Field note of personal impression of wetland plant


【第五話】シソクサ輪生の謎

公開 2005.5.14
追記 2007.2.4
追記 2007.12.23

◇対生?輪生?◇

以前藻草さんのサイトで話題になったネタなのですが、シソクサの水中葉の形態について。
シソクサはどういう訳か私の水槽では輪生します。ところが同じ株から枝分かれした増殖株を何名かの方にお送りしたところ対生に戻ってしまったようなのです。以前藻草さんにお送りしたものも対生のようですし(こちらに画像があります)最近「水辺伝言板」でHOUさんからもそのようなお話がありました。
もちろんお二方とも育成技術、経験とも凄い方なので技術や設備など単純な要因ではありません。なにか他の決定的な要因があるに違いありません。
私としては対生のさわやか系の草姿の方が好きです。後景から前景にかけて段差をつけて植栽するにはちょうど良い水草です。シソクサを使ったダッチなんて考えるだけで素敵じゃないですか(笑)。レイアウト的には輪生してしまうとスポット植えぐらいしか利用価値が無いからです。

ちなみに最近よく入荷するようになったベトナムやタイのシソクサは経験上では対生のものが多いようです。元々根が同じ「史前帰化種」と考えられているシソクサ(日本)ですが、日本の気候や風土に馴化する過程で輪生に至る何らかの形質を獲得したのかも知れません。

◇肥料か光か◇

どちらにしても何故こうなるか、という事が不思議です。環境の良し悪しでもなく(事実対生のものも健康的に増殖しています)もともと同じ株でもこの違いが出てしまいます。
経験値から言えば水草が草体を変化(水面近くの異形葉などは除き)させるのは肥料、特に多量元素と光量だと分かっていましたので、藻草さんの掲示板で話題になった時には私の環境として12000Kの光源とアクアフローラを「必殺技」としてご紹介いたしました。
光量と植物が生育に必要な波長を含む光源、多量元素と微量元素が豊富に含まれた肥料はシソクサに限らず水草には効果があるものです。経験値としてミズネコノオ、ヒルムシロ科などの水槽育成に於いて効果のあったこの方法論がシソクサにもフィットしたのでしょう。

ただ、これだけでは無かったようです。藻草さん、HOUさんお二方と私の水槽には底床という違いがありました。大磯から溶け出すミネラルが輪生のスイッチになっているのではないか、という推論です。光源を強化し、アクアフローラを施肥して大磯底床で育成すれば必ず輪生するかというと確証はありませんが(汗)。
少なくとも私の大磯水槽にはミネラル豊富なようです。10年物大磯で毎日CO2を添加していますのでCaの湧出はほぼ無いはずですが、換水間に突然KHの高下が見られますので砂中に含まれていたMgの溶け出しではないか、と考えています。
余談は続きますが、順調に育っていた水草がある日突然頭頂部の色が落ちて溶ける、という現象がたまに見られます。現象が要素障害にあるのであればマグネシウム過剰症に非常に近い動きなので、ますますその思いは強くなっています。ただしMgイオンの推移を直接測定する術がありませんのであくまで推論です。

◇自生株入手◇

ちょっと脱線しました。ついでにもっと脱線します。(^^ゞ
シソクサは2年程前までは見つかりませんでした。近所は開けた大規模な水田地帯ということもあってヘリで農薬の空中散布を行っていましたのでアゼナ一本無い、綺麗な水田でした。中止になって2年、色々な草が見られるようになりシソクサも自生株を入手出来るようになりました。
この空中散布というのは凄い話で、風向きによっては住宅街にも薬剤が流れて来ますし何より水田を貫く道路が小学生の通学路になっています。今まで人的な被害も出ているのによくも最近まで続けたものだ、と。何回でも書きますが農業生産性としての農薬の使用は否定しません。しかし使用量の激減が米の政策によるもの、と言う事実は複雑な思いがあります。
思いは別として、結果的に色々な植物が見られるようになったのは喜ばしいことで、なかでもシソクサは非常に嬉しく、興奮しました。最初に水草として意識したのはIFCで水中葉で販売していたからで、かの高城さんから購入させて頂きました。
近所にミゾハコベやキカシグサなどが復活してきた事で、もしやと思い探してみたところ複数箇所で見つかり、最後は自宅から30秒の距離の水田で発見。すっかり普通の草になってしまいました。

【少しまとめ】
水田雑草の多くは水中育成出来ますが、確実に水中葉と呼べるようなものは意外と少なく「異形葉」と呼ぶべきなのでしょうね。チョウジタデとかキカシグサの水中の姿を見ているとそう思います。
そんななかでシソクサは輪生した時の水中葉が水流にたなびきます。完全な水草になります。機会があればぜひお楽しみ下さい。
ポイントと言うか経験値ですが、光量、肥料(底床肥料、アクアフローラ、マグァンプKなど)は多め、そして、ある程度の硬度(我が家の水槽では平均KH2前後)が必要なようです。イオン交換でMg、Caを交換するソイル底床は向かない草もある、ということです。
同じ水田雑草系ではミズネコノオ、キクモなどが同じ傾向にあり、逆にミズマツバなどは軟水環境が良い結果をもたらすようで同じ水田環境に自生する植物でも水中に入ると様々なお好みがあって興味深いところです。


【2年間の進歩】2007年2月追記
今このテキストを改めて読んでみると、2年前は植物を「アクアリウム的」に考えていた部分が大きかったんだなぁと思います。
アクアリウム的とは、植物を肥料や光や水質の面から捉え(育成する、という命題がある以上仕方がないのですが)環境や来歴を考えなければならない生態学的テーマに対しても同じアプローチを行なってしまうことです。
従って、このテキストは「痒くないところを掻いている」と思います。余程全部書き直そうかと思いましたが自分に対する戒めとして原文のまま残しておきます。

エピジェネティクスという考え方は本当に優れた成果で、フィールドで体験する植物の不思議な現象もこのアプローチですんなり理解出来ることが多いと思います。
シソクサに当てはめてみれば、肥料や光、硬度といった今まで「主題」と考えていた要素は単なる「因子」で(環境因子、と言います)、もともと持っていたリムノフィラの多様な遺伝子が発現したため、と理解できます。一行で済む話です。
生涯学習、どこまで生涯が続くか神のみぞ知る状態ですが、新たな知識に関し貪欲でありたいと思います。


【3年間の進歩】2007年12月追記
3年目は更に深淵に踏み込んでしまいます。水中型とも呼ぶべき草姿への変貌がメチル基の付いた獲得形質であるとする考え方は変わりませんが、獲得して来た過程と毎度の話ですが「進化の方向性」についての追記です。

(1)これまでの状況整理
a.自然下でのシソクサの生活史
a-1 乾田に発生する。発生時には湛水されているがこの状況で輪生葉の水中適応型になることはない
a-2 中干し以降開花・結実まで多少の湿り気があれば陸上植物と同じ環境で生育する
a-3 外見がら近似種または同種と思われる東南アジア産のシソクサ属植物は多年草である

b.加温環境での挙動
b-1 沈水葉と思われる異形葉を展開し水中適応型となる。この場合2通りに分かれるのは本文の通り
b-2 国産のシソクサは沈水葉となってもほぼ2〜3年以内に消滅、東南アジア産は比較的長期維持が可能

(2)生活史と挙動から見た推論
c 多年草→一年草を進化とする考え方を正とした場合、多年草の遺伝子のみを持っているシソクサ(東南アジア産)、多年草の遺伝子に鍵がかかり一年草の遺伝子を発現させるシソクサ(国産)がある。
d 水中適応能力は等しく持っておりメチル基の鍵はかかっていない。かかっているのは、より水中依存度が高かった思われる進化過程の輪生葉である

cはa-3及びb-1によって容易に推測可能ですが、dの後半部、つまり輪生の姿がより「水草」に近く対生のものが「上陸する準備過程」だとする推論には異論もあるでしょう。私はここで、a-1、a-2のいわば「水田のサイクル」または日本の気候風土に合った生活史に進化する過程で一年草、水中依存度の低下という形質の獲得もしているのではないか、と考えているのです。どちらの方向を向いているのか、当然ながら陸上です。つまりシソクサの進化の方向性は再上陸ではないか、と考えているのです。くどいようですが異論は排除しません。

本題に付いても再考してみました。前回「肥料や光、硬度といった今まで「主題」と考えていた要素は単なる「因子」」ではないか、と書きましたが本件に関してはこれらも環境因子ではないと考えるようになりました。
似たような環境で水道水水源も同じ近隣の方に育成して頂いたところ、水槽内で対生となったからです。これに付いてはまだ推論レベルでも固まっていませんが、想像レベルでは候補があります。アクアリウムの概念ではなく酸化と還元に関する「因子」です。また詳しくお話する機会もあると思いますが、今回はこのあたりで。

Field note of personal impression of wetland plant
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