Field note of personal impression of wetland plant


【第八話】イヌタデ属水中育成

公開 2005.7.30
追記 2005.10.1
追記 2007.8.4

◇イヌタデ属の不思議◇

タデ科イヌタデ属、田んぼや里山を歩いていると多くの種を目にすることができます。開花期以外は普通の雑草なので区別がつきにくいものも多いのですが、開花すると本当に綺麗なものもあります。今回は花の話ではなく水槽で「水草」として育つかどうか、という話です。
と、偉そうに書いていますが数年前まではこんな雑草が水中化するなど夢にも思っていませんでした。藻草さんのサイトを拝見して初めて知りました。(^^ゞ藻草さんのサイトの図鑑で扱っておられたのはサクラタデ、シロバナサクラタデ、ホソバノウナギツカミで、どれも見事な水中葉になっていました。何かの折に水中葉を頂いて自分でも育成してみましたが、大磯、CO2添加水槽でそれほど困難ではなく生育しました。
「そうか、タデは水中化するんだ!」と思い、自分でも色々なタデ科を水槽に入れてみました。実はこの手の実験は非常に好きです。結果についてはごく限られた環境下の話なので必ずしも一般化できるとは考えていませんが、それなりにレポートしてみたいと思います。

さて、その結果順調に水中で生育するシロバナサクラタデ等を尻目に水上葉を展開しつつ水面を目指すグループ、踏ん張れずに溶けてしまうグループがあることが分かりました。前者はミゾソバ、イヌタデ、アキノウナギツカミなど、後者はヤノネグサ、ヤナギタデなどです。ミゾソバは家の周辺では用水路中などに多く、シロバナサクラタデより水気が好きな植物だと考えていたので意外でした。
同じイヌタデ属で水中適応可能なもの、不可能なものがあるのは何故か?一言「水中適応のDNAがあるからだ」と言ってしまえば終わる話でしょうが、それが正としてもなぜ水中適応DNAを持つに至ったか、という話です。
私自身は進化論や植物生理学の専門家ではありませんが、直観力に優れています(笑)。直感的にこれは植物の「やる気」だなと思いました。「やる気」というのは水から上がってきつつある植物なのか(乾燥耐性を身に付けつつある)、完全に水に入る過程にある植物なのかという区分です。これによって水中で行けるかどうか、という事が決るのかな?と。
水辺の植物で私的には最も謎の植物ミソハギ。ホソバヒメミソハギやヒメミソハギが乾地ではすぐ枯れてしまうのに比べ、庭植えでも十分に繁茂できるしぶとさ。これはミソハギが水から上がって時間が経過しているためか、という発想です。言ってみれば「怪しい進化論」のコア、進化の方向性なわけですが(汗)。

【イヌタデ属学名表記について】

私が把握している情報レベルの話。(当記事での学名表記の根拠)
以前、タデ科全属がPolygonumと呼ばれていた時代があり「イヌタデ属」のみがPolygonumとして呼称された時期はない。Polygonumは現学名ではタデ科ミチヤナギ属である。
属名植物イヌタデの現学名はPersicaria longiseta (De Bruyn) Kitag.で、旧学名はPolygonum longisetum (De Brun) Kitag.、他のイヌタデ属もほとんどこの法則が当てはまる。いまだにPolygonumが使われているのはこの名残と、属名表記の際にP.と略されることが多いためではないか、と考えている。


【水中適応と進化論の結び付き】

まったくの個人的な意見であって、どこかに落ちている理論ではない。見たままの印象を語っている話。「進化の方向性」に疑問がある方はタデ科に限らず何でも良いので進化系統図を眺めてみて欲しい。同じような特性を持つグループに至る道筋に方向性が見えると思うが、この感覚だとご理解願いたい。


◇サクラタデとシロバナサクラタデ◇

両種とも自生環境は似たようなものでやや湿り気のある畦道や用水路際です。完全に水没している株は見当たりません。草姿も似たようなものなので開花しないと区別がつきません。
しかし、水槽に沈めるとやや違う挙動となります。シロバナサクラタデ(画像)は直後からかなり小ぶりな厚みのある水中葉を展開し、姿の良い水草となります。サクラタデも一応水中展開しますが、私は長期維持できた事がありません。差し戻し後の光量不足なのか、ピンチカット後の新芽展開のエネルギー不足なのかトリミング後にダメージを受けて枯死する場合が多いように感じます。また突然調子を崩すこともあり肥料不足に陥っているのかも。
一言で言えばサクラタデは条件がきついと思います。同じ自生環境、開花しないと区別できない草姿、それでも水槽に入れるとこれだけの違いが出てきます。シロバナの方は多少の光量、肥料不足は乗り越えて成長してきますので、余程水中方向に「やる気」があるものと思われます。
両者とも多年草なのですが開花・結実後は晩秋に地上部が枯れ、種子と根で越冬します。加温水槽では水温変化に影響されず、1年中水草として生育するのも不思議な話ですね。短日かけても水中葉では開花のしようが無いから!?興味の尽きない植物です。

◇行けそうなやつ程◇

冒頭で触れたミゾソバやヤノネグサ、意外と難物です。サクラタデなどより余程水っぽいところにあるのですが、水中に馴染みにくい草のようです。
ミゾソバは葉の形状が面白く、別名「ウシノヒタイ」と呼ばれるように正面のヴューが牛の顔に見えます。こんな面白い葉が水中化すれば素敵なのですが、必死に茎や新芽を伸ばして水面を目指し、下葉はどんどん溶けていきます。挙動からするとあきらめて水草になるようには思えません。
ヤノネグサも似たような動きですが、成長や下葉の溶けもやや緩慢なため水草っぽい雰囲気が出ないわけでは無いのですが、完全水中葉、と確信を持てる異形葉は見たことがありません。長年水槽で維持しておられるしんぺーさんから水中葉と思われる株を頂戴したことがありましたが、速攻で溶けました(^^;溶けた事で水中葉だったかな、と予想が出来ました(汗)。
どちらにしても通常の環境では難物で、しんぺーさんのように技術がある方なら可能かも。2005年に採集したヤノネグサ(forma?)は私の水槽でも維持出来ていますので別種の可能性もありますが、変異が多いため花以外に目ぼしい同定ポイントが無い草が多いですね。(半ば言訳)


【新たな可能性、サデクサ】2007.8.4加筆

ホソバノウナギツカミに似て葉に耳があり、水田地帯では見たことがなく自然度の高い湿地で稀に見かけるサデクサ(Persicaria maackiana (Regel) Nakai)ですが、一時的(約1ヶ月程)に水槽育成を行った際には僅かに成長し、馴化したと思われる挙動も確認しています。完全な水中葉かどうかは分かりませんが、昼間葉裏に気泡を付けていましたので光合成を行った形跡と考えています。
なぜ長期的に観察を続けなかったかと言うと、体力的に維持できなくなってしまったので水槽育成そのものを止めてしまったからです。私の印象では◎ですが、兆候のみ確認ということで一覧表には△で追記させて頂きます。ちなみに採集時に某ショップにも1株置いてきましたが、1年間生き延びていますので「水中OK」でも良いかも知れません。ただしホソバノウナギツカミのように顕著な異形葉ではなく矮小化した葉をゆっくり展開するだけのようです。(環境はCO2添加、ソイル)
ちなみに「耳のある細葉のタデ」ホソバノウナギツカミとの相違点ですが、サデクサは棘が多く葉の耳の開きが広いというポイントがあります。また決定的な部分としてサデクサはかなり目立つ王冠状でギザギザの托葉鞘を持っています。湿地依存度が高いという点は変わりありません。ホソバノウナギツカミは自生を見たことがありませんが、場所によっては混生もあるかも知れません。

どうやって撮ったか記憶が定かではない駄目写真ですが、かろうじて特徴的な耳が確認できるサデクサの水中育成画像です。
葉裏には気泡を付けていましたので水中で光合成を行っている=水中からCO2を調達している、ということになります。また葉がハレーションを起こしているのはクチクラによるものかも知れませんが、これはかなりの長期間水中で馴化したシロバナサクラタデでも起きる現象で、クチクラが残っているから水中葉ではない、という見方は出来ないと思います。
そもそも水中葉(沈水葉、が生態学的、植物生理学的には一般的)の定義というものがおぼろげで、クチクラの有無、CO2や栄養素の調達の有無は私が知る限り沈水葉の定義として規定もされておりません。
アクアリウムプランツとして気中葉、沈水葉の形状が明らかに異なるものは多々ありますが逆にアヌビアスなどほぼ見かけは同じ、というものもあります。(種によって見ることの出来る植物体ストレスによるアントシアンの増加による「赤み」は水中馴化の兆候から除く)


◇完全に行けるやつ◇

一方、水中生活大好き(かどうかは分かりませんが)で、明らかに水上葉とまったく形状が違う異形葉を出してすくすく育つタデがあります。
ホソバノウナギツカミと暫定ヤナギヌカボです。いつまで暫定か、と怒られそうですがまだ花が咲いていないので仕方がありません。花が咲いても仕方が無いかも知れませんが(爆)。
ホソバノウナギツカミ(滋賀県産藻草さん印)はやや光量不足に敏感で、ピンチカットで残す株が短すぎたりすると溶けることがありますが、基本的には新芽を出して水中でかなり殖えます。これ以上なのが暫定ヤナギヌカボ。ピンチカット、差し戻しどちらもOK、濃いピンクの水中葉を展開して増殖します。
どちらもそうそうある草ではないのですが万が一フィールドにあった時に見過ごさないように水上化してみました。ますます見過ごしそうな気がしてきました。地味〜です。(下の気中葉画像と比較をば)
アクア界にありがちな「ポリゴナムsp.」でも良いのですが、タデ科ひとつ見てもこれだけ役者が揃っているので、もう少し人気が出ても良いですよね。
ギシギシ属(Rumex)、ミチヤナギ属(Polygonum)、イタドリ属(Reynoutria)などにも水中育成できる種があるかも知れません。「誰もやっていない」研究テーマが吉です。あっという間に第一人者になれます。個人的には「青は藍より出でて藍より青し」のアイも研究してみたいと考えています。

◇おまけ◇

ホソバノウナギツカミ気中葉。基本的な葉形は沈水葉と変わりませんが、水中で見られるピンク系の発色は見られません。他の雑草と混生している場合、余程の僥倖がないと見つかりませんね(^^;
ちなみにピンクの発色、アントシアニン色素が目立つ状態は植物体がストレスを感じている状態と言われていますので、水中の光かCO2か、何らかの不足によりピンク色になっている、と考えれば納得できる挙動です。
水中でも斜行する性質が強くレイアウトでは使いにくい草ですが、水上ではさらに斜行し印象として他の植物に寄りかかって生育する草のような感じがします。藻草さんの画像を拝見するにイボクサのように「折り重なって、時には一部が立ち上がって」という感じですかね。
茎の逆棘はややまばらでとてもウナギを掴めそうには思えません。でも何となくロマンを感じさせる名称でとても気に入っています。

暫定ヤナギヌカボ水上葉。こちらも基本的な葉形は沈水葉と変わりませんが、こちらも水中で見られる濃いピンク系の発色は見られません。それよりも葉の印象がまさに「ヤナギ」。これがヤナギヌカボである何よりの証拠と思いますが、以前「畦道にあって実がトウガラシ状」からチョウジタデをアゼトウガラシと間違えた野郎の言う事なので当てにならないことは言うまでもありません。
これも地味です。頂いた際に出ていた赤いハートマークの斑は褐色になってしまいました。一年草を無理に引っ張っているから?日当たりが悪かった?
泥に汚れたイヌタデやヤナギタデと混生していればもちろんスルーしてしまいそうです。ただ、イヌタデ属他種に比べるとややオリーブが強い色なのでイヌタデ属との比較であれば特定しやすいと思います。


正体不明へ加速】2005.10.1加筆

さて、暫定ヤナギヌカボが開花しました。花穂はイヌタデタイプ、Webの情報、画像と照合するとヤナギヌカボ、サイゴクヌカボとは全く違う植物であることが判明しました。さらに「ヌカボ」を名乗るヌカボタデとも花穂の形状が大幅に異なります。
牧野標本館タイプ標本データベースを調べているうちに非常に形状が似たタデを見つけました。ヒメタデです。亜種か変種か分かりませんが、アオヒメタデ(白花)の画像に雰囲気がそっくりです。
というわけで、暫定アオヒメタデと名乗りを変えますが、種子も含めて総合的に同定しないと最後まで何が何だか分かりません。タデ科は見た目ですぐに分かる種も多いのですが、ナガバノヤノネグサとかヌカボタデ系など普段見ていない種は本当に難しいですね。イヌタデやサクラタデ、ミゾソバなど見慣れている自分には「タデ科は形状が安定せず、種子まで総合して判断しないと同定が困難」との言葉(どこで見たか忘れましたが^^ゞ)がピンと来ませんでしたが、この事だったのですね。

一応の決着】2007.8.4加筆

暫定アオヒメタデですが、その後渡良瀬遊水地付近でアオヒメタデを採集する機会に恵まれました。気中葉の特徴的なオリーブ系の色、臙脂の斑がまったく暫定アオヒメタデ宮崎県産と同じで同一種であると断定しても良いと思います。
ただし、このアオヒメタデ自体が曲者でヒメタデの緑白花種(亜種)とされていますが、この分類自体かなり問題があって亜種以上の相違が見られるとの説が有力でアオヒメタデ自体の種としての存在がどうか、という話もあるようです。現状ではアオヒメタデということで図鑑の方にもそのような趣旨で掲載をさせて頂きました。


◇経験値的イヌタデ属水中適応表◇

名称 水中育成 備考
アイ 不明(育成経験なし)
アオヒメタデ(暫定) 赤みの強い非常に美しい水草になる。差し戻し、ピンチカットにも強く水草水槽で用いるのに最適
アキノウナギツカミ × 抽水での育成は可能。耳はあるが先端は丸く、やや草体、葉が大きい
アメリカサナエタデ 不明(育成経験なし)
アラゲタデ 不明(育成経験なし)
イシミカワ × 抽水でも水に倒れこんで枯れてしまう場合が多い。陸生のタデと思われる
イヌタデ × 抽水での育成は可能で自生もしているが、陸上でも繁茂する
ウナギツカミ 不明(育成経験なし)
エゾノミズタデ 育成経験は無いが自生形態からの想像、また水槽育成成功例を見たことがある
オオイヌタデ × 抽水での育成は可能。大型のタデであるが草体、花は見ごたえがない
オオケタデ × 経験上陸上植物の色が強いような気がする。抽水でも生育するかどうか疑問
オオネバリタデ 不明(育成経験なし)
オオベニタデ 不明(育成経験なし)
オオミゾソバ 不明(育成経験なし)
サイコクヌカボ 不明(育成経験なし)
サクラタデ 小型の水中葉をつけるが、光量は多めに。花が美しい植物なので水槽よりも外向き
サデクサ 水中での生長、光合成の兆候は確認。花はミゾソバ、ヤノネグサタイプ
サナエタデ × 抽水での育成は可能。「早苗」の名が示す通り春から開花する。花はイヌタデタイプ
シロバナサクラタデ 他の水草に無い雰囲気の水中葉をつける。トリミングにも強いが下葉は枯れて落ちやすい
タニソバ × 完全な陸上植物と思われる
ツルソバ × 完全な陸上植物と思われる
ナガバノウナギツカミ 不明(育成経験なし)。通販で本種(と呼称)水中葉を販売しているのを見たことがある
ナガバノヤノネグサ 不明(育成経験なし)
ナツノウナギツカミ 不明(育成経験なし)。通販で本種(と呼称)水中葉を販売しているのを見たことがある
ニオイタデ × 抽水では何とか生育するが、根元を水没させるともたない
ヌカボタデ 不明(育成経験なし)
ネバリタデ 不明(育成経験なし)
ハナタデ 不明(育成経験なし)
ハリタデ 不明(育成経験なし)
ハルタデ 不明(育成経験なし)
ヒメタデ 不明(育成経験なし)判明した事情から水中適応の可能性は強いと思う
ヒメツルソバ 不明(育成経験なし)
ホソバイヌタデ 不明(育成経験なし)
ホソバタデ 不明(育成経験なし)
ホソバノウナギツカミ 耳のある水中葉をつける。斜めに成長しやすい。トリミングにも強いが光量不足に注意
ホソバハナタデ 不明(育成経験なし)
ホンタデ =ヤナギタデ
ボントクタデ × 抽水での育成は可能だが湿地でも水中から生えている姿は見たことがない。陸上寄りと思われる
ママコノシリヌグイ × 抽水での育成は可能だが本来乾地性で山地でも見かける。棘が意外に危険なので注意
ミゾソバ × 一時的に水中で成長するが、沈水葉は展開しない。独特の葉形が好ましい</td>
ミヤマタニソバ × 完全な陸上植物と思われる
ヤナギタデ 低水温湧水環境で水中葉確認。水槽では長期維持困難。花は地味で花序にまばらに付く
ヤナギヌカボ 水中化するらしい(自生環境でも)が未確認
ヤノネグサ 水中葉を出しにくいが環境によっては水中化するらしい。切型の独特の葉形で面白い
*情報は随時追加中(最終更新 2007-8-4)

Field note of personal impression of wetland plant
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