水辺植物育成入門第三部 植物編

chapter6 植物


私個人の考え方なので押し付けるつもりも強調するつもりもありませんが、法的枠組み以外の部分で、外来種なら逸出の危険、国産種なら遺伝子の地域性という理由で、極力自分で、自宅周辺で採集した植物を使用するようにしています。
外国産の水草を水上化させてどんな花が咲くのか、という知的好奇心も分からないでもないのですが、それを容認するには多くの事例を見過ぎてしまった経験があります。危険性の認識共有という事は重要な見識であると思います。くどいようですが。
実はそんな難しいことを考えなくても水田や川の無い都道府県はありませんので、意外に身近にある植物でビオトープを楽しむことが出来ます。買ったり送料かけて送って貰ったり、というのは最後の手段で。

さて、植物の選定時に考えなければならないことがあり、一年草か多年草かという事は最低抑えておく必要があります。
多年草であれば根茎は冬でも残りますので環境さえ残せばまた発芽してきます。ところが一年草は種子となって越冬しますので、種類によっては採種しておかなければならなかったり、発芽できる環境を考えてやる必要が出て来ます。私の自宅周辺、徒歩圏で採れる水生植物を中心に分類してみました。

【多年生水生植物(代表10種)】
標準和名 特徴 画像
アカバナ 主に放棄水田で見られる湿地植物。アカバナだが赤い花が咲くわけではなく、秋が深まるころ草体全体が赤くなることによる名称。小さな花だがよく見ると意外に綺麗で我が家の雑草ビオトープでは家族の評価が高い。
水没させても水中化することはない。自生地では抽水ですらなく、湿った地面に生えている
アサザ 今や霞ヶ浦浄化のシンボルになっている植物だが、意外に身近に自生していたりする。花は文句なく綺麗で我が家ではビオトープが市民権を得ている理由にもなっている。霞ヶ浦ではアサザ基金が植栽するものがほとんどなので採集は控えたい。小さなため池などにも意外に生き残って繁茂している場合が多い
エビモ かなり汚染が進んだ用水路やため池でも見られる最も一般的なヒルムシロ科の沈水植物。反面育成は難しく、夏場に殖芽となる上に、水量の大きな環境を用意しないと世代交代が難しい。自生地の状況から他植物の有無、pH、導電率といった画一的な理由で生育が阻まれているわけではないことだけは断言できる
サクラタデ 水槽でも水中化できる利用価値の高いポリゴヌム。イヌタデ属では最大の花を付け、色、形とも桜に似た観賞価値の高い水生植物である。池袋某プロ野球球団を持っている百貨店屋上の園芸売場で園芸植物として販売しているのを見たことがある。その辺りの雑草としてはスター級
ササバモ エビモと同程度に一般的なヒルムシロ科の大型種。本種とガシャモクが交雑したものがインバモであるが、命名の元になった印旛沼にはすでにガシャモク、インバモともに無くササバモが僅かに残る状態となっている。非常に長く伸び、流水産で2m近いものを見たことがある。
シロバナサクラタデ 水槽でも水中化できる利用価値の高いポリゴヌム。秋に白い小さな桜型の花を花序に多数付ける。湿地では群生するので見付けやすい。が、地下茎を張り巡らして春にはそこら中から発芽するのである程度の間引きが必要となる
水田の畦際、放棄水田、用水路斜面、時には乾地にも進出している、分布が広い植物
タコノアシ まさにネーミング通り、タコをひっくり返したような花穂を付ける面白い植物。秋になると紅葉と言うべきか、葉のみならず茎まで真っ赤になる。自宅周辺では1ヶ所自生地を確認しているが、各地で減少しているようで環境省RDBに記載されている
ヌマトラノオ 非常に美しい花を咲かせるサクラソウ科の多年生湿地植物。この種も文句なく美しい。陸生の近似種オカトラノオという種もあるが、ヌマトラノオの花穂は直立、オカトラノオは垂れ下がる。近隣の自生地では抽水状態となることはなく地下水位のある沼地の岸辺に生えている
ハッカ 見掛けは単なる雑草であるが、近づくだけで芳香を感じる癒し系水生植物。花も可愛らしく個人的にはお気に入り。四角柱の茎、アロマ、まさにシソ科植物を代表する草。一説では水中化するという話もあるが未確認。主に水田の畦、用水路際などにまとまって生えている。
ミズトラノオ 水草としても流通しているシソ科の多年生湿地植物。水草としては非常に地味な存在であるが、花は紫色の幻想的なもので、多数が同時に開花すると感動的である。雑草然とした草姿が災いするのか、保護対象、絶滅危惧種としての認識は一般的に薄いようで近場の自生湿地も喪失した。

続いて一年生植物ですが、採種と種蒔きに注意が必要な種があり、開花・結実時期の見極めが重要です。勝手に落ちたところから生えてくる種もありますが、基本的にはそれなりの管理が必要となります。
【一年生水生植物(代表10種)】
標準和名 特徴 画像
アゼナ 水田であればほぼどこにでもある普通種。リンデルニアであり、やや難易度は高いが立派な水草になる。近似種かつ帰化種のタケトアゼナ、アメリカアゼナも同様。基本的には放置で良く、水深のある場所に種子が落下しても翌年にはしぶとく発芽し、そのまま水中化した例も経験している
イチョウウキゴケ 近隣の水田では普通に見られるが全国的には減少している模様。こんな特徴的な面白いウキクサをビオトープに利用しない手はない。水が落ちた水田では黒い根(鱗片)で地面にへばりついている。苔類なので結実はしない、放置で良いが降雨で睡蓮鉢が増水した際の流失に注意が必要。(苔類なので「一年草」という分類は相応しくありません)
キクモ アンブリアである。沈水状態でも抽水でも育成することが出来る。花は小さいが多数が一度に開花するとなかなか綺麗。基本的には放置で好きなようにさせれば勝手に世代交代する。近隣では無い水田の方が珍しいほど普遍的な水草なので探せば見つかる確率は高いと思う
コナギ 水田稲作上は強害草であるが、晩夏に印象的な青い花を付ける美しい草。希少種ミズアオイの近縁であるが自生は圧倒的に多い。蔓延るので広い育成環境が必要となる
サンショウモ 山椒の葉(複葉)状の面白い形をした浮草。これは掛け値なしの絶滅危惧種で地元県内でも3箇所でしか発見していない。生育は旺盛で株の分裂によって盛んに殖え、油断すると水面を覆い尽くされてしまう。この種は放置で世代交代するので特別な手当ては必要ない
チョウジタデ タデを名乗るがタデ科植物ではなくアカバナ科、すなわちルドウィジアである。残念ながら水中化することはないので秋に赤く色付く草体やルドウィジア特有の美しい黄花を観賞する用い方となる。水田では一般的で入手も容易だが葉を食害されやすいようで様々な虫が付く。水深があると発芽しないようなので結実後採種し、春に浅水部分を選んで撒くようにする
ヒロハイヌノヒゲ 入手容易なホシクサ科の中型種。ホシクサとは発生期から葉幅が異なるので見分けは容易。ホシクサの白い小さな頭花に対しやや大型、褐色の頭花を付ける。抽水というよりも湿った地面が好きなようなので、水深が深い場合は植木鉢に植えて湿り気だけを確保するようにする。種は採種が基本で、耐乾燥性もあるので保管も出来る
ミズネコノオ 無農薬、減農薬の水田で見られる希少種。水槽で水中化した印象と異なり気中では非常に地味で経験を積まないと見分けも困難であると思う。稲刈後の水田でピンクの土筆のようにポツポツと開花している姿を見かける。採種は基本で、発芽は湿った地面という特殊環境が必要
ミゾハコベ 日当たりの良い水田畦際でシャジクモとともに田面を埋め尽くしている姿をみかける。育成環境も特殊で、水切れしない、浅い水域を確保するという睡蓮鉢の育成では困難な環境を要求される。ホシクサなどと同様、鉢植えにして水位を調整することで対応するようにする。採種が有効だと思うが果実が小さすぎて困難
ヤナギタデ この種の栽培品種が「ホンタデ」で食用となる有用植物。自生のものも葉を噛んでみるとピリッと辛い。湧水起源の河川で赤みの強い沈水葉となっているのを見たことがあるが、大概は陸上やや湿った地面に生えている。
(*)植物の元画像、詳細解説は当サイトの「水辺の植物図鑑」にあります。検索はこちらからどうぞ。

植物の組み合わせですが、水槽のレイアウトとは異なり、維持の基本(放置なのか、採種か)を抑えておけば、単に好きだから、花の色の組み合わせが綺麗だから、という理由で構成しても何ら問題はありません。フィルターやヒーターが無く光も太陽まかせということで簡単ですが、その分発想は自由です。
睡蓮鉢で始めた場合、40cm程度の直径のものでも広大なイメージがあり、あれもこれも植栽してしまいがちですが、育って殖えた場合の配慮が無いと持て余してしまいます。終いにはメダカが泳ぐスペースも無い有様となり、競合に負ける植物も出てきますので余裕を持って植物を選択しましょう。
また、ホテイアオイは他種に対する排他的な物質(アレロパシー)を分泌するという話もあります。多種類を同時に育成する場合、このようなヤバげな植物は避けた方が賢明なようです。

Episode 嫌気土壌


たまにご質問頂く話ですが、睡蓮鉢の底土がドブ臭いが植物の生長に影響が無いのか、という点に付いて。
ドブ臭いのは嫌気状態で好気性のバクテリアが機能していない状態に他なりませんが、これは水槽の理屈がそのまま当てはまらない部分でもあります。結論を言えば「問題なし」で水草が調子良く生長している睡蓮鉢でも底土を触るとドブ臭さがあります。少し深く考えてみます。

嫌気での主な害は還元鉄(二価鉄)やガスによる発根の抑制です。(一般的な根のある)植物は発根出来なければ生長出来ません。この点をクリアーするために植物体は活動開始と同時に酸素呼吸を行い、根の部位に酸素を送り続けます。根の周囲を好気的にしているのです。この動きによって還元鉄が比較的無害な酸化鉄になったり鉄バクテリアを呼び寄せたりして防衛を行うわけです。
言い方を変えれば、根が張って行く部分は自動的に機能するようになりますので何ら問題はありません。事実睡蓮鉢の用土を交換する際など非常にドブ臭く、用土中にはグレーがかった粘土状の塊(グライ)があったりしますが、それが原因で植物が生長しないということはありません。

水そのものが嫌気(死に水、水が腐る)ではこれも不可能ですが、実はそんな環境でもウリカワやヒルムシロは育ってきます。これは酸素呼吸の重要な目的、生長エネルギーの確保を植物体内のアルコール発酵によって代替しているからだそうです。このような特性を「嫌気耐性」と呼ぶことがありますが、通常の植物をディーゼル推進で定期的に浮上、空気の入れ替えが必要な潜水艦とするとウリカワやヒルムシロは原潜ですね。
横道にそれましたが、ドブ臭い用土になっても問題なし、です。肥料の入れ過ぎなど別な要因で嫌気的になるのは問題です。還元鉄よりもダメージが大きいメタンなどのガスが発生しますので。

Episode 流れ藻にも深い意味


湖沼での水草の密度を推し量る術として、沿岸に水草の切れ端が打ち上げられているかどうかを調べる、という方法があります。
この切れ端は「流れ藻」「切れ藻」などと呼ばれていますが、千切れて朽ち果てて行くものではありません。それどころか水草の有力な無性生殖の手段となっているのです。もちろん打ち上げられたものの中には不運にもそのまま朽ち果てるものもあるでしょう。しかし本来は次の波で帰って行き、根をおろして新たな群落のパイオニアになるはずなのです。
非常に短期間に琵琶湖に広がってしまったオオカナダモは実は日本には雄株だけしか帰化しておりません。有性生殖(種子形成)は不可能ですが、流れ藻だけであれだけの繁茂がなされてしまったほどです。もはや「無性生殖の一手段」ではなく「版図拡大の主たる手段」とも言えるでしょう。
水草がこのような繁殖方法を行うようになった理由は分かりませんが、植物生理として分化全能性(一部の切れ端から根や茎、葉など各部位を再生する性質)を持っていますので合理的と言えなくもありません。

さて、このような事情ですので実は「水草を採集する」という点に於いて生えているものを引っこ抜くのも流れ藻を拾うのも本質的には何ら変わりません。水槽で水草を育てた事がある方なら「ピンチカット」とか「差し戻し」はご存知だと思いますが、これも人為的に流れ藻の状態を作り、分化全能性を利用していることに他ならないのです。
私自身は第一部に書いたように採集にネガティブイメージ、特に「絶滅」という言葉は結びつきませんので引っこ抜くのも拾うのも問題はないと考えていますが、採集に絶滅を絡めたネガティブイメージを持っていると思われる方からご自分の採集に関して「流れ藻を拾ったものなので・・」というお話がありましたので「そうじゃないよ」ということで書かせて頂きました。それだけの話ですが・・

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送