Field note of personal impression of wetland plant


【第二十一話】花色と種の関係
◇花色による「種」の違い◇

前々から気になっていた植物ですが、ムラサキサギゴケとサギゴケ、花色以外に差異が認められないこの二つの植物をどう考えれば良いのでしょうか。現在それぞれに付与されている学名を見てみると、二名法では「同種」となります。(下線部)

・ムラサキサギゴケ Mazus miquelii Makino
・サギゴケ Mazus miquelii Makino f. albiflorus (Makino) Makino

二名法は言うまでも無く属名+種小名ですが、この部分が「種」を特定するための最小ユニットであり、元々リンネが提唱、現在まで受け継がれているもので、さらに国際植物命名規約(動物も)での「属以下の名を重複使用しない」「1つの種に対し有効な学名は1つだけ」という規約を考慮すれば種以下の「品種」とされた経緯にも納得できるものがあります。
しかし、見かけや挙動が同じ、花色のみ異なる「同種」である、という立場には少なからず疑問もあります。その最大のものは同種であれば生殖もするはずということで、その場合の花色の表現が見られない、ということです。これは数年間複数株を互い違いに植栽して実験した(実験と云うには拙いものですが)経験にもよります。明らかに実生した株も確認しましたが、中間的な形質を持つものは見当たりませんでした。

元々ムラサキサギゴケの花色は変異が多く、これがトキワハゼとの誤認の原因にもなっているようで、画像上のような「紫」と固定されているものでもありません。
色がより薄いもの、ほとんど白色に近い薄紫まで様々なバリエーションを見ています。これらが「ムラサキサギゴケ」で、白色に見えるものだけが「サギゴケ」としてf.、forma(品種)と区別されているのはなぜ?ということなのです。

花色の違いと遺伝的形質に付いては誰でも義務教育課程でメンデルの法則を学んでいるはずです。XX、YYというあれです。遺伝子(花色を決定しているのは遺伝子です)の組み合わせで様々な花色が出て然るべき、しかも元々二名法上は同種なのでより生殖しやすいものであるにも関わらず、ということなのです。
不完全優性の場合であれば紫、白の中間的な花色が出るはずですがこれも見られず(見られたとしてもムラサキサギゴケの持つアバウトな花色が推論の障害となりますが)何とも釈然としない結果となっています。

この点に付いて何らかの結論を出すつもりが無く、それも困難であろうことは本稿を「四方山話」に置いていることでご理解頂けると思いますが、次項以降の例が「別種」とされている根拠の些細な違いで成立しているのに対し、種小名以下の「品種」でしか区別されていない点がどうしても釈然としない、ということだけは書いておきます。

◇サクラタデと「シロバナ」サクラタデ◇

湿地植物で似たような例としてサクラタデ(Persicaria conspicua (Nakai) Nakaiex Ohki)とシロバナサクラタデ(Persicaria japonica (Meisn.) H. Gross)の例を考えることで少しだけ接近してみたいと思います。
この2つのタデは、日常的に湿地植物の自生を見ている私にも開花しないと違いが分かりません。正確に言えば非常に「些細な」相違もありますが、これらは以下の通り、条件に左右されるもので容易に反論を許すレベルのものでしょう。

・花色が白(シロバナサクラタデ)、ピンク(サクラタデ)*以下順序は(内)と同様
・花の大きさが中、大
・半乾地にも進出する、湿地性が強い
・水中の異形葉が大型、小型

最後の相違は「何でも水槽に沈める」アクアリストならでは(笑)の発見ですが、要するに「生態的な」相違はこの程度のごく些細な相違なのです。これとて両種を水草として注意深く観察して分かったことであり、現にシロバナサクラタデをサクラタデの白花品種とする立場もあります。公式には認められていないようですが・・
ちなみに水中育成の際の「異形葉」は定義定かならぬ「水中葉」への反語です。両種とも水中の異形葉がクチクラを残していることが認められるためです。

これらの些細な相違が「種」として非常に重要である、という考え方には異論がありません。また種間交雑が起きにくい(知りうる限り両種の交雑は未確認)ということも遺伝的に懸隔している何よりの証明でしょう。幾多の湿地で混生が見られる両種ですから。
ただそうなると、conspicuaとjaponicaと個別の「名札」を持つに至った根拠がmiqueliiと一まとめにされるサギゴケには無いのでしょうか?少なくても花色に関しては「交雑」が起きにくい種であるような気もしますが・・
要するに上記したような「些細な相違」がサギゴケとムサラキサギゴケには見られない、ということなのでしょう。もちろん私にも見出すことは出来ませんでした。自生環境はもちろん同じ、そして水中では生長することがありませんので比較も出来ません。

相互の遺伝子によって影響を受けない(と思われる)花色、これは「些細な相違」以上の相違だと思われますが、現状では二名法上の同種、formaが花色を規定しているのがサギゴケ、花色も含めた相違によって別種となっているのがサクラタデ、ということなのです。くどいようですがこの件で何らかの結論を出すことは困難ですのであくまで「四方山話」です。

◇園芸の「乗り」◇

花色の違い、これは園芸品種に於いては時に大幅な価格差を生む重大な問題です。特に春を彩るパンジーは年々多彩な色や模様の花を持つ品種が作出され、まさに百花繚乱、原種のスミレの面影も感じないものが多々あります。原種が何者か、はともかくここまで多様な分化が進んだ植物ですが、学名はViola X wittrockianaと一本化されるのが普通です。要するに「交雑していますよ」ということです。
もう一つ、花色によって「価格」が変動する植物のオランダカイウに付いて。画像のものはサトイモ科オランダカイウ属のZantedeschia aethiopicaです。これは園芸ではよく「原種」とされるものですが、何の原種にもなっていない湿地性のエチオピカ種です。(南アフリカ原産ですが、各地水辺に帰化)色とりどりの「園芸品種」は畑地性種のレーマニー(rehmannii)やエリオッティアナ(elliottiana)から改良されたものが一般的です。でも園芸では一緒に「カラー」と呼びます。カラーはヒメカイウ属(calla)であってまったく別属なのですが、アクアリウムの「アマニア」や「ナヤス」で見られる図式がここにも見られますね(汗)。ただし、園芸サイトでも学名の二名法表記はZantedeschia rehmanniiでありZantedeschia elliottianaと正しく表記されます。

何を言わんとしているのか、というと原種の影も見られないほど改良?の進んだ植物であっても呼称はともかく学名表記、つまりその植物が何者かという点に付いて正しく把握されている、ということなのです。この辺が学名Yellow ammaniaなんてのを書いて恥とも思わないアクアの世界と異なるってことなのです。
広義のアクアリウムである水辺園芸の場合、それなりのリソースを当たってもここに書ける以上の情報が無く、非常に寒い状況なのです。一部で流通が始まっているサギゴケも下手すればムラサキサギゴケ(白花)なんて紹介もされかねません。サクラタデ(白花)も存在するようですが、サクラタデの些細な特徴を持ったサクラタデ(白花)なのか、シロバナサクラタデなのか分からない、なんてことも。

ここ数年のビオトープブームによってネット通販で水辺植物を販売するサイトが増えました。育成方法から正しい分類に至るまで正確に告知しているサイトもある反面、学名を正確に記した植物とスイレンの品種名を同列に扱うようなサイトもあり玉石混交です。そんな状況でサギゴケ(白花)と書かれたポットを目撃し、ふと「どこまで分かっているんだろう」と思い、本稿を書いてみました。

*画像はすべて水辺の植物図鑑からリンクしています。撮り直そうかと思いましたが利便性に負けました。(怠け者、ってことですね^▽^;)

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