Field note of personal impression of wetland plant


【第二十話】冬を越える草達
◇冬越しの形〜ヒシモドキ、冬の機雷◇

人間現金なもので草が枯れメダカが物陰に隠れる冬場は睡蓮鉢を見ても面白みが無く、完全放置が数ヶ月続きます。ただそんな状況でも植物はもちろん生きており、翌春の発芽を待っています。ご存知の通り冬越しには様々な形があって、100%種子で越冬する一年草、根茎を中心にした多年草、ちょっと変わった形態である殖芽ってのもあります。「ちょっと変わった」と言うのは殖芽で越冬する植物の多くは種子も形成しているはずなのに経験上実生が稀だからです。
タデ科の一年草、アオヒメタデ(渡良瀬遊水地、古河市産)やヤノネグサなどは種子を意識したこともありませんが、しっかり結実してそのあたりに落ちているようで(笑)、春には睡蓮鉢外の地面からも多くの発芽が見られます。当然のことながら野生では完全放置で水位も安定しないような場所に自生していますので驚くべきことでもありません。

今回は冬を越える水生植物のうち、冬越しの形が非常に面白い種類をいくつかご紹介いたします。


まずは「ミズカマキリの化石」または「アメンボの呪い」かと思ったヒシモドキ(Trapella sinensis Oliver)の種子です。というよりも種子が中に入っているようなので正確には果実、ですね。この果実を特徴付けているのは4本の角で、本家ヒシ程の剛性はなく、しなやかな弾力性があります。元々水流が強いような場所には自生しないはずですが、湖底の障害物などにひっかかって固着するためのものかも知れませんね。
本種はゴマ科(今のところ)の一年草ですが、ゴマ科の植物で水生なのはヒシモドキのみです。というか帰化植物を除けばゴマ科を構成するのはゴマとヒシモドキの2種、しかもゴマ属とヒシモドキ属に泣き別れですのでそれぞれ1属1種の小所帯。ヒシモドキにはぜひゴマ科に踏みとどまって欲しいものです。

環境省RDBでは絶滅危惧IA類(CR) ごく近い将来に絶滅する危険性が極めて高い種、とされていますが繁殖力は非常に旺盛で冬にはこの「機雷」が非常に多く見られます。発芽率も見たところ高いようで、こんな繁殖力を誇る水草がなぜ?という水生植物独特の絶滅危惧ですが、これは我が家の睡蓮鉢程度の環境でさえも無くなってしまう「水辺環境の喪失」が主因と思われます。我が家では日当たりか肥料不足故か開放花を見たことがありませんが、水面下で多くの閉鎖花を付けているようです。


余談ながら「〜モドキ」は往々にして本家〜(ほにゃらら)よりも蔓延るものですが、本家ヒシは呆れる程の爆発力を持っています。
水面に浮かぶ菱型というイメージがありましたが、この小さな池では株が密集しお互いの葉の上に乗りあって水面から盛り上がっていました。この状態では他の水生植物はもちろん入って行けず、マツモ一本見当たりませんでした。まさに「極相」ですね。
生物多様性の観点から見れば外来帰化種以上の侵略性を持っており、里山環境、特にため池の自然を守るためには適度な「間引き」が必要になります。これは「手付かずの自然」とか「自然に何も足し引きしない」という神の手に委ねる自然維持の問題点ですね。もともと里山環境は人間の手による二次的自然
なのでこうした管理は当然の必要です。耕作放棄水田もまったく管理しなければ急速に遷移が進み比較的短時間で陸地化します。これは是非問題ではなく、ラムサール条約前文が謳う「人工的なものかどうかを問わず」捉える「自然」に対する姿勢です。簡単に言えば管理しなければ維持できない自然が増えている、ということです。

その本家ヒシの方の果実は硬い棘を持ち、踏み抜けば大ケガをします。しょせんヒシの繁茂する池には踏み込んでもろくな植物がありませんし危険ですので止めた方が良いですね。

◇ミズトラノ「尾」◇

これはミズトラノオ(Eusteralis yatabeana (Makino) Murata)の変わり果てた姿ですが何と呼ぶべきか。苗条(シュート)がそのまま残って越冬するような感じで、見たところミズトラノオの越冬手段の主なものになっているようです。
この太い針金程のブツは多数水中に出来ますが、春になると根が出て葉が伸びてきます。役割を考えると殖芽の一種なのかも知れません。本来は多年草で根が残り、そこから発芽するのが越冬の「正しい姿」かも知れませんが越冬と増殖を兼ねている挙動に字を当てればまさに殖芽。はじめて見た際には同じ鉢にあるササバモの何かかと思いました。

この「殖芽」も経験上発芽率は100%で普通の環境であれば爆発的に増殖します。これまた環境省RDBで絶滅危惧II類(VU)絶滅の危険が増大している種、となっていますが、種の持つ繁殖力や環境適応力の問題ではなく存続基盤そのものの問題でしょう。現にこの株の出身地である市内の湿地は何時の間にやらゴミ捨て場と化し、すでに見ることが出来ません。
花期以外はいわゆる「雑草」然とした姿なのでこの草が湿地にあっても保全や保護という対象にはなりにくいのでしょう。ヒメハッカも同様の運命ですね。サギソウでも一緒に自生していれば別なのでしょうが。

加温環境の水草水槽でも用いられる草ですが、貧栄養の底床では上手く育成することが出来ません。特にマグネシウムの根からの要求量が多いように感じます。礫性、肥料なしではマグネシウム欠乏症の症状が必ず出ていました。余談ですがソイルで育つ水草も本質はイオン交換で底土に集められたマグネシウムにあるのではないでしょうか。条件を外れたところで弱る症状を見ていると、水質が弱酸性で二酸化炭素が、ってのは薄っぺらい論拠に思えて仕方ありません。
アクアリウムでは藻類の増殖を避ける為に貧栄養を推奨する傾向がありますが自生を見ればとんでもない誤解であることに気が付くと思います。日本では自然下で見たこともないカラフルな熱帯植物をマニュアルに従って育成するという「アクアリウム」がいつのまにかゲーム感覚になり、本来水草は植物なのだという事が忘れ去られているのかも知れませんね。

◇タコノアシより蛸の足的◇

タコノアシという湿地植物がありますが、蛸の足という形状ではこちらの方がイメージに近いでしょう。と言うよりもタコそのものか。ガガブタ(Nymphoides indica (Linn.) O. Kuntze)の殖芽です。秋から浮葉の下に形成し、浮葉が枯れても緑色のまま沈水し春に発芽します。
この植物も環境省RDBでは絶滅危惧II類(VU)絶滅の危険が増大している種、となっていますが、不思議なことに汚染が進んだ霞ヶ浦近辺でもやや普通に見ることが出来ます。この株は桜川村(現稲敷市)の船着場にニゴイの死体やゴミと一緒に浮いていたものを拾ってきた株の末裔です。周辺の水路やため池などで浮葉を見かけることもあります。当地にはアサザやトチカガミも残存しますが、アサザはまったく葉の印象が異なりますしトチカガミは根が着床していませんので判別は容易です。フィールドで見かける可能性のある近似種としてはヒメシロアサザという種がありますが、北関東一円では僅かな自生となっているようで私も見たことがありません。
バナナプラント(ハナガガブタ)も帰化している、と言われていますが、近場のフィールドでは確認できていません。「ハナ」と冠するわりには本家ガガブタの方が花は綺麗です。贔屓目もありますが・・。
ところで水草本にはバナナプラントは必ず殖芽の写真が載せてありますが、あれは永続するものなの?残念ながら育成経験が無いので分かりませんが、殖芽の形が売りの水草って疑問ですよね。生長してしまえば無くなるはずなので。そうなって「特徴が無くなった」と捨ててしまってはますますアクアリウムへの逆風が強くなりますな。

ガガブタは我が家では開花が難しい植物の代表で、拾って来て4〜5年で2輪しか見ていません(汗)。これはおそらく日照不足によるもので、2007年にやや日当たりの良い場所に移設したところ開花が見られました。花のイメージが似たようなミツガシワも同じ傾向ですね。それでも世代交代していますのでたいしたものです。

ということでまだまだ冬越しがユニークな形状の植物が多々ありますが、例によって継続更新対象記事として今回はこのあたりで。

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