分に付けず、土にもぐりこませた部分にのみ付けるのです。
つまり、水深のある環境に浮かせておいては本来の生長が出来ないということになります。以上の性質を調べ、それではと用意した浅水域にお迎えしたものはあっという間に絶えてしまい、余って通常の睡蓮鉢に放り込んでおいたものが爆発的に殖えてしまうという妙な現象が見られました。
考えてみれば「用意した浅水域」は所詮人工的に準備した環境であって、ヒメタヌキモが要求する栄養分=微生物が十分に繁殖していない環境でもあったわけです。形だけ作っても駄目、まさに仏作って魂入れずという状態でした。まぁ毎回のように反省し進歩が無いのですが、人間が見て綺麗な環境と植物にとって快適な環境は違うものなんですよね(汗)。
ヒメタヌキモが自生する環境はどちらかと言えば貧栄養の水質、さほど水中に捕食すべきプランクトンがおらず、土中に活を求めた結果故の性質なのでしょう。

ちなみに四方山話なので・・ヒメ**と名乗る水生植物は希少種と邪魔な種に偏ってますね(^^;
前者はヒメタヌキモもそうですが、ヒメハッカ、ヒメコウホネなど、後者はヒメミソハギ、ヒメガマ、ヒメクグなど。ヒメミソハギなどは本当に雑草ですし、雑草のくせに水中育成時の挙動はアマニア丸出しで困ったもんです(汗)。

◇土壌を生成する技◇

ではヒメタヌキモは水深のある環境でどうして生き延びたのか。画像をご覧いただければ分かりますが、自己の枯死草体を擬似的な土壌として生長していたのです!
カヅノゴケ(リシア)を無理やり水槽に沈めて育成すると下の方が枯れて突然バッコンと塊が浮上することがありますが、イメージとしてはそんな感じです。異なるのは水面近くでそれが起きていた、ということ。
この睡蓮鉢ではミジンコなどが豊富にわいており、ヒメタヌキモの枯死草体が格好の隠れ場所になっていたと思われます。自分で畑を作り栄養分を調達する、なんと素晴らしい戦略でしょうか!
余談ながら園芸用の水苔のうち、丹頂苔や兎苔はタヌキモ類由来なのだそうです。もともと水生植物の土壌としての特質を兼ね備えていたわけですね。殖えすぎたイヌタヌキモを除去し庭に積み上げておくとダンゴムシなどが真っ先に食っているようなので栄養分も豊富なのでしょう。
この擬似的土壌の恩恵は他種にも及び、ヤノネグサやミズユキノシタがここに根を張って繁茂していました。また小さな水棲昆虫の姿も見られ、理想的な生態系を形成していました。この睡蓮鉢は撤収予定だったのですが、これを見てあきらめました。生態系が成立しているものは例え自分の睡蓮鉢であっても手を入れてしまうのが不遜なような気がしましたので。

それはともかく・・・こういう姿を見ていると新宿地下道あたりで長年お風呂に入らない方の髪の毛を思い出して少し引きました(爆)。

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