Field note of personal impression of wetland plant


【第二十二話】葉の浮く話
◇水面のフタ◇

浮葉を出す水生植物には実に多くの種類があり、分類上も非常に多様な科属にまたがっています。浮葉を形成する理由は簡単で、太陽光を直接受けられる=光合成に有利であるからです。そしてヒルムシロやヒシなどを除き、多くの種類が似たような「スイレン型」の浮葉になっているのも興味深い点です。
こうした、系統も進化も別々の植物であるはずなのに、同様の生態的地位に付いた際に同じような形状に進化することを収斂進化(しゅうれんしんか)と呼びます。その環境で生き抜くために有利な形にそれぞれが進化し、到達点が同じような形になる、というものです。もちろん国内の種だけではなく外国産の水生植物にも同じ到達点に至った植物は多々あります。

霞ヶ浦にはアサザ、トチカガミ、ガガブタなどがありますが、遠目には区別が付きません。ミツガシワ科、トチカガミ科という異なった分類体系(分類に妥当性があるかどうかはこの際忘れて)にありながら到達点は似たような草姿だった、ということです。
しかし同じ科にありながらヒルムシロ科に於いては浮葉を中心にしたヒルムシロやオヒルムシロの仲間以外に「浮葉も出す」ササバモやホソバミズヒキモ、沈水葉だけのエビモやリュウノヒゲモもありますので、生態的地位、特に主として生育する環境にも進化の要因が求められるかも知れません。くどいようですがこの状態を個人的に「進化の方向性」と呼んでいます。
この状態(ヒルムシロ科の多様な進化)は収斂(convergence)の対語、発散(divergence)とも言うべき進化ですが、専門的に何と呼ぶのか分かりません。ぱっと見はヤナギモとヒルムシロが同じ科属の植物とは思えませんし、少なくても「形態的種の概念」からは外れていますが、そのうちAPG3、4と被子植物の遺伝的特徴の解明が進む上で再分類されるのかも知れませんね。(以上余談)

今回はこの「水面に蓋」する連中がどう進化してきたかは別として、花が咲いている時期以外の「見分け方」を四方山話としてメモしておきます。

◇霞ヶ浦の三兄弟◇

まずは霞ヶ浦でも見られ、比較的残存があると思われる3種です。

アサザ
ミツガシワ科アサザ属
ガガブタ
ミツガシワ科アサザ属
トチカガミ
トチカガミ科トチカガミ属
浮葉の縁に細かなウェーブが入る。顕著な葉脈は見られない。葉裏が紫がかる 縁にウェーブなし。成長した葉は独特の葉脈が目立つ。アサザよりやや細長い 形は丸く独特の葉脈がある。葉裏中央に浮き袋を持つ。切れ目が重なる。抽水葉も出す

もちろんガガブタは「和製バナナプラント」なので根元を確認すればすぐ分かりますし、トチカガミは浮遊植物で根が着床していませんのでこれもすぐに分かります。そして葉の特徴が視認出来る距離であればこちらの判別法の方が早く確実だと思います(爆)。さらに!葉の特徴が視認できない距離であればどっちみち確認出来ません。花が咲けば黄色(アサザ)か白(ガガブタ、トチカガミ)という区別が付く程度。あまり現実的な情報ではないですね(汗)。
霞ヶ浦周辺ではハナガガブタ(バナナプラント)は見たことがありませんが、アマゾントチカガミ(アマゾンフロックビット)をよく見かけます。全体的にトチカガミよりも小ぶりですが、生長の度合いによっては同じような印象となりますので注意が必要です。

画像を良く見て頂くと、葉に入る「切れ込み」に三者三様の特徴があります。一度三角形に切れ込んでさらに細く切れ込む「シャープペンシル型」のアサザ、三角形にざっくり切れ込む「鉛筆型」のガガブタ、切れ込みを両脇から包み込むトチカガミ、です。しかしこれも「生長段階のある場合の姿」なので、他の多くの葉を見て判断することが必要です。画像では葉の色も三者三様に見えますが、これまた日照やら栄養状態やら成長段階やらで「紛れ」がありますので確実な同定ポイントには成り得ません。

◇さらに難解◇

どう見ても同じにしか見えない浮葉、ヒルムシログループ。このグループで自生を見たことがあるのは3種類ですが、経験則(笑)である程度判断が出来ます。経験則とは生えている場所によって概ね種を特定できることです。
・平野部のため池など ヒルムシロ
・山間部、腐植酸性の沼 フトヒルムシロ
・浮葉の下の沈水葉が線型 オヒルムシロ

とりあえず画像上げますが、はっきり言ってどこがどう違うのか分かりません。以前フトヒルムシロとヒルムシロを育てていた際にはフトヒルムシロより「太い」ヒルムシロの葉を普通に見ていました(汗)。見る人が見れば分かるのかも知れませんが、見る人が果たして存在するのか、と云うほど同定が困難であると思います。
この仲間にはホソバミズヒキモとコバノヒルムシロのように、開花しないと絶望的に同定が困難である種も存在します。幸か不幸かコバノヒルムシロは絶滅寸前で滅多に見られないので多くの場合はホソバミズヒキモであると思われますが。

ヒルムシロ
ヒルムシロ科ヒルムシロ属
オヒルムシロ
ヒルムシロ科ヒルムシロ属
フトヒルムシロ
ヒルムシロ科ヒルムシロ属
関東の平野部ではほぼこれ 水中に線型の沈水葉を持つ 山間の腐植酸性湖沼に特有

◇その他の浮葉◇

浮葉を形成する植物は他にも池自体に蓋をするような爆発ぶりを誇るヒシ、絶滅危惧種のヒシモドキ、デンジソウ、ジュンサイなどがあります。ヒシとヒシモドキは印象がかなり異なるので間違いようも無いと思いますが、デンジソウはホームセンターで最近よく見る「ウォータークローバー」なる植物(ナンゴクデンジソウか?)の逸出があるようですので留意が必要。ただしこちらは抽水葉のみで浮葉は形成しない模様なので浮葉が出ていればデンジソウと判定できると思います。ジュンサイも基本形はアサザやガガブタと同じですが、葉に切れ込みがないので判定が容易です。

ヒシ
ヒシ科ヒシ属
ジュンサイ
ハゴロモモ科ジュンサイ属
デンジソウ
デンジソウ科デンジソウ属
形は独特だが普通種、オニビシやコオニビシなど近似種もあるが稀 浮葉に切れ込みがない 水深がある場所では浮葉となる。葉形は抽水葉と同様
オグラコウホネ
スイレン科コウホネ属
ヒシモドキ
ゴマ科ヒシモドキ属
ミズキンバイ
アカバナ科チョウジタデ属
他のコウホネと異なり抽水葉を付けない。浮葉は大型 放射状のヒシと異なり直進する 浮葉は茎と一緒に直進する
ヒツジグサ
スイレン科スイレン属
マルバオモダカ
オモダカ科マルバオモダカ属
オニバス
スイレン科オニバス属
円形、睡蓮のイメージに最も近い 独特の葉脈。抽水葉も形成する 巨大、棘、誰が見ても一目で分かる

ビオトープに浮葉植物があると涼しげですし、事実真夏の太陽で上昇する水温を抑える効果もあります。完全に蓋をされると沈水植物が同居できませんので、適当に間引きながら育成してみては如何でしょうか。どこかからアマガエルがやって来て「ちょこん」と乗るかも知れませんよ。

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