Field note of personal impression of wetland plant


【第十七話】メンソールのかほり
◇野生種◇

実はワタクシ野草や雑草(水草、湿地植物含む)が好きな割りには「ハッカ」が植物名称で、しかも身近に自生することを知ったのは近年のことです。よく見られるのはその名もまさにハッカMentha arvensis var.piperascens)で、水田の畦や用水路の底などに群生しております。
言われなければ単なる「雑草」で、イボクサやサクラタデなど湿地性の植物達と折り重なるように生えていますので、意識が行ってないと発見できません(汗)。迂闊にもかく言う私もホシクサやキカシグサなど背丈の低い植物の写真を撮っている際に「なにかメンソール系の香りがするな?」ということで、鼻で発見した植物です。
属名からして「メンソール」系なので当然ですが、葉を噛むと非常に清涼感のある、やや青臭い野趣のあるメンソールが楽しめます。(田んぼ際のものは農薬がかかっていたりする場合もありますので注意が必要です)

「香り」以外の同定法はシソ科の特徴である四角柱の茎です。地元の水田地帯には同科で同じような茎の形状を持つコシロネやヒメジソもありますが、草体の頑丈さはハッカが一番です。ごつい印象があります。多年草なので一度発見しておけば翌年同じ場所から生えてきます。採らなくても前年と同じ場所に生えていると嬉しくなりますね。
菓子や清涼剤、メンソール煙草の原料は栽培種らしいのですが、原種というか自生種のハッカでも十分楽しめます。熱い日本茶に刻んだハッカの葉を少し入れるとアールグレイ真っ青の極上のTeaになります。

こんなラブリーな草ですが、残念ながらハッカ属全般は水中育成は非常に困難なようです。余談ですが同じような場所にあるシロバナサクラタデがすぐ水中に馴染むのと見比べて「陸上から水中へ方向性を持って浅いシソ科」「ひょっとして水から上がる途中のタデ科」という方向性の発想を持ったわけです。

◇絶滅寸前種◇

比較的どこにでもあるハッカと異なり、植物図鑑を作る際の写真撮影にも事欠く程自生地が少ないのがヒメハッカMentha japonica (Miq.) Makino)です。
現行のメジャーな植物図鑑では唯一写真が掲載されている山と渓谷社「野に咲く花」では私の地元が撮影地とされていますが、市内でありそうな場所は概ね当りが付きますので何箇所か周ってみた限りではすでにありませんでした。
第一候補であった、ほぼ手付かずの山奥の池の周囲にはクサレダマとミズトラノオが細々と残っており、この辺にあったのかな?と思いましたが開発が急で現在は両種も見ることができません。
発見はまったくの偶然で、隣町にヌマトラノオを観察に行った際に混生していました。ここ以外に数多の湿地を歩いても目撃できず、本当に希少で絶滅寸前種なのだと思います。
理由はまさに「自生地の喪失」かと思われます。湖岸湿地の地形になっている場所で、かつやや乾燥している地形に自生していますが、湖沼と見れば護岸してしまい不要のため池は埋め立ててしまう時代が続いたせいでしょう。

希少さとは裏腹に草体は非常に地味で、s.a.m.兄には単なる雑草にしか見えない、と言われてしまいました(汗)。実は私も単なる雑草にしか見えませんでしたが、ヌマトラノオの花を撮影しようと屈んだ際に「香り」で発見できたのでした(またかい)。花もちょこちょこっと纏まって咲くので観賞価値があるとは言えません。ただ、自生環境が限られ滅びかかっている草なので自生地はもちろん、自分で育成している株も大事にしたいと考えています。

◇園芸ルート◇

ハーブは園芸ジャンルでもブームが継続しており、自然環境にも多くの逸出があります。シソ科は特に他種との交雑の危険性が高いので注意したいところです。
よく見るのはこのマルバハッカMentha rotundifolia Huds.)で、冬季のヒメオドリコソウのような皺の多い葉を持つハーブです。近所の手賀沼ビオトープでは一角にわんさか育っていますし、仲間と見学に行った都内の「ビオトープ」にも植栽されていました。この草の正体は帰化種のアップルミントです。
そんなことを言っていたら園芸ジャンルの草花は何も育成できない、と言われそうですが、水辺は特に遷移環境が激しく帰化植物は特にそのような遷移環境を好む、というcarex校長の見識もあります。下手すればハーブ類丸ごと「特定外来生物」に指定、なんてことにもなりかねません。趣味にも自重が必要なのです。
一応お約束で我が国に自生すると言われているハッカ属の植物をまとめてみました。

【我が国に自生するハッカ属植物(標準和名五十音順)】*帰化種含む
標準和名 学名 備考
オランダハッカ Mentha spicata var. crispa Benth. スペアミントと呼ばれる植物はこちらの場合が多い
クロハッカ Mentha x piperita L. f. piperta  
コショウハッカ Mentha x piperita L.  
シロハッカ Mentha x piperita L. f. pippallescens Camus  
スペアミント Mentha spicata L. スペアミントその2
チリメンハッカ Mentha viridis L. var. crispa Benth.  
ナガバハッカ Mentha longifolia (L.) Huds.  
ヌマハッカ Mentha aquatica L. ウォーターミントがその正体??
ハッカ Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv. 本文記事参照
ヒメハッカ Mentha japonica (Miq.) Makino 本文記事参照
マルバハッカ Mentha rotundifolia Huds. 本文記事参照
メグサハッカ Mentha pulegium L.  
メンサ・アルベンシス・ヤバニカ Mentha arvensis L. var. javanica (Bl.) Hook. fil.  
ヨウシュハッカ Mentha arvensis L. var. arvensis  

ハッカだけをコレクションしてみたい気もしますが、何やら由来定かならぬ和名の嵐。学名では×(交雑)、var.(変種)のオンパレード。逃げ出せばシソ科の弱点「容易に交雑」がそこかしこで起こりそうなので止めておきます。ハーブのブームも環境に意外に深いダメージを与えていそうですね。

四方山話の締めに「ハッカ」の語源ですが、あまりすっきりとはしていないようです。漢字では「薄荷」ですが、草の量はかさばるが加工物であるハッカ油は元の草の量の数%となるため「荷が薄くて済む」ところから来た、という説が見える程度。
ハッカ属Menthaの方は、地獄の神ハーデス氏が美少女Menthaを愛してしまい、ハーデス氏の妻君ペルセフォネ女史が嫉妬によりMenthaを草に変えてしまったというメタモルフォーゼ系ギリシャ神話に由来するようです。古今東西、男が浮気すると女房の怒りは浮気相手に向けられる、という図式ですね。いゃ、ナニ、経験はございませんが(汗)。

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